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凛として外道のごとく 『ワレ、異世界ニテ特殊部隊ヲ設立セントス』  作者: 振木岳人
◆ オペレーション・セメタリー(墓地作戦) 編
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91 魔女戦線 前編


 王都カーランもいよいよ冬本番。

 大陸の南西にある事から、比較的穏やかな気候で年を越せるのだが、当事者たちはそうでもないらしい。

 大陸北部やアムセルンドの耐え忍ぶしかない厳しい冬を知らないパルナバッシュ国民は、真冬に白い息を吐かなくとも「寒いね」「寒いよ」と挨拶しながら、防寒着をまとわないまま身体を震わせるのである。


 時間がちょうど昼に差し掛かるこの西区の水門広場も、倉庫会社や水運関係の労働者などが昼休み前に仕事を片付けようと、額から汗を垂らして往来しているが、その中に異質な人々が固まっていた。


 異質と言うのはズバリ、魔女ファッション。

 防寒着と言わないまでも、厚手のセーターやジャケットを着込んでいる者たちがほとんどを占める中で、一人だけ露出過多な魔女ファッションで、季節を感じさせない女性がいたのだ。彼女の名前はクラリッチェ、パルナバッシュ王国の宮廷魔女ナンバー2の地位にある女性である。

 彼女の隣には、やはり宮廷魔女で妹分のアンナベッラがぴったりと付いているのだが、彼女はかろうじてトンガリ帽子をかぶっているものの、寒さが苦手なのかモコモコの防寒服で完全防御体制である。

 そして、クラリッチェとアンナベッラの二人がここにいる理由はやはり、「オレル・ダールベックの手下」と面会するため。

 昨日起きたトラブルについて、西海の魔女連合から公式の見解が出たのか、それを伝えるため三課のメンバーとコンタクトを求めてこの場にいるのだ。

 そしてオレルの手下は来た、昨日と同じくウサギを抱えた少年ファウストと、眼光の鋭い青年バイパーだ。


 (はた)から見れば、まるで魔女をナンパでもしているかの様にも見えるのだが、内容は全く違う。

 昨日のブラックドッグ襲撃事件に関しての会話と、更には宮廷魔女側で何やら大きなトラブルが発生したらしい。

 それもあってか、クラリッチェとアンナベッラは顔面蒼白の様相なのである。


「昨日は銃口を向けてすまなかった」


 そう言ってクラリッチェに詫びるのだが、撃つ気は無かったんだとは口が裂けても言わないバイパー。裏を返せば、敵だと認識すれば彼の引き鉄は軽くなるのだと感じられ、クラリッチェは彼の強い想いと容赦の無さに改めて戦慄を覚えている。


「いや、謝罪はいらない。何故なら……どうやらあたしらに責任があるらしいんだ」

「責任?西海の魔女連合にブラックドッグを召喚出来る者がいたと言う事か?」


 クラリッチェはアンナベッラの背中に手を添えて優しく押す。あなたが自分で言うって決めたんだから、しっかり話しなさいなと、その手の温もりをもって彼女を後押ししたのだ。


「あの、あのです……すみません。私の友人が……」

「君の友人が、ブラックドッグの術者なのかい?」


 アンナベッラは声を詰まらせながら、頭を何度も縦に振る。それは友人かと聞かれた問いに対する肯定であり、そして申し訳ないと謝罪する気持ちも含まれている。


「私の幼なじみで、黒魔女の道を選んだフェデリアが……ブラックドッグを呼び出せるです」


 そう説明しながら、アンナベッラはポロポロと玉のような涙をこぼして肩を震わせる。


「本人に……確認しようとしたです。確認しようとしたら彼女の下宿には不在で……彼女の部屋の至るところに血しぶきが!」

「泣かないでくださいアンナベッラ、落ち着いて」


 慌てたファウストが彼女を慰めるも、アンナベッラの号泣は止まらない。彼女自身も何とか嗚咽を噛み殺そうと努力しているらしいのだが、最悪の事態が予想されるこの不安に圧倒されているのだ。


「バイパー、聞いてくれ。アンナベッラの友人に、確かに黒魔女はいた。魔女連合に確認したところ、国内に三名ほど黒魔女が在籍し、王都にはそのフェデリアがいるのみ。つまりあんたの仲間たちを襲ったブラックドッグは、フェデリアが差し向けた可能性が高い」

「だが、その当の本人は謎の失踪を遂げて今も行方不明。彼女の部屋には争った跡があったと言う事か」

「ああ。魔女連合を代表してあんたたちには謝るが、この流れ……あたし的には釈然としない」

「分かってる。彼女が謎の勢力に拉致され、強制的に術を行使させられてる可能性があるって事だろ?」


 今は謝罪などいらない、そのフェデリアの安否を判明させて、真実を明らかにする事こそ大切だと、鎮痛な面持ちのクラリッチェに声をかける。

 宮廷魔女と三課……昨日のピリピリとした関係は霧散したのだが、どうやら彼女たちの陰りある表情は、行方をくらました黒魔女の友人が原因だけではないらしい。

 何故なら、ふとした事にファウストが気付き、彼女に質問したその話題こそが、今まさに宮廷魔女にのしかかっていた大きな問題であったからだ。


「あれ?そう言えば今日は……コンチェッタさんが来る日じゃ?」


 別段深い意味は無かったのだが、ファウストのその質問に二人は凍りつき、そしてがっくりと肩を下げる。

 そしてバイパーもその異変に気付いた。本来謝罪するならば宮廷魔女代表のコンチェッタが行うのが筋道であるはずなのに、何故昨日から連続してクラリッチェがここに現れたのか そこに深い意味を考えたのだ


「助けてくれ。いや、助けて欲しい!」


 だが、ファウストとバイパーのささやかな疑問は、クラリッチェの苦悶に満ちた表情が結果となって現れた。クラリッチェだけではない、アンナベッラなどは更に涙で頬をべしょべしょにしながら、バイパーたちにすがって来たのだ。


「コンチェッタが、コンチェッタが捕まっちまったんだ!」


 パルナバッシュ王国の悠久の歴史において建国の象徴とされる魔女がなんと、バイパーたちに救いを求めて来たのである。



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