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ようやくタイトル回収となります。
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エリスと別れ、オレは門まで走る。
門に着くまでの間、オレは亜空間から装備を取り出し、早着替えを行う。
そうして、門に着く頃には空は茜色に染まりつつあった。
「お、シュンじゃないか。どうした?」
「すまんな、おっちゃん。ちょっと外にでなきゃならんのよ。」
「今からか?そうすると、門を閉めちまうから、明日の朝まで入れんようになるぞ?」
「ああ、大丈夫だ。悪いけど、通してもらうわ。急ぎの依頼が入っちまってな。」
「冒険者ってやつは大変だな。わかった。まあ、無理するんじゃないぞ。」
「ああ、ありがとう。おっちゃん。」
門番のおっちゃんに挨拶をして、門を抜け街の外へでる。そして、嫌な感じがする森へ向かって走り出した。
急に感じるようになった、この嫌な気配。何故オレが感じれるのかってことだが、十中八九、オレの神の力が関係してるな。てことは、これから向かうのは神関係ってことかねえ。オレに力を押し付けた神は地球にいったはずだから、別の神ってことなんだろうな・・・。
非常にめんどくさい。しかし、放っておくわけにもいくまい。四六時中この嫌な感じが続くとストレスが半端ない。オレは心も生活も穏やかに暮らしていたいのだ。
しばらく走り続けていると森が見えてきた。
ん?何か嫌な気配が移動してる?てことは、生き物ってことか?しかも、森の外に向かってるな。これはまずいことになりそうだ。まさか、街に来るつもりだろうか。とりあえず、森に入らずに、この気配の向かう先へ行くことにしよう。
さらに、走り続けていると嫌な気配が濃くなってきた。そして、良くないことに先日メイアを送り届けた野営地が見えてきた。どうやら、この気配の主もそこへ向かっているらしい。
もしや、メイア達の気配を感じて向かっているということだろうか?憶測ばかりでなんとも言えんな。
そうして、野営地がもうすぐというところで、森から3人の鎧を着た騎士達と大きな狼が飛び出してきた。
「っく、ミヤ!テントの中にあるポーションを持って、ウルカとサーヤの元へ向かえ!こいつは、私とルーシェで抑える!!」
「わかった。回復してすぐ戻る。」
飛び出してきた3人は、メイア、ルーシェ、ミヤの3人だった。サーヤとウルカがいないということは、あの大きい狼にやられたのか?
メイアとルーシェが大きい狼に剣で攻撃を加え、大きい狼の気を引いている間に、ミヤがテントからポーションを持って森へ走っていった。ポーションを持っていくってことは、まだ2人とも生きてはいるんだな。しかし、大きい狼って語呂が悪いな、大狼と呼ぼう。
さて、残った2人は大狼に攻撃するが、あまりの速さに攻撃が全然当たっていない。
逆に、大狼の爪で鎧が傷だらけになっていってるな。オレも攻撃圏内に入ったことだし、手助けといこうか。
大狼がメイアへその爪を振り上げた瞬間を狙って、一気に首を狙い剣を突き立てる。
「メイア!助太刀する!!はあああああ!」
「シュン?どうしてここに?」
メイアは驚いているが、オレは大狼に意識を集中している。大狼へ突き刺さるかに見えた剣だが、大狼の毛皮が硬すぎて浅い傷をつけるだけだった。
「っち、硬すぎだろ。」
ひとまず、大狼と距離をとって2人の方をみる。オレが来る前にも大狼にやられたのだろう。そこかしこに傷はあるが無事みたいだ。
「メイアもルーシェも大丈夫そうだな。どうしてここにって聞かれたけど、嫌な感じがしたとしか言えん。それで、納得してくれ。」
「な、なんだそれは。よくわからんぞ。」
「貴様、適当なことを言うな!」
「今はそんな事をいってる場合じゃないだろ。ほら、来るぞ!注意しろ!」
オレ達が会話をするのが気に入らなかったのか、唸り声を上げて、向かってくる大狼。それを迎え撃つ為にオレは剣を構えた。
大狼は、まっすぐオレに向かって右の爪を振り下ろしてくる。オレはそれを剣で受けようとした瞬間に、大狼の姿が消えた。すると左から急に爪が飛んできた。そして、その爪を受け吹き飛んでしまう。
「シュン!!」
吹き飛ぶ瞬間に、なんとか剣を滑り込ませ、攻撃を防いだが、メイア達からだいぶ離れてしまったな。なんつー威力だ。剣にヒビが入っちまったぜ。
「大丈夫だ!なんとか防いだ!」
オレは予備の剣を、腰のポーチから取り出すフリをして亜空間から出して装備する。
しかし、今のは何だ?消えたと思ったら、急に左から爪の攻撃がきたぞ。
「気を付けろシュン。さっき喰らったように、こいつの攻撃は急に思いもしないところからくる。私達もそれで多くの傷を負ってしまったのだ・・・。」
うむ、そういうことは最初に言って欲しかったな。さてさて、どうしたものかな。こっちの攻撃はあまり効かないときたもんだ。
『我の攻撃を防ぐとは、そこの人間は少しはやるようだな。』
「ま、魔物が喋った!?」
「まさか、魔物が人の言葉を話すだと?」
ふむ、メイアにルーシェが驚いているな。まあ、オレも多少驚いてはいるが、喋る魔物がいても不思議ではないか。と、思うのはラノベを読んだりしてたからかな。
「へえ、喋れるとは驚いた。」
『我を他の魔物と一緒にしてもらっては困るな。我はこの森で多くの魔物を喰らい力を得たのだ。』
「魔物が魔物を食べて強くなるのは知ってるよ。森で暮らしてたこともあるんでね。けど、喋れるようになる魔物なんて見た事ないんだけどな。」
『それこそが、我が選ばれた証拠なのだ。我は神の声を聞いた。するとどうだ、さらに力が溢れ、知性が目覚めたのだ。そう、我は魔物から魔王獣へと進化したのだ』
はい、神確定。どこの神かしらんが、余計なことしやがって。しかも、急にペラペラ喋るじゃん。
「そいつはすごい。しかし、そんな事教えてもいいのか?」
『構わん。どうせ皆殺しにするのでな。それに、あっちの女共は弱すぎてつまらん。せっかく力を得たのだ。どれくらいの強さか試したかったが、あれでは、力試しにもならん。それに比べると、我の攻撃を防いだ貴様は良い。少しは楽しめそうだ。故に少し話でもしてやったまでよ』
「そいつは・・・、どーも!!」
剣を構え、無詠唱で生活魔法(極)の土系統の力を使い【土杭】を発動。オレが遠いと油断しているところへ、大狼の顎の下から、急速に地面が盛り上がり、その顎を撃ち抜いた。
『おご・・・・・。』
「油断大敵だぞ。オレが剣を使うから遠距離攻撃がないと思ったか?」
「おお!やるではないか、シュン。」
『っく、小癪なマネをしよって。』
オレの魔法じゃ、さすがに大狼を倒すことはできないな。しかし、ダメージは入っただろう。隙を見つけては魔法を当てていくしかないか。
と、思った時がオレにもありました。
『ふん、ならば、貴様が反応できない速度で動くまでよ!これが、我の最高速度だ!』
本気を出した大狼の速度にオレは全くついていけなかった。速すぎだろう。縦横無尽にオレへと爪が振るわれる。時には、体当たりがオレの背中を打つ。今のところ装備によって致命傷はないが、どこまで持つかわからんな。
メイアとルーシェがオレに声をかけているがよく聞き取れない。きっと2人にはオレがポンポンと跳ねてるように見えるんではなかろうか。
ていうか、痛い。そして、このクソ狼が調子に乗ってんじゃねえぞ。
「はあああああ!!」
オレは火を自分の周りに円を描くように放出する。獣故か、いきなりの行動に驚いたのか、大狼はオレから距離を取った。
『ふん、何かと思えば火を放っただけか。中々頑丈なようだが、我の速度にはついてこれないようだな。所詮は、矮小な人よ。』
「うるせえな。ボコボコ攻撃しやがって。お前が神から力をもらったって聞いた時点でさっさと本気を出すべきだったよ。次から、お前のような奴が現れたら瞬殺するようにする。」
『世迷言を言うではないか。』
「シュン!」
「おい、無理をするな。あとは我ら騎士団に任せて逃げろ!」
2人がこちらへ駆けてこようとするが、オレはそれを手で制する。
「悪いが2人がこっちにきても意味がないだろ。メイア達は、こいつの動きが見えたか?」
そう言われる、2人とも苦い顔をした。
「まあ、安心してくれ。すぐに終わらせるよ。」
『我の攻撃を防げぬ貴様に我は倒せぬ。すぐにというなら、終わるのは貴様のほうよ。』
「ここからは、オレの本気を見せてやる。」
オレはそう言うと、亜空間から緑に輝くコインを取り出した。
オレはこの世界に来て神の力を6つに分けた。
その力を風・火・水・土・光・闇の各属性へ変換しコインという形に変え、そのコインを使うことで分けた神の力を使えるようにした。
最初はどうやって力を分けるか、そして分けた力をどうするか悩んだもんだ。けど、力を分け、その使い方を考える内に思いついたことがあった。
30過ぎたおっさんになっても好きで忘れらなかったもの。何歳になっても憧れを抱いてしまったそれを形にした。
オレはコインを右手に持つと、左手を腰に添えた。すると腰にベルトが現れる。そのベルトのバックル部分にあるプレートを右から左へスライドする。スライドしたそこには、コインをはめる穴があり、そこへコインを挿入すると、今度はプレートを左から右へスライドする。その瞬間、プレート部分から無機質な声が流れる。
『フェンリルフォーム』
声が流れた瞬間に、緑に輝く半透明の狼が現れる。そして、オレの足元を中心に直径2メートルの円を描いて緑の竜巻が巻き起こる。これは、あらゆる攻撃を防ぐ絶対領域だ。
続いて、オレの体を魔法繊維でできた黒いスーツが覆い、半透明の狼がオレの全身を包みこむ。すると両腕を包むように緑の手甲が生まれ、その甲の部分には2本ずつするどい爪が付いている。次に、足には脛まであるブーツが出現すると、左肩に狼の顔を模した肩当てが生まれ、続いて胸の部分にはガード、右肩には尖った尻尾を思わせる肩当てが装着される。
最後に、狼を模した上顎のようなアーマーがオレの頭部に被さり、顔の前面を覆うマスクが装着されて変身が完了する。
変身の完了と同時に竜巻は消え、全身が緑に輝くアーマーを着たオレが現れた。
『なんだそれは・・・・・?今更鎧を装着したというのか?無駄なことを。それに、その姿はまるで我のようではないか。クックック、我の真似でもしたつもりか?』
「おまえのような魔物と一緒にするな。この狼こそが正真正銘の神の姿だ。お前のような仮初のものとは全然違う。」
『我が与えられた力が仮初だと!?なにより、我を魔物と一緒にするな!!!』
激昂した大狼は再びオレの目の前から消えた。そして、オレの後ろに回り込み、背中を爪で引き裂こうとする。
が、今のオレにはその攻撃は止まって見える。すぐに背後に振り向き、大狼の右前足を受け止める。
『な、何!?』
「お手ってか?」
『我を愚弄するな!!』
大狼はオレからすぐ離れ、再び攻撃する為に前足に力を込めた瞬間。
『ぐぼおおおおお。』
オレがその横に移動し、その胴に拳をお見舞いし、大狼の体がくの字になる。
『ば・・・、ばかな、いつ移動した?我より早いというのか?』
ヨロヨロとオレから離れ、後ろへ下がりながらも驚きを隠せない大狼。
「当たり前だ、この姿ならおまえより圧倒的に速いぞ。本当なら、もっとお前をボコボコにしたいところだが、オレに弱い奴を痛ぶる趣味はない。終わりにしてやるから、感謝しろ。」
『冗談で言ってるわけではなさそうだな・・・・。悔しいが、ここは一旦引く。』
大狼はそう言い、逃げようとするが、そうは問屋が降さん。オレはすでに風の魔法を使って、大狼の四肢に風の鎖を巻きつけて動けないようにしている。
このフェンリルフォームであればあらゆる風の魔法を使えることができる。
『な、なんだこれは。動けん!』
「逃すわけないだろ。終わりにしてやるって言っただろう。オレはそこまで甘くない。いくぞ。」
そういうと、オレは、両足に力を集中し、空中へ高く跳躍する。
この姿の決めといえば、やはりこれしかない。
跳躍した瞬間に腰のベルトから無機質な声が流れる。
『ファイナルアタック』
オレは左足を引き、右足を突き出して、蹴りの姿勢のままを大狼の体へ一直線に飛んでいく。右足から全身にかけて風の渦がオレをつつみ、風が狼の顔を形作る。
「はあああああああああ!!!!」
『やめろおおおおおおおお!』
そのまま蹴りを大狼に放ち、その蹴りを喰らった大狼は大きく吹き飛び、その体が地面についた瞬間に爆発した。
うむ、爆発まで入ってこその様式美だな。
爆発が収まった後には、バラバラになった大狼だったものが飛び散っていたが、その大きな顔だけは残っていた。この顔があればメイア達も、この魔物に襲われたと報告できるだろう。
そのメイアとルーシェだが、途中から全くついてこれてなかったようで、2人とも呆けていた。
「シュン・・・?その姿は、一体・・・?
「お前は・・・、一体何者なんだ?」
メイア、ルーシェと続くがその疑問ももっともか。ファンタジーに特撮を持ち込むなんて前代未聞だな。わはは。
「説明が難しいが、まぁ、気にしないでくれ。どうせすぐ忘れる。んじゃ、オレは行くよ。この大狼は2人が倒したってことにしてくれていい。」
「ま、待て!全く説明になっていないぞ!」
「じゃあな!」
そう言うと、オレは一気に空中へ跳び、街の防壁を飛び越えて、自分の家を帰るのだった。
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