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感謝感謝であります。
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クリオールにタバサム商会という商会が存在する。それはクリオールの新たな名産となった石鹸の開発者である。それはレイン商会へ砂糖を販売している商人である。しかし、その商会の主人を誰も見たこともなく、どこに店があるのかもわかっていない幻の商会である。
「なんですか・・・それ?」
オレはレインさんに胡椒の売り込みに来ていた。最近レインさんは砂糖の出どころを聞かれたり、石鹸の話を聞かれることがあるそうだ。
その時にオレの名前は出さず、タバサム商会の名前をだすことでお茶を濁すことにしているらしい。
すると、商人の間で幻の商会という噂が広まっているとのことなのだ。
「まあ、店は持ってませんし、商会というのも名前くらいですから、幻といえば幻なんですかね・・・」
オレはレインさんの話を聞いて苦笑してしまう。
「やはり皆さん、砂糖が欲しいみたいですね。私も仕入れ量を増やしたいくらいですからな」
「今のところは量は増やせないですね。オレも普段使うので自分の分は確保しておきたいですし」
「いやいや、催促したわけではありません。そう聞こえてしまったなら申し訳ない」
レインさんが頭を下げてくるので、オレはそれを止める。
「いえ、謝らないでください。大丈夫です。気にしてませんよ」
とはいえ、スライムさんが砂糖作りを覚えてくれたので、生産量を増やすことは可能かもしれないな。
「あ、それと、この前はウチのスライムさんが驚かせてしまったみたいで申し訳ない」
今度はオレが頭を下げる番だった。
「そんな!?頭をあげてくださいシュンさん。あの子のおかげで砂糖が手に入ったのです。砂糖はすぐに売れてしまいますから助かりました」
「そうなんですか?結構な価格なはずですけど、売れるんですね」
「ええ、主に貴族の方が噂を聞きつけて買いにきます。それと、公爵家もリオニー様の遣いの方が購入されますね」
「あー・・・・」
オレはその光景を想像して苦笑いしてしまう。
「リオニー様がシュンさんに会うことがあれば、是非城へきて欲しいと言っておりましたよ」
何を求めているのかが何となくわかってしまうな。
「機会があれば、そのうちに・・・」
「ええ、そうしてあげてくだされ」
「さて本題なんですが、今日はレインさんにこれを見てもらおうと思いまして」
オレはそういって胡椒の入った容器をテーブルの上に置いた。
「これは何でしょうか?」
レインさん雰囲気が変わり商人の顔になる。オレはそれを見て笑みを浮かべる。
興味はもってくれているな。さあ、どう売り込んでいこうかな。
「これは胡椒という香辛料ですね。塩と同じような使い方をします。料理に使えば肉などの味を引き立てます。よければ、手にとって見てください」
「ほお。では失礼して」
レインさんはオレが出した胡椒を一通り確認すると胡椒を置いた。
「ふむ。これは初めてみるものですな。どう売ったものかわからないというのが正直なところですな」
「そうでしょうね。なので、これを使った調理を実演したいので台所をお借りできませんか?」
「なるほど。ええ、もちろんですとも。シュンさんは、本当に私を興奮させてくれますな」
そう笑顔で言うレインさんは新たなものへの興味で少し興奮しているように見えた。
オレは台所を借りて胡椒が一番引き立つだろうステーキを焼く。1つは塩のみで焼き、もう1つは塩胡椒で焼いたものだ。
「どうぞ。こっちの塩だけで焼いたものから食べてもらえますか?」
「わかりました」
レインさんは、最初に塩のみの肉を食べると、ほうほうと言いながら咀嚼して飲み込む。
次に、胡椒で味付けした肉を頬張った瞬間、一切れ、もう一切れと口へ運んでいく。そうしてあっという間に肉を平らげると、汗をかきながらオレに話しかけた。
「これは驚きましたな・・・。まさか、肉の味がここまで変わるとは・・・」
「香草とは違った香ばしさというか、食欲をそそる味ですよね」
「まさに。これはわかる人が知れば売れますな。しかし、それをどう広げていくか・・・」
「一応、オレに考えがあります。明日、クリオールの料理店を周り、実際に使ってもらおうと思います。その時、レイン商会で扱っていると宣伝するのはどうでしょうか?」
「ほお。なるほど。今みたいに実演するわけですな」
「ええ、彼ら料理人なら、この胡椒の素晴らしさをわかってくれると思いますので」
「確かに・・・。いやはや、シュンさんには敵いませんな。そこまで考えているなら、私に断るという選択肢はありませんな」
そういうレインさんは笑顔だ。オレもつられて笑う。
「いやいや、普通なら未知なものを見て即決するなんてありえませんよ。それをしてしまうレインさんに敵わないのはオレのほうですよ」
それからオレ達は価格の話し合いを行う。胡椒の希少性を考慮して、やや高めの価格設定にしておいた。
胡椒の保存期間が長いことからも強気の設定にしてもいいと判断したのだ。オレはいくつかの胡椒をレインさんに譲り、レイン商会を後にした。
次の日、オレはクリオールの街の料理店を巡る。
ただし、そこそこ高級思考のお店を中心にだ。そこで話を聞いてくれた料理店には、レインさんに出した方法で肉を食べ比べてもらう。すると、どの店も目を見開いて、どこで胡椒が手に入るのかを食い気味で聞いてくるので、レイン商会だと説明するとすぐに飛び出していった。
そうして、クリオールの街に一味違う料理店があるという話が広がり、瞬く間に人気店となった。
唯一の欠点は胡椒の量が少なかったということだ。
ということで、オレは後日東の森に行き、追加で胡椒を作ってレインさんへ持っていった。そして、タバサム商会という幻の商会が胡椒を持ってきたという噂が流れ、さらに商人達の注目を集めるのだった。
一方でオレは、そんなことなどつゆ知らず、地下室でてん菜と胡椒の部屋を大きくし、せっせと畑作業で汗を流すのだった。




