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凛として外道のごとく 『ワレ、異世界ニテ特殊部隊ヲ設立セントス』  作者: 振木岳人
◆ オペレーション・セメタリー(墓地作戦) 編
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97 悪党どもの墓場


 レイザーが透き通った高音域でそう叫ぶと、居間でくつろいでいた仲間たちは一気に立ち上がり、それまで緩かった空気は途端に張り詰める。

 あくまでも雑談は時間を潰すための手段であり、我々が直立不動で迎えなければならない人物の、その人の言葉を待っていたとばかりに、三課のメンバーたちはあっという間に戦士の面構えに変わったのだ。

 

 それまでバイパーに付き纏っていたクラリッチェも、周りに釣られて立ち上がる中、オレルとアンナベッラが部屋に入って来た。


「我らが指揮官殿に敬礼!」


 中央に立ったオレルに向かい全員が敬礼する中、アンナベッラはそそくさと居間の一番奥へ進み、クラリッチェの隣にピタリと肩を寄せる。


「あたしに内緒で何話してたのよ?」

「しっ、後で話すです」


 小声で二言三言会話を重ねる魔女二人。

 バイパーにぞっこんになってしまったクラリッチェが、あの手この手で彼を誘惑している間に、アンナベッラの姿が居間から消えてしまったのは知っていたが、まさかオレルと一緒に部屋に入って来るとは……

 アンナベッラも隅に置けないねえと、最初はからかってやろうと思っていたのだが、何やら本人の雰囲気が変わっている事に気付いたクラリッチェ。

 まだ子供だと思っていた妹分の成長に気付いたのか、(ふうん、なるほどねえ)と彼女の顔を見回しながら、軽く頭を撫でてやる。


「座って聞いてくれ、ブリーフィングを始めるぞ」


 部下たちの敬礼に返礼したオレルは、見回した全員に向かって座れと指示し、静まり返ったの見計らって切り出した。


「諸君、我々はパルナバッシュの懐深くに入り込み、闇に紛れて活動して来た。調べるものを調べ、確認するものを確認し、現地で仲間を増やした。そしていよいよ状況は佳境に入り、実力行使の時が来たのだ。我々の一撃を持って、天地をひっくり返すぞ」


 これで帰れると安堵する者、どのような過酷な作戦が待っているのかと身構える者など、その場にいる者たちは様々な感慨を胸に抱いているのだが、それはまだ顔には出していない。

 いずれにしても是が非でも成功させなければならない作戦であるのは間違い無く、どのような想いを胸に抱いたところで、成功させなければ意味が無いのだ。

 だからメンバーたちは真剣な表情のまま、指揮官の言葉に耳を傾けて理解しようと努力するのみ。オレルの言葉以外に物音一つ立たないこの静けさは、そう言う確固たる意志で形作られているのだ。


「オペレーション・セメタリー (墓地作戦)。この作戦名がパルナバッシュにおける我々の最後の作戦となる。この作戦の大きな柱はもちろん、核開発施設の破壊とヴァレリ・クリコフの排除にあるが、それをもって完了とはならない。このオペレーション・セメタリーには付帯する作戦行動が複数ある事から、順を追って説明する」


 ──先ず、このブリーフィング終了後に準備を開始して、パルナバッシュ王レアンドロ六世の直轄領に侵入を試みるのだが、直轄領に侵入して実作戦を行う班と、王都に残って別動作戦を行う班に分ける。

 バイパー、シルバーフォックス、グリズリー、そしてファウストと私が、直轄領に侵入して破壊活動を行う。

 そして、ハルヴァナ、フルモナの狙撃班と、レイザー、マザーズネストは別動隊として王都で作戦展開しろ。


「ぼっ、僕が突入班ですか?」


 眉毛が上に飛び上がりそうな勢いでファウストは目を丸々に驚くのだが、その場にいる誰もが「中佐の説明中に腰を折るな」とは諌めない。何故なら、必ず納得のする説明はあるし、このファウストは軍人になったばかりで軍隊教育が行き届いてないのは周知の事実。

 うるさいと怒るよりも、晴れ舞台だから頑張れよと、暖かく見詰められたのだ。


「追って説明するが、王の直轄領においては魔力探知が頻繁に行われている。私が想像するに、地属性魔法の地走りではないかと思われるが、いずれにしても我々を敵の探知から守り、更に君の魔法で戦闘補助を行なってもらう必要性がある。……一緒に来てくれるな?」

「も、も、も、もちろんです!もう閃光弾の魔力注入の日々にウンザリしてました!是非連れてってください!」


 クスクスと、抑えた笑いに包まれる室内。ファウストに訪れた実戦のチャンスは、彼を高揚の極みに押し上げているようだ。


「いずれにしても、核開発施設は地下に広がる施設である以上、遠距離射撃の援護は望めない。そこでだ、レイザーを指揮官とした別動隊は、陽動作戦として王都で騒ぎに騒いでもらう。近衛警察の増援部隊が直轄領に赴かないようにする、それが使命だ」


 レイザーやフルモナが無言のまま頭を縦に振る。そして何を手段として騒げば良いのか、それについてオレルが言及すると、室内はどよめきに包まれたのだ。


【レアンドロ六世が老いて弱った事を利用し、政治を私物化した宰相マファルダを討つ。建国の象徴である宮廷魔女は、パルナバッシュの正常化を目指して民衆の側に立ち、マファルダを討ち倒してパルナバッシュの栄光を取り戻す】


 「クーデター……」「クーデターだ!」「現体制の破壊!」

 バイパーたちはオレルの言葉に驚きながら、レイザーが過去に発言していた魔女の利用方法が現実になったのだと、納得のため息を盛大に漏らしている。


「宮廷魔女アンナベッラ、宰相マファルダを排除した際、彼女の代わりとなる王族はいるのか?」

「はい、いるです!ベスティーニ皇太子がいるです!マファルダの息子ですが、彼女とは犬猿の仲です」

「その皇太子は、君たちから見て信用出来る人物なのか?」

「優し過ぎて覇気が無い……そう血族間では言われているですが、私の見立てでは賢王になる資質有りです。民衆からも慕われる人物です」

「うむ、ならばベスティーニ皇太子と接触してパルナバッシュ国政の全権掌握に努めてくれないか?君の護衛にレイザーを付ける」

「ありがとうございますです」


 全力で頭を下げるアンナベッラを見て、クラリッチェは大いに慌てる。ちょっとちょっと!あたしの知らないところで話がどんどん進み過ぎてやしないかと、焦りの表情がそう物語っているのだ。

 だが、置き去りにされた感覚を胸の奥で膨らませるクラリッチェを、オレルは置き去りにはしなかった。君の役割は大変だぞと、クラリッチェにも果たすべき使命を課したのだ。


「宮廷魔女クラリッチェ。コンチェッタが不在ならば君が宮廷魔女のリーダーで、西海魔女連合の代表代行だ。君は街に出て民衆に訴えてくれ。核兵器の話、コンチェッタが囚われた話、民主化運動に参加した者たちが拉致されたり虐殺されたり、全ての不条理を民衆に訴えて、民主化運動に火を付けるんだ」

「あたしが?いやいやいや!あたしってそんな柄じゃないよ!民衆の先頭に立つなんて、あたしじゃなくてコンチェッタの方が似合ってるのに」

「王の直轄領で作戦を成功させたら王都にとって返す。そして私たちは必ずコンチェッタとアンナベッラの友人を救出する、必ずだ。だが今はコンチェッタはいない、君が民衆の象徴になるしかないんだ、覚悟を決めてくれ」


 主たる儀式の進行や訪問客への応対は全て、姉貴分のコンチェッタ

 相談事や知恵貸しなとば全て、妹分のアンナベッラ

 そうやって役割を分担する体で、責任から逃れて来たと自覚するクラリッチェは、半分臆病になっている。

 二人の姉妹に全てを任せて、自由気ままにわがままに生きて来たのは、クラリッチェの気質もあろうが、優秀な姉妹に気後れしていたのも事実。

 だからここに来て、民衆の扇動役をやってくれと言われても、自信がみなぎって来ないのだ。


「大丈夫です、クラリッチェなら出来るです」


 アンナベッラは彼女の手を両手で握り、笑顔で激励する。


「クラリッチェ、私からもお願いする。王都が騒然とならねば、我々突入班の作戦成功率は落ちるし、王都に戻ってコンチェッタ救出もそれだけ時間が延びる。時間との闘いなんだ」


 オレルにもそう説得されるクラリッチェは、不安げに目を泳がせながら、やがて自然とバイパーに視点を定めた。自分を救出してくれたお気に入りのイケメンだ。


「やれとも、やるなとも言わない。ただ俺が今言えるのは、あんたはこのままで良いのかって質問だけだ」


 ──このままで、良い訳ないじゃない。このままで良い訳ないじゃない、このままで良い訳ないじゃない!

 小さな反発心が大きく大きく膨らんで行く。 パンパン! クラリッチェは自分の頬を自分の手で張り上げて、凄まじい眼力を持って前を向いた。


「あたしやるよ、やってやる!その代わりコンチェッタの事は頼んだよ」

「彼女の救出は責任を持って我々が成功させる。君も安心して活動してくれ、フルモナとハルヴァナ、狙撃班が君の護衛につく」


 三課のメンバー、そして宮廷魔女の二人。目的と手段は違うものの、ハッピーエンドを目指して気運がぐいぐいと高まって行く。


「直轄領で実力行使、同時進行で王都で騒乱を起こし、その騒乱に紛れてコンチェッタたちを救出して宰相マファルダを討つ。この作戦をもって王都カーランは悪党の墓場と化す、だからオペレーション・セメタリー なのだ。パルナバッシュ王朝の体制変革をもって終了とするこの作戦、諸君の奮闘を期待する!」


「気をつけっ!」と オレルの檄と敬礼に反応したレイザーが、メンバーたちに起立を促した。いよいよ戦闘準備、それぞれの表情は闘志に満ちている。気力充分、体力充分の状態だ。


 パルナバッシュ王国において、参謀情報部三課の最後の作戦がスタートする。それは諜報でも工作でもなく、武器を手にした完膚なきまでの実力行使。

 悪党どもの墓場を作る、オペレーション・セメタリー の始まりなのである。


 ◆ オペレーション・セメタリー(墓地作戦) 編

   終わり



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