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ではでは10話の始まりでございます。
今回もまったりとした話でいければと思っております。
1
さて、これはオレがクリオールに戻る少し前の話である。場所は我が家。そこにいるスライムさん達の話だが、少しお付き合い願いたい。
それはある日のこと、オレ達がエリスの故郷に旅立ってから何日も経ち、オレは急遽王都で魔石集めをしようと思い立った為、家の地下にある畑にまく水が足りなくなっていた。畑の世話を頼まれたスライムさんだが水は出せず、このままだと畑の作物が枯れてしまうかもしれない。それは自分の主を悲しませてしまう、そう思ってなんとかしようと考えていた。
(さて、どうしたものか・・・)
スライムさんはフルフルと体を揺らしながら、別の自分でもあるし、違うとも言える他のスライムさん達と意見の交換を行っていた。
(どうしようもないのでは?)
(否、諦めてはいけない)
(では、どうする?)
などと彼らは思考する。
(ふっ・・・、ならばこうするしかあるまい)
そう思考したのはどのスライムさんだろうか。いや、それは1匹ではなかった。3匹のスライムが一気に水を貯めていた大きい瓶の中へ飛び込む。
(お先に!!)
飛び込んだスライムさん達はその身を水分に変えると、瓶に水がいっぱいになる。
(この大馬鹿野郎ぅ共めー!)
そんな寸劇をしながら、一先ず水不足という危機を乗り越えるのだった。
2
また別の日、家にレインの遣いを名乗る男性が訪ねてきた。ドアをノックするが、家に誰もいないのがわかると帰っていく。どうやら砂糖が切れそうな為、追加が欲しかったようだ。畑のてん菜や、他の作物は十分に育っているが砂糖を作る主人がいない。そこで残ったスライムさん達は、主人であるシュンの記憶とある程度リンクできるので、砂糖の作り方を調べる。そうして、体から出した突起物を使い、色んな準備をして砂糖を作ることに成功する。さらに、自身の分解能力を使い、不純物を乗りのぞくという離れ技をやってのけた。
出来た砂糖を、主人が趣味部屋と呼ぶ場所から容器を拝借して詰め替えると、それを自分の体の中に出来た収納空間へしまっていった。どうやら、スライムさん達を生み出したときに作用した空属性により、亜空間も使えるようだ。砂糖を収納した1匹のスライムさんは家をから出ると、家の壁を三角飛びの要領で屋根へ飛び上がり、レイン商会を目指した。
レイン商店の2階にある商談室にて、レインは書類に目を通していた。すると、後ろから窓を叩く音が聞こえた。最初は聞き間違いかと思ったが、何度も聞こえてくる音のほうへ振り返ると1匹のスライムがそこにいた。
「ス、スライム!?」
街中に魔物が現れたこと、そして自分の部屋の窓にいきなりスライムが現れたことに驚かざる得ないレイン。どうすべきか、逃げるか戦うか・・・。しかし、レインは戦ったことはほとんどない、ここは逃げるべきだろうか・・・。そう思っていたら、窓の外のスライムは口を開けたような仕草をすると、指のような突起物を突っ込み小さな壺を取り出した。
その壺はレインにとって見慣れた壺であり、シュンが砂糖を入れてもってくる壺と同じものだった。そして、それを見たレインはこのスライムがシュンが作った魔法生物だと理解した。そうして、スライムさんは無事にレインと会うことができ、砂糖を譲ると、代わりに銀貨と鉄貨が入った袋を受け取って帰るのだった。
3
「なるほど」
オレは地下室にてスライムさんの1匹から、なぜ数が減っていたのかを確認していた。スライムさん達は話すことはできないが、オレはスライムさんの考えを知ることができる。
とあるパイロット同士が、ピーンとくるような感覚に近いだろうか。まあ、テレパシーみたいなもんだな。とはいえ、それは言葉による意思疎通ではなく、イメージというかぼんやりとした内容が伝わってくる感じかな。
「オレがいない間に苦労かけたねえ。あと、レインさんへ砂糖の納品をしてくれてありがとう」
オレがそう言うと『気にすんねえ』という感じで、突起物を出して足をテシテシと叩いた。
「しかし、亜空間まで使えるようになるとは、すごいな・・・」
オレの言葉を聞いて、自慢げに体をフルフルと揺らすスライムさん。
「じゃあ、今度から水を収納してもらえるかい?」
フルフルと肯定の意思を見せるスライムさん。そして、口を開けるような仕草をしたので、オレは生活魔法(極)の水系統の力で、水をスライムさんへ収納していった。ちなみに、このスライムさんの亜空間は、全てのスライムさん達の共通空間らしく、1匹が収納すれば、他のスライムさんが出すこともできる。
それって、やろうと思えばワープできるんでは・・・。まあ、怖いからやらないけど・・・。
スライムさんは十分な水を確保すると、ズルズルと去っていった。それを見送ると、オレは他の畑の様子を見て周りつつ、胡椒の実を収穫すると趣味部屋で胡椒をゴリゴリと量産していった。砂糖に続いて、今度は胡椒をレインさんに持ち込む為だ。
くくく、これが当たればさらなる金が我が懐へ・・・。いよいよ冒険者をしなくてよくなりそうだ。まあ、それはそのうち考えよう。
そんな感じで久しぶりに趣味に没頭していたら、日が暮れていつもの3人が帰ってきて、夕食が出来たと言う声をかけてくれるまで作業をしてしまった。
上にあがり4人で食事をする。その時にオレの隣に誰が座るのかという話になったのだが、前までは片方に無理やり3人で座っていたが、それをするとリンカが1人で座ることになり、さすがに、それは可哀想になのでオレの隣は順番で座ることとなった。
そんなわけで、平凡な1日であったが、こういう趣味をしながらゆっくりと過ごす日々こそ、オレの求むるところなのだ。




