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いいいいい、忙しいいいい。
それでも感謝の気持ちは忘れてません。
いつも読んでいただいてありがとうございまぷ。
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「じい!良かった・・・。もう会えないかと思いました」
「ははは、ご心配をおかけしましたな。イルムお嬢様もご無事で何よりです。ヨーナスもよくお嬢様を守ってくれた」
「いえ、俺は階段でシュン殿を待っていただけっすから・・・」
イルムは涙を流しながらルドルフを抱きしめ、ヨーナスは頭をかきながら苦笑していた。少ししてからイルムはルドルフから離れてオレ方へ向いて頭を下げる。
「シュンさん、本当にありがとうございました!」
ちなみに、イルム達に出会う直前に変身は解除してある。神の力を使えばジュエイクスパイダーを倒すのもたやすい。しかし、ジェイクスパイダーの討伐はあくまでイルム達自身で達成するべきだと思ったからだ。
まあ、それも時と場合で考えることとしよう。
「頭を上げてください。ルドルフさんも無事に帰ってきたことですし。今日は休んで明日に備えましょう」
「そうですね」
オレ達は10階層に降りると休めそうな場所に移動する事にした。
その際に、イルムへ地図を返しておく。
その日は長めに休息をとり、きちんと体を休めた後10階層を探索していく。ちなみに一夜明け、ルドルフからはオレの変身の記憶は無くなっており、単純にオレが助けたという風に記憶が補填されていた。
その後、10階層の広間を通る時は空属性の【把握】の範囲を広げ、まずは部屋全体を探索して罠の有無を確認した。そして、それが終われば広間の魔物を倒してさらに迷宮を進み、順調に11階層、12階層を越えて、いよいよジェイクスパイダーのいる15階層に到着し、いざ討伐へ!
とはいかず、まずは体を休めることにする。
野営場所にて4人で食事を取っているとイルムが口を開いた。
「ついにここまで来ましたね。こんなに早く来れるとは思っていませんでした。シュンさん、改めてお礼を申し上げます」
「イルム様。その言葉はまだ早いですよ。ジェイクスパイダーの毒牙を無事に手に入れた時に、改めて聞かせていただきますね」
「ふふ、そうですね」
思えばずいぶんイルムの態度も砕けた感じになっている。
「それにしても、本当にお強いですな。この依頼が終わればモンジュラ領に来てはどうですか?シュン殿ならすぐにでも騎士団へ入隊できますよ?」
そんな冗談をルドルフが言う。
「いやあ・・・、オレは堅苦しいのが苦手でしてね。それに、クリオールに恋人もいるので、その子を残してはいけませんね」
オレはルドルフに苦笑しながら答えるとヨーナスが反応する。
「ええっ!?シュン殿恋人がいるんですか?」
おい・・・、その反応どういう意味だ?
「ヨーナス、失礼ですよ。すいません、ヨーナスが不躾なことを言ってしまって・・・」
「いえ・・・。オレに恋人がいるのって意外ですかね?」
「そんなことありませんよ。シュンさんは素敵な男性だと思いますよ」
そう言ってイルムは青い髪を揺らしながらニッコリと笑ってくれる。と、思ったらその笑顔をニチャアっと聞こえそうなものに変えると。
「で、恋人ってどういう人なんですか?どこで知り合ったんですか?」
と、矢継ぎ早に質問してくるのだった。
「勘弁してください・・・」
元気になりすぎだ・・・。
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今、目の前には体長4メートルの大蜘蛛がいる。ジェイクスパイダーといわれるこの魔物は噛みつかれると、牙から毒を流し込まれる。また、糸を吐き獲物を絡めとると大きな手足で獲物を弱らせて食べるのだ。
「では、行きましょう!」
体調を万全にしたイルムが声を出す。その声を合図にオレとヨーナスは右に、ルドルフとイルムは左へ走り出した。
イルムが用意した魔道具を使おうにも、ただ使っただけでは、ジェイクスパイダーに致命傷は与えられないと考え、奴の口に魔道具を放り込んで、内部で爆発させるという作戦だ。しかし、その為には、ジェイクスパイダーの頭の位置が高いので、まずは足を攻撃、または切り飛ばして頭を下げさせることにした。
左へ回り込んだイルムとルドルフは、ジェイクスパイダーの右側の第1脚と呼ばれる、一番顔に近い足へ攻撃を始める。
「はああ!」
「せああ!」
ルドルフが剣を横なぎにしてジェイクスパイダーの脚を切りつけ、イルムは右から袈裟斬りで剣を振るう。だが、その攻撃は浅く切るだけに留まってしまう。
体の大きさに比例して脚も太いため生半可な攻撃では大きい傷は与えられないのだ。そして、ジェイクスパイダーが自分の脚に攻撃を加えた敵へ、お返しとばかりに前から2番目にある第2脚を素早く上に振り上げると、イルム達へ振り下ろす。
イルムとルドルフはすぐ様それに反応して、後ろに飛んでジェイクスパイダーから距離を取った。
イルム達とほぼ同時に、オレとヨーナスもジェイクスパイダーの左脚を狙って剣を振る。ヨーナスは第1脚へ、オレはその後ろのある第2脚へお互い斬りつける。
「これは・・・、予想以上に硬いっす」
ヨーナスが攻撃を与えた感想を独りごちる。
オレは生活魔法(極)の風系統の力を刃に乗せて第2脚を斬り付けていたので、ジェイクスパイダーの第2脚を切り裂くと、そこから血が吹き出てジェイクスパイダーが悲鳴を上げる。
「むう、切り飛ばすつもりだったが、威力が足りなかったか・・・」
自分に傷を与えたオレをロックオンしたジェイクスパイダーは、機敏な動きでオレの方へ体の向きを変えると、両方の第1脚、そして、傷ついていない方の第2脚を使って、連続でオレを攻撃し始める。
「ほっ、よっ。っと・・・」
オレは上から振り下ろされる脚についている爪を避ける。すると、ジェイクスパイダーは爪を突き刺す攻撃では当たらないと思ったのか、左の第1脚を使って横殴りの攻撃をしてきた。
オレは、その攻撃を跳んでかわし、そのまま不壊の剣を突き刺して奴の脚に乗った。
オレにヘイトが向いたので、他の3人はヒットアンドアウェイで、チクチクと第3脚や腹部を攻撃しているが、効果は薄いようだ。とはいえ、蜘蛛の目は複数ある為、ジェイクスパイダーはイルム達の動きもきちんと見えていた。オレに脚を使った横殴りの攻撃をすると同時に、右の第1脚をイルム達へ叩きつけた。
「きゃあ!」
「っく・・・」
「ぬう」
その衝撃でイルムが後ろに吹き飛ばされる。ルドルフとヨーナスは膝をつきつつも、なんとかその衝撃に耐えた。
「イルムお嬢様大丈夫ですか!?」
ルドルフは立ち上がると、ジェイクスパイダーの動きに注意しながら、チラッとイルムの方へ視線を向けて声をかける。
「ええ、大丈夫よ。ルドルフ」
イルムがルドルフに返事をする。
昨日の『じい』呼びは動揺して、昔の癖が出てしまったらしい。
ルドルフが安堵したのも束の間、ジェイクスパイダーはお尻をイルムに向け糸を放つと、イルムの体に糸がくっついて一瞬で空中へ引っ張り上げられてしまう。
「「イルムお嬢様!!」」
思わずルドルフとヨーナスが叫びを上げる。しかし、その声も虚しく、糸によってイルムはジェイクスパイダーの元へ引っ張られていく。
近づいてくるイルムに噛み付く為に、ジェイクスパイダーは顔を上にあげ口を開ける。イルムは糸の粘着によって、身動きがとれなくなっており、上からその毒牙を見ると短く悲鳴を上げてしまう。
「っひ・・・」
「ふっ!!」
オレは剣を突き刺して脚から頭の部分まで登ると、不壊の剣を横切りして風の刃を飛ばし、イルムに繋がっている糸を切断する。そして、すかさずイルムをキャッチすると、そのままルドルフ達のところへ着地した。
「大丈夫っすか!」
ヨーナスがこちらに駆け寄ってくると、ルドルフはジェイクスパイダーの気を引く為に、前に出て攻撃を始める。
「ありがとうございます。シュンさん」
「どういたしまして。ちょうど奴の体に乗ったところで良かったです」
オレはヨーナスにイルムを任せると、ルドルフの所へ向かい一緒に脚を攻撃し始めた。そうして、しばらくジェイウスパイダーを攻撃してダメージを蓄積させていく。その中でオレはふと考え事をしていた。
迷宮の魔物からは魔石をほぼ確実に入手できるが、素材を入手できる確率は低い。ということは、毒牙が出るまでこいつを倒さなければいけないのだろうか・・・。それとも、毒牙は初回確定ドロップなのかな・・・。
オレは、一瞬背中がひやっとするのを感じた・・・。
オレは万が一に備えて動き出す。ジェイクスパイダーの動きも鈍くなってきており、動きを見切るのは容易い。
オレはジェイクスパイダーの顔に近づくと、奴はオレに噛みつこうと毒牙を剥いてきた。
オレは毒牙を躱し下から牙の付け根を突き刺し抉ると、右手で毒牙を掴んで一気に引き抜く。そして、毒牙をすぐさま亜空間へ放り込むと、後ろへ下がった。
「シュン殿、無茶をしますな!!」
オレを見ていたルドルフが苦笑しながら声をかけてきた。
「ちょっと試したいことがあったので」
オレは剣を構えつつ、意識内で亜空間を確認すると毒牙が存在していた。
ふむ、後はジェイクスパイダーを倒して毒牙が消えるのか、あるいは亜空間から出したらどうなるかは後でわかるだろう。
「さて、そろそろ終わらせましょう。イルム様魔道具の準備をしてください」
「どうするんですか?」
オレがイルムに声をかけると、流れる汗もそのままにイルムが返事をする。
「さっきの攻撃で思いついたことがあります。オレがもう一度ジェイクスパイダーの正面に行きます。奴が噛み付いてきたら横に飛びますので、その時に魔道具を口に放り込んでください」
「それは・・・、いえ。シュンさんを信じます」
イルムは目に力を込めて笑みを作る。
「はい。信じてください。では、行きます!」
オレは再びジェイクスパイダーに向かって走り出す。
ジェイクスパイダーもさっきのオレの攻撃を警戒して、脚を使ってオレを近づけないように攻撃をしてくる。しかし、その動きに最初ほどのキレがないのでオレは難なくそれを躱していく。
オレが顔に近づくと、口を開けてオレに噛みつこうとしてきたので、オレは横に飛びながらイルムに声をかける。
「今です!」
「やああああああ!!」
イルムは気合を込めながら魔道具をジェイクスパイダーの口へ放り込む。
オレは、それを吐き出させないように、意識を集中して生活魔法(極)の土系統の力を使い、ジェイクスパイダーの顔の真下から杭のようなものを作り、顎をかち上げて口を閉じさせる。
その瞬間、ジェイクスパイダーの内側から光の筋がいくつも生まれ、大きい音を響かせながら爆発した。
バラバラに砕け散ったジェイクスパイダーの破片は、程なくして黒い煙となって迷宮へ吸収されていく。
迷宮で死んだ魔物は魔素となって迷宮へ還元されるからだ。
ジェイクスパイダーが黒い煙になると、大きめの黒い魔石が残り、それ以外はすべて煙となって消えてしまった。
どうやら初回確定ドロップといったゲームのような話はないらしい。
イルムは魔石に近づくと、それを拾いオレへ渡してくれる。
「どうぞ、シュンさん」
「ありがとうございます」
そこへルドルフがイルムへ声をかける。
「イルムお嬢様、どうなさいますか?しばらくすれば、ジェイクスパイダーは復活するはずですが・・・」
イルムは眉間に皺をよせ、悔しそうに呟いた。
「もう1度戦おうにも、魔道具がありません・・・」
オレは2人から少し離れて、亜空間からジェイクスパイダーの毒牙を取り出してみた。
これで魔素になったらしょうがない。けど、もしこの方法がうまくハマれば、オレは今後迷宮で素材を収集できるようになる。さてさて、では特とご覧じろ。
おおー。魔素にならない。ということは、これは持って帰れるな。
オレは、毒牙を持って、イルム達の元へ向かうと彼女らに声をかけた。
「イルム様、これをどうぞ」
イルムはオレの持つ毒牙をみると驚きで目を見開く。ルドルフも言葉を失ってしまう。
「シュンさん・・・。それをどうやって・・・?いえ、そんなことはどうでもいいですね。それをいただいてもいいのですか?」
「もちろん。オレがイルム様達に同行する条件を覚えてますか?」
「魔石は全てシュンさんにお渡しする・・・?」
「ですね。ならこれは魔石じゃありませんね。お嬢様?」
少しキザったらしいかな?
「ふふ・・・。本当に貴方という人は」
そう言いながら嬉し泣きをするイルムの顔は、とても良い笑顔だった。
とまあ、こんな感じでオレの再びの王都での活動は終わりを迎えるのだった。まあ、魔石も十分集まったし、クリオールに帰るとするかね。




