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いかんな、石鹸とシャンプーのことを考えてたらトリップしていたようだ。
オレが色々と考えてる間にもエリスは黙々と石鹸を選んでいた。
「どう?気に入ったものはあった?」
「うーん、そうですね・・・。いつも使ってるヤツはあったんですけど、たまには違うものも使ってみたいというか。」
「ああ、気分を変えるのもいいかもね。」
「シュンさんが普段使ってるのって、このお店の石鹸なんですか?」
「オレのはここのじゃないかな・・・・・。」
「どこのお店で買ってるんですか?実は、シュンさんの使ってる石鹸が欲しかったりするんですよね・・・・。」
「え?オレの?なんでまた。」
「えーと、冒険者さんて、皆さんあまり清潔にされてない人が多いというか・・・、でも、シュンさんはいつも清潔にされてますよね。シュンさんの匂いでわかるというか・・・。」
エリスが顔を赤らめて話しているが、ど、どいうことだ、オレの匂い・・・・?
確かに、オレは普段から清潔でいるように心がけている。その為に家に風呂を作った。そして、自分でも異常とは理解しているが、依頼で野宿をする時でも、外で生活魔法を駆使して、風呂に入るほどの異常っぷり。だが、それでもそこまで匂いがわかるものなのか・・・。
「それって、オレから変な匂いがしてるとか・・・?」
「ち、違います。変な匂いとかじゃなくて、うっすらですが、花の香りがします。埃っぽい匂いとかも、他の人に比べて薄いので、清潔にしてるだろうなって思っただけです。ただ、私が使ってる石鹸を使っても、そこまでの香りが出ないので、ずっと気になってたんです。」
「ああ、そういうことか。エリスって鼻がいいんだな。」
「はい、狐人族は鼻がいいんですよ。とはいえ、狐人族だけじゃなくても、猫人族の方とかも鼻はいいはずですけどね。」
「ああ、冒険者でも斥候についてる人に猫人族の冒険者が多い気がするけど、あれは、匂いとかでも魔物を探せるからか。なるほどな。」
しかし、オレが使ってる石鹸かあ。さすがに、お店でその話をするのは憚られるな。
「エリスちょっと近くに来てくれる?」
「え?は、はい。」
エリスの耳に口を近づけて、声を小さくして話す。
「実はさ、オレの石鹸って自作のやつなんだよ。」
「ひゃう。そ、そうなんですか?」
「そ、だから、お店の中で大っぴらに話すわけにもいかないんだよね。」
「そういうことでしたか。わかりました。後でその話、教えていただきましょうか。」
「ああ、まぁいいけど。それより、エリス、顔が赤いけど大丈夫か?」
「こ、これは、気にしないでください。大丈夫ですから。さ、そろそろご飯を食べにいきましょう。」
「あれ?石鹸はいいのか?」
「ええ。もっと良いものが手に入りそうですから。」
ニコリと笑うエリス。実に良い笑顔だが、いつもの圧を感じるな。これは、オレの石鹸が欲しいって言われるんだろうな。ま、しょうがないか。この街で売っている石鹸では、オレの石鹸の洗浄力・香りには勝てまい。
とはいえ、聞かれたくない話とはいえ、年頃の女の子に顔を近づけて話すなんて、ちょっと不用意だったかな。配慮が足りないと言われかねないし、次は気をつけよう。
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雑貨屋からエリスのおすすめのお店へやってきた。
「ここは、魔物肉を美味しく調理するお店で有名なんですよ。来たことあります?」
「いや、初めて来るお店だな。通りから見たことはあるけど。ここって、オレには少しお洒落すぎて入り辛かったんだよね。」
「そうですか?気にしすぎだと思いますけどね。とりあえず、注文しましょう。」
そんなもんかね。オレは近くにあったメニューもとい、お品書きっぽい木版の内容を見てみる。
ハッシュボアの肉を使ったステーキ。ウールラビットの肉を使ったシチューなどなど。まあ、ステーキにしても、シチューにしてもこの世界の料理は、香辛料が少ないから、香草などで味を整えている。ただ、魔物肉から出る肉汁などはいい味がでているので、美味い料理はこの世界にもたくさんあるのだ。
「決まりましたか?」
「そうだなぁ、ハッシュボアのステーキがあれば、あとは適当でいいかな。エリスは決めた?」
「お肉だけじゃなく、野菜も食べないとダメですよ。私は、ウルフ肉のぶつ切りにします。野菜は私が適当に頼みますね。あと、シチューを頼んで、2人で分けましょう。」
「わかった。じゃあ、注文しようか。」
ほどなくして注文した料理が来たので、2人で酒の入ったグラスを軽くぶつけて乾杯。昼間から飲む酒って美味いよなー。
では、さっそくハッシュボアを切り分けて肉を食べる。うむ、歯応えがすごく肉汁が噛むごとに溢れてくる。ハッシュボアの味は猪独特の風味やクセがあるが、下処理がなされていて、嫌な味ではない。ジビエ料理ってやつだな。
エリスを見てみると、ウルフ肉のぶつ切りを食べてご満悦だ。
「美味しいですー。噂通りですね。あ、シチューも分けましょう。どうぞ。」
「ありがとう。」
ウールラビットのシチューは鍋に入ってテーブルへ来たので、エリスが取り分けてくれた。シチューの入った小皿を受け取って、木のスプーンで口へ運ぶ。
ふむ、ラビットの肉の味は淡白ながら、スープとの相性がよくスープの味を引き立てている。
「これは、美味いな。」
「ですよねー。お肉の味もですけど、使われてる香草との相性も考えられてるっていうか、本当に美味しいです。」
しばらく、料理に舌鼓を打ちながらエリスと話をする。
「シュンさんが、初めて冒険者組合にきた時は、どこの田舎からきたのかと思いましたよ。組合の仕組みとか全く知らないし、お金も持ってなかったし。」
「ははは、住んでた村が魔物に襲われて、森へ逃げたはいいものの。森で迷ってるうちに、まさか、居ついてしまうとは思わなかったんで。」
そう、オレは名前のない村から来た田舎者ということで押し通した。そして、街に入る為に必要なお金や生活していく為のお金がなかったので、門番の人に冒険者組合を教えてもらい、素材を売ることでことなきを得たのだ。
その後は、いろんな人に変な目で見られながら、この世界、国の常識を教えてもらっていった。まぁ、そのおかげでエリスとよく話すようになり、仲良くなったので、結果オーライだろう。
「オレがここに来てから3年か。エリスにはお世話になってるよ。」
「そんなことありませんよ。あ、組合に来たという話で思い出しましたけど、組合員証を作った時に、シュンさんが36歳ってわかった時は、驚きましたよ!どう見ても20歳前後って感じでしたから。」
「あー、それは未だに初対面の人には驚かれるよ。ちなみに、エリスって歳はいくつになるの?」
「私ですか?私は、21歳になります。」
「はー、そんなに年齢差があったのか。改めて自分がおっさんだなって感じるな・・・。」
「そんなことありませんよ。見た目は置いておいても、シュンさんて子供っぽいところがあるし、おっさんって感じは全然しませんから、安心してください。」
「そ、そうかな。ははは。」
それは、褒められてるのか、貶されてるのかよくわからんが、安心していいのか?
「ところで、シュンさんの使ってる石鹸ですけど、自分で作ってるんですか?」
「ん?ああ、まあ、そうだな。どうもこの街の石鹸はオレには合わなかったみたいで、自作することにしたんだ。んで、作り方を色々調べたり試したりして、何とか作れたって感じだな。」
「それって・・・、もらえたりできませんか?」
っく、上目遣いからのおねだり、エリス恐ろしい子・・・・・。
「うーん、個人的に使ってるやつだし、エリスの肌に合わないかもしれないしなあ・・・・。」
「大丈夫です!狐人族は肌が強いですから!それに、合わなくても文句いいませんので!!」
「そ、そこまでいうなら、とりあえず、1個渡すから使ってみて。あ、ただ、オレが作ったっていうのを内緒にするって約束してほしい。」
「わかりました。もし使い心地がよければ、また貰えますか?」
「その時に手持ちがあればね。あと、エリスが使って問題なければかな。」
ちょうどいいからエリスにテスターをしてもらおう。エリスに黙ってテスターをしてもらうのは、少し後ろめたいが、無料で石鹸使えるということで許して欲しい。
その後、料理がなくなるまで話をし、無事石鹸をゲットしたエリスも上機嫌だ。
料理も無くなったということで、会計をすまし店を出る。
「すいません、ここのお金出してもらって。」
「いや、いいさ。年下の子に出してもらうのも格好悪い気がするし。」
「そんなこと気にしなくていいと思いますけどね。それで、まだ夕の鐘がなるまで時間がありそうですけど、この後・・・・・、どうしますか?」
エリスがモジモジしながらオレに聞いてくる。顔が赤いのはお酒のせいなのか・・・。エリスは美人だ、胸も大きいし、嫌いじゃない。しかし、オレは39歳のおっさんだ。エリスは今21歳って言ってたし、その歳の差ってこの世界ではどうなんだろう。
と、考えてたら背筋をゾクゾクと寒気がした。なんだろう、森のほうから、すごい嫌な気配がする。急速に頭が冷え、これは、放置したらダメなやつだと、直感的に思ってしまう。
「シュンさん?」
「すまないエリス。この後、できればもう少しお酒でも飲みたかったんだけど、ちょっと用事があって、行かなきゃならない。」
「そうなんですか、残念です・・・。」
う、エリスの悲しい顔が辛い。耳もシュンとなっている気がする。
「あー、そんな顔しないでくれ。そうだ、今度、オレの家に招待するよ。そこで、ゆっくりご飯でも食べないか?」
「シュンさんのお家に・・・?いいんですか?」
「もちろん、エリスならいいよ。来て欲しいくらいさ。」
「わ、私ならいい・・・、それに来て欲しいって、それって・・・・。どういう・・・。」
エリスがブツブツと何かつぶやいてるな。よく聞こえんが、耳がピンとなっているので、とりあえず、元気は出たようだ。
「えーと、エリス、何ていったか聞こえなかったんだけど、何て?」
「い、いえ!!気にしないでください。わかりました。そういうことなら、しょうがないですよね!じゃ、じゃあ、次はシュンさんのお家でご飯です!」
「あ、ああ。わかったよ。また、組合にいった時に、エリスの休みを教えてくれ。」
「はい、わかりました。お待ちしてます。絶対ですよ?」
「了解した。じゃあ、本当にすまない。そろそろ行くよ。」
「はい、いってらっしゃい。」
「ありがとう。行ってきます。」
そう言うと、エリスの頭を軽く撫でて、オレは、街の門の方へ走り出した。
その後ろには、オレの後ろ姿を、ポーッと見つめるエリスがいたとか、いないとか。
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