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感謝スキル発動!
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その後、リンカは興奮が最高潮に達してしまったのか、鼻血を出して気絶してしまった。オレは一瞬驚いてしまったが、とりあえず、リンカの顔を拭いてから、彼女が目覚めるのを待った。
「す、すまねえ・・・旦那」
さっきとは違った意味で顔を赤くするリンカ。
まあ、元々ピンクの肌なので少しわかりづらいが・・・・。
「まあ、気にするな。リンカの恥ずかしいところを見るのはこれが最初じゃないしな」
オレがそう言うと、リンカは頬を膨らませながらムー!といった感じでオレの肩を叩いてきた。
そして、事後になってしまったがリンカにもオレの力のことを話すと、リンカはとりあえず、旦那が強いのはよくわかった!と明るく言うのだった。
オレ達は土を払ってから宿に戻ると、エリスが食堂でオレ達を迎えてくれた。
「おはよう。エリス」
「おはようございます。シュンさん、リンカ」
「おはよう姉さん!!」
リンカがかつてない笑顔でエリスに朝の挨拶をする。
「その様子だと上手くいったみたいね」
エリスが慈愛の眼差しでリンカを見て笑う。
「ありがとうございました!」
リンカの元気な声が響き渡る。オレはそれを聞きながらエリスが座るテーブルに近づくとエリスに声をかけた。
「リンカを恋人にして良かったの?」
「ええ、構いません。アーティも大丈夫のはずですよ」
「ちょっと意外だな」
「どうしてですか?」
エリスがオレを見上げながら首を傾げる。
「いや・・・、エリスって独占欲が強いのかなって思ってたから・・・」
「それは否定しませんね。けど、好きな人の近くにいるのに、その想いが届かない辛さもわかっちゃうんですよね」
そう言うエリスの表情は少し寂しげだったが、すぐに明るい表情になる。
「それに、私はシュンさんとの繋がりを強く感じることができますから」
エリスが腕輪をオレに見せるように上げる。
オレが以前あげた腕輪だが、その装飾は狐から狼へと変わっている。いや、狼に変わったことこそが、オレとの繋がりということなんだろう。
とはいえ、1人増えたら一緒にいる時間は減ってしまうだろう。それでも、リンカのことも放っておけなかったというのが何とも不器用なことで・・・。
オレは右手をエリスの左頬にそっと当てる。
「出来るだけ寂しくさせないようにするよ」
その言葉で安心したのか、エリスは目を瞑ってオレの手の暖かさを確かめるように自分の左手を添えて微笑んだ。
「はい。期待してますね」
その後リンカが物欲しそうな目で見ていたので、オレは苦笑してリンカの頭を撫でてあげるのだった。
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それからオレとリンカは体を拭いて、身綺麗な服装へと着替える。とはいえ、所詮冒険者の格好だ。
フーゴの屋敷へエリスとリンカの3人で歩いているが、リンカがチラチラとオレを見てくるのが気になる・・・。
「・・・どうかしたか?」
オレはその視線に耐えきれずリンカへと声をかけた。リンカは少し困ったような、はにかんだような顔になる。
「いやあ・・・、えへ、旦那と恋仲になったんだなって思ったら嬉しくてさ。近くにいると、どうしていいかわからなくなっちまって・・・」
「何だそれは・・・」
オレもどう反応していいかわからず前を向くと、横からエリスがリンカへ助言をする。
「リンカ、そういう時はこうやってひっつけばいいのよ」
そして、エリスがオレに腕を絡ませてきた。
「天才現る」
それを見たリンカもよくわからない発言をしつつ、すぐにオレと腕を組んでくる。
すると、気のせいか周りの男性から殺気の篭った視線を感じたが、気のせいだと思いたい・・・。
そうしてオレはフーゴの屋敷まで両手に花で歩くのだった。
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オレ達がフーゴの屋敷に着くとすぐに応接室へと通され、しばらくするとフーゴが姿を現した。
「やあシュン殿、久しぶりだね。この度は我が屋敷まで来てくれてありがとう」
そう言ってフーゴはにこやかな笑顔でオレに挨拶をしつつソファーへと座る。
オレ達がいる応接室は、大きな窓がある部屋で、仕立てのいいテーブルにソファー。そのソファーの一つにオレ達3人が座り、フーゴはテーブルを挟んだ対面に腰をおろしている。
「いえ、こちらこそお招きいただいてありがとうございます。エリスは以前お会いしたことがありますよね。こっちはリンカと言います」
オレはリンカを軽く紹介すると、リンカはぺこりとお辞儀をするのだった。
「これはまた美人だね。エリスさんにアーティさん、そしてリンカさんか。3人も相手がいるだなんてまるで貴族のようだね」
そう言ってフーゴは笑うのだが、それを言われたオレはただ苦笑するしかなかった。オレが苦笑したのを見て、エリスが話題を変えようとしてくれたのか、フーゴへと話しかけた。
「そういえば、エルゼ様はいらっしゃらないんですか?」
エルゼの名前を聞いたフーゴから笑みが消え、真剣な表情になる。
「エルゼは今ここにはいないんだ。そして、そのエルゼの件でシュン殿に力を借りたいと思い手紙を出した次第なんだよ」
オレはエルゼについてリンカに説明した。エルゼはフーゴの妹で、エリスの故郷へ行く途中、野盗に襲われているところをフーゴ共々助けたのだ。
その後、改めてフーゴから詳しい話を聞いた。
話はオレ達と別れてから、獣人の国フーファットの舞踏会へ行った時のこと。
フーゴとエルゼは招待された貴族へ挨拶をし、あとは踊りを楽しんでいたそうだ。その時エルゼが、カスパル=ベルタン辺境伯から踊りの誘いを受け踊った。
カスパル辺境伯は、ハンフリー領よりさらに東に行ったベルタンという町の領主ということだ。そして、そこでエルゼがカスパル辺境伯に気にいられ、嫁にこないかと言われたらしい。
ちなみに、カスパル辺境伯は45歳、エルゼは14歳。ロリコンどころの話じゃないな・・・。タイーホだよ。
さすがに年が離れすぎているということと、カスパル辺境伯の脂ぎった見た目がアウトだったらしく、丁重にお断りしたのだが、そこで問題が起きた。
フーゴも詳しくはわからないが、カスパル辺境伯が持っていた魔法袋をエルゼが預かっていたが、それが盗まれてしまったという。
そして、その魔法袋は先祖代々受け継がれたものだったらしく、カスパル辺境伯はたいそうオコだということだ。
そこで、魔法袋を弁償するかエルゼが嫁にくるのなら、この件は穏便に済ましてもいいと言っている。ただし、ハンフリー家の方針が固まるまで、エルゼはベルタン領で軟禁されている。
要は人質ということだな。
「それはまあ・・・、何と言うか、明らかに怪しくないですか・・・?」
「私もそう思うが、エルゼの話では、魔法袋を預かり、それを誰かに盗まれたことも事実らしい・・・」
「なるほど。ちなみに弁償というといくらなんですか?」
「金貨1000枚と言ってきている」
「金貨1000枚だって!?」
思わずリンカが声を張り上げる。
「それは高すぎる気がしますが・・・」
さらにエリスが喋り、その言葉にフーゴが反応し、疲れた表情を見せた。
「私もそう思うよ。ただ、先祖から受け継がれたもののため、本来ならお金で解決できるようなものじゃないと言ってきてね・・・」
「その魔法袋というのは、見たらわかるものなんですか?」
オレは気になったことをフーゴに聞いてみる。
「魔法袋にベルタンの家紋が入っているそうだよ」
「なるほど」
オレが納得するとフーゴはさらに事情を話してくれた。
フーゴの父や兄は、とてもじゃないが弁償できる金はなく、現状はエルゼを嫁がせることで話を収めようという考えらしい。
「私としても打つ手がなくてね・・・。このままだとエルゼがベルタン領へいくことになってしまう。しかし、それだとあまりにもエルゼが可哀想であるし、何より、カスパル伯は前から黒い噂が耐えない人でね・・・。そんな人へエルゼを嫁に出すなんてありえないよ」
フーゴは深くため息をつくとお茶を飲んで一息ついた。
「事情は大体わかりました。それで、オレを呼んだ理由を聞かせていただけますか?」
「そうだね・・・。今のところ私ができることが思いつかなくてね。あの野営の時に見たシュン殿の力、君ならなんとかできるんじゃないかと思って、藁にもすがる気持ちで手紙を出したんだ・・・」
そう言って力なく笑うフーゴ。それを見て呆然とするオレ。
何を言われるのかと思っていたら、まさかの丸投げかい・・・。




