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いつもお読みいただいてありがとうございます。

15


いかんな、石鹸(せっけん)とシャンプーのことを考えてたらトリップしていたようだ。

オレが色々と考えてる間にもエリスは黙々と石鹸を選んでいた。


「どう?気に入ったものはあった?」


「うーん、そうですね・・・。いつも使ってるヤツはあったんですけど、たまには違うものも使ってみたいというか。」


「ああ、気分を変えるのもいいかもね。」


「シュンさんが普段使ってるのって、このお店の石鹸なんですか?」


「オレのはここのじゃないかな・・・・・。」


「どこのお店で買ってるんですか?実は、シュンさんの使ってる石鹸が欲しかったりするんですよね・・・・。」


「え?オレの?なんでまた。」


「えーと、冒険者さんて、皆さんあまり清潔(せいけつ)にされてない人が多いというか・・・、でも、シュンさんはいつも清潔にされてますよね。シュンさんの匂いでわかるというか・・・。」


エリスが顔を赤らめて話しているが、ど、どいうことだ、オレの匂い・・・・?

確かに、オレは普段から清潔でいるように心がけている。その為に家に風呂を作った。そして、自分でも異常とは理解しているが、依頼で野宿をする時でも、外で生活魔法を駆使(くし)して、風呂に入るほどの異常っぷり。だが、それでもそこまで匂いがわかるものなのか・・・。


「それって、オレから変な匂いがしてるとか・・・?」


「ち、違います。変な匂いとかじゃなくて、うっすらですが、花の香りがします。(ほこり)っぽい匂いとかも、他の人に比べて薄いので、清潔にしてるだろうなって思っただけです。ただ、私が使ってる石鹸を使っても、そこまでの香りが出ないので、ずっと気になってたんです。」


「ああ、そういうことか。エリスって鼻がいいんだな。」


「はい、狐人族(きつねびとぞく)は鼻がいいんですよ。とはいえ、狐人族だけじゃなくても、猫人族(ねこびとぞく)の方とかも鼻はいいはずですけどね。」


「ああ、冒険者でも斥候(せっこう)についてる人に猫人族(ねこびとぞく)の冒険者が多い気がするけど、あれは、匂いとかでも魔物を探せるからか。なるほどな。」


しかし、オレが使ってる石鹸かあ。さすがに、お店でその話をするのは(はばか)られるな。


「エリスちょっと近くに来てくれる?」


「え?は、はい。」


エリスの耳に口を近づけて、声を小さくして話す。


「実はさ、オレの石鹸って自作のやつなんだよ。」


「ひゃう。そ、そうなんですか?」


「そ、だから、お店の中で大っぴらに話すわけにもいかないんだよね。」


「そういうことでしたか。わかりました。後でその話、教えていただきましょうか。」


「ああ、まぁいいけど。それより、エリス、顔が赤いけど大丈夫か?」


「こ、これは、気にしないでください。大丈夫ですから。さ、そろそろご飯を食べにいきましょう。」


「あれ?石鹸はいいのか?」


「ええ。もっと良いものが手に入りそうですから。」


ニコリと笑うエリス。実に良い笑顔だが、いつもの圧を感じるな。これは、オレの石鹸が欲しいって言われるんだろうな。ま、しょうがないか。この街で売っている石鹸では、オレの石鹸の洗浄力・香りには勝てまい。

とはいえ、聞かれたくない話とはいえ、年頃の女の子に顔を近づけて話すなんて、ちょっと不用意だったかな。配慮が足りないと言われかねないし、次は気をつけよう。




16


雑貨屋からエリスのおすすめのお店へやってきた。


「ここは、魔物肉を美味しく調理するお店で有名なんですよ。来たことあります?」


「いや、初めて来るお店だな。通りから見たことはあるけど。ここって、オレには少しお洒落すぎて入り辛かったんだよね。」


「そうですか?気にしすぎだと思いますけどね。とりあえず、注文しましょう。」


そんなもんかね。オレは近くにあったメニューもとい、お品書きっぽい木版(もくばん)の内容を見てみる。

ハッシュボアの肉を使ったステーキ。ウールラビットの肉を使ったシチューなどなど。まあ、ステーキにしても、シチューにしてもこの世界の料理は、香辛料が少ないから、香草などで味を整えている。ただ、魔物肉から出る肉汁などはいい味がでているので、美味い料理はこの世界にもたくさんあるのだ。


「決まりましたか?」


「そうだなぁ、ハッシュボアのステーキがあれば、あとは適当でいいかな。エリスは決めた?」


「お肉だけじゃなく、野菜も食べないとダメですよ。私は、ウルフ肉のぶつ切りにします。野菜は私が適当に頼みますね。あと、シチューを頼んで、2人で分けましょう。」


「わかった。じゃあ、注文しようか。」


ほどなくして注文した料理が来たので、2人で酒の入ったグラスを軽くぶつけて乾杯。昼間から飲む酒って美味いよなー。

では、さっそくハッシュボアを切り分けて肉を食べる。うむ、歯応(はごた)えがすごく肉汁が噛むごとに(あふ)れてくる。ハッシュボアの味は猪独特の風味やクセがあるが、下処理がなされていて、嫌な味ではない。ジビエ料理ってやつだな。

エリスを見てみると、ウルフ肉のぶつ切りを食べてご満悦(まんえつ)だ。


「美味しいですー。噂通りですね。あ、シチューも分けましょう。どうぞ。」


「ありがとう。」


ウールラビットのシチューは鍋に入ってテーブルへ来たので、エリスが取り分けてくれた。シチューの入った小皿を受け取って、木のスプーンで口へ運ぶ。

ふむ、ラビットの肉の味は淡白ながら、スープとの相性がよくスープの味を引き立てている。


「これは、美味いな。」


「ですよねー。お肉の味もですけど、使われてる香草との相性も考えられてるっていうか、本当に美味しいです。」


しばらく、料理に舌鼓(したづつみ)を打ちながらエリスと話をする。


「シュンさんが、初めて冒険者組合にきた時は、どこの田舎からきたのかと思いましたよ。組合の仕組みとか全く知らないし、お金も持ってなかったし。」


「ははは、住んでた村が魔物に襲われて、森へ逃げたはいいものの。森で迷ってるうちに、まさか、居ついてしまうとは思わなかったんで。」


そう、オレは名前のない村から来た田舎者ということで押し通した。そして、街に入る為に必要なお金や生活していく為のお金がなかったので、門番の人に冒険者組合を教えてもらい、素材を売ることでことなきを得たのだ。

その後は、いろんな人に変な目で見られながら、この世界、国の常識を教えてもらっていった。まぁ、そのおかげでエリスとよく話すようになり、仲良くなったので、結果オーライだろう。


「オレがここに来てから3年か。エリスにはお世話になってるよ。」


「そんなことありませんよ。あ、組合に来たという話で思い出しましたけど、組合員証を作った時に、シュンさんが36歳ってわかった時は、驚きましたよ!どう見ても20歳前後って感じでしたから。」


「あー、それは未だに初対面の人には驚かれるよ。ちなみに、エリスって歳はいくつになるの?」


「私ですか?私は、21歳になります。」


「はー、そんなに年齢差があったのか。改めて自分がおっさんだなって感じるな・・・。」


「そんなことありませんよ。見た目は置いておいても、シュンさんて子供っぽいところがあるし、おっさんって感じは全然しませんから、安心してください。」


「そ、そうかな。ははは。」


それは、()められてるのか、(けな)されてるのかよくわからんが、安心していいのか?


「ところで、シュンさんの使ってる石鹸ですけど、自分で作ってるんですか?」


「ん?ああ、まあ、そうだな。どうもこの街の石鹸はオレには合わなかったみたいで、自作することにしたんだ。んで、作り方を色々調べたり試したりして、何とか作れたって感じだな。」


「それって・・・、もらえたりできませんか?」


っく、上目遣いからのおねだり、エリス恐ろしい子・・・・・。


「うーん、個人的に使ってるやつだし、エリスの肌に合わないかもしれないしなあ・・・・。」


「大丈夫です!狐人族は肌が強いですから!それに、合わなくても文句いいませんので!!」


「そ、そこまでいうなら、とりあえず、1個渡すから使ってみて。あ、ただ、オレが作ったっていうのを内緒にするって約束してほしい。」


「わかりました。もし使い心地がよければ、また(もら)えますか?」


「その時に手持ちがあればね。あと、エリスが使って問題なければかな。」


ちょうどいいからエリスにテスターをしてもらおう。エリスに黙ってテスターをしてもらうのは、少し後ろめたいが、無料で石鹸使えるということで許して欲しい。


その後、料理がなくなるまで話をし、無事石鹸をゲットしたエリスも上機嫌(じょうきげん)だ。

料理も無くなったということで、会計をすまし店を出る。


「すいません、ここのお金出してもらって。」


「いや、いいさ。年下の子に出してもらうのも格好悪い気がするし。」


「そんなこと気にしなくていいと思いますけどね。それで、まだ夕の鐘がなるまで時間がありそうですけど、この後・・・・・、どうしますか?」


エリスがモジモジしながらオレに聞いてくる。顔が赤いのはお酒のせいなのか・・・。エリスは美人だ、胸も大きいし、嫌いじゃない。しかし、オレは39歳のおっさんだ。エリスは今21歳って言ってたし、その歳の差ってこの世界ではどうなんだろう。

と、考えてたら背筋をゾクゾクと寒気がした。なんだろう、森のほうから、すごい嫌な気配がする。急速に頭が冷え、これは、放置したらダメなやつだと、直感的に思ってしまう。


「シュンさん?」


「すまないエリス。この後、できればもう少しお酒でも飲みたかったんだけど、ちょっと用事があって、行かなきゃならない。」


「そうなんですか、残念です・・・。」


う、エリスの悲しい顔が辛い。耳もシュンとなっている気がする。


「あー、そんな顔しないでくれ。そうだ、今度、オレの家に招待するよ。そこで、ゆっくりご飯でも食べないか?」


「シュンさんのお家に・・・?いいんですか?」


「もちろん、エリスならいいよ。来て欲しいくらいさ。」


「わ、私ならいい・・・、それに来て欲しいって、それって・・・・。どういう・・・。」


エリスがブツブツと何かつぶやいてるな。よく聞こえんが、耳がピンとなっているので、とりあえず、元気は出たようだ。


「えーと、エリス、何ていったか聞こえなかったんだけど、何て?」


「い、いえ!!気にしないでください。わかりました。そういうことなら、しょうがないですよね!じゃ、じゃあ、次はシュンさんのお家でご飯です!」


「あ、ああ。わかったよ。また、組合にいった時に、エリスの休みを教えてくれ。」


「はい、わかりました。お待ちしてます。絶対ですよ?」


「了解した。じゃあ、本当にすまない。そろそろ行くよ。」


「はい、いってらっしゃい。」


「ありがとう。行ってきます。」


そう言うと、エリスの頭を軽く撫でて、オレは、街の門の方へ走り出した。


その後ろには、オレの後ろ姿を、ポーッと見つめるエリスがいたとか、いないとか。

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