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凛として外道のごとく 『ワレ、異世界ニテ特殊部隊ヲ設立セントス』  作者: 振木岳人
◆ オペレーション・セメタリー(墓地作戦) 編
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90 長期的視野


 ──パルナバッシュ王レアンドロ六世の直轄領最深部、間違い無くそこに核爆弾の秘密製造施設があると判断される──


 食事しながらで良いから聞いてくれと言いながら、そう切り出したオレルは自分の見た世界と、それに対する考察を述べ始める。

 最深部は人的警備が厳重なだけではなく、魔法による不審者探索が常時行われており、隠密であっても潜入は無理である事が伺えた。つまりは現地での情報収集の限界点であり、襲撃に関しては事前情報が乏しい中での、やり直し無しの一発勝負で結果を出さねばならなくなった。

 そう説明すると、三課のメンバーたちの表情にも不安の色が浮かんで来るのが手に取るように分かるのだが、オレルは『ただでは転ばなかった』について説明する事で、彼らに光明をもたらす。


「不審者であれば潜入は不可能に等しいが、関係者であれば毎日出入りが可能となる。私は直轄領最深部に出入りする物資運搬のトラックを目撃して、帰りはそのトラックに忍び込んで王都に帰って来た」


 おや? と、メンバーたちの目が見開く。厳重な警備網によって門扉は完全に閉ざされたと感じていたのだが、その門扉が頑丈ではない事に気付いたのだ。


「トラックは民間委託の運送業者だった。王都の北地区にあるマヌエルルーチョ運送がそれで、ご丁寧に直轄領へ物資を運ぶ専用トラックは、社名のペイントは無くひと目見てもどこの会社か分からないようにしてある」


 ここでオレルの瞳が残酷に輝く。

 この社名と所在地が確認出来た事に対する考察と、今後のプランを述べようとしているのだが、このポイントこそがオレルの真骨頂。目的を達成させるために敢えて冷酷無比を装う姿が、全面的に押し出されたのだ。


「私はこのマヌエルルーチョ運送の経営者又は役員と接触する。接触すると言っても有効的にではなく、相手方の弱みを握るか家族を人質に取る形で情報を得る。最悪、拷問も辞さない」


 ……ゴクリ この時のこの嚥下えんげの音は、三課のメンバーたちがクラッカーや鶏肉のケチャップ煮を飲み込んだ音ではない。


「この作戦は私が単独で行い、そしてそこで得た情報を元に、秘密施設襲撃作戦の具体的な方法を立案する……そこでだ」


 オレルはワザと注目を集めるために、一旦自分の言葉を遮り、喋り過ぎて口が乾いたとでも言わんばかりにスキットルの蓋を開けて酒を飲み込む。

 そして「ふう」と息を吐き出し、全ての視線を感じた上で本題を切り出した。


「そこでだ、今日のこのミーティングの場で君たちにお願いがある。私は核爆弾の製造を阻止する作戦プランを立てるが、私が留守にしている間に我々の攻撃範囲を考えておいて欲しいのだ」


 この言葉で辺りは一瞬ザワついた。指揮官であるオレルが作戦を立案し、部下である我々がそれを忠実に実行に移すのが当たり前だと思っていたのだが、突然指揮官が攻撃範囲を考えろと言って来たのだ。首を傾げない者がいない訳が無いのだ。


「中佐、ちょっとよろしいですか?」


 軽く手を上げて発言の許可を求めるバイパー。オレルは軽く笑いながら、いちいち許可を求めず自由に発言しろと促す。


「秘密施設の襲撃については中佐がプランを立てて頂くとして、攻撃範囲とはどう言う意味でしょうか?」


 そうそう! とでも言いたげに、シルバーフォックスやフルモナたちは頭を忙しく上下に振りながら、前のめりになってオレルの言葉を待つ。

 ただ、話を聞いていたレイザーは上官の意図するところが読めたのか、腕を組みながらうつむき、真剣に考え始めている。


「作戦プランとして大きな柱は出来ている。研究者ヴァレリ・クリコフの排除と、核開発施設の破壊だ。だが同時にこれは、パルナバッシュ王国の国家機密を排除する事を意味する。そこでだ、人数の限られた我らで、パルナバッシュ王国にどれだけの打撃を与えるべきかを考えて欲しいのさ」


 オレルの真意が理解出来たとばかりに、シルバーフォックスの表情から曇りが吹き飛ぶ。さすがは突入班の司令塔とばかりに、オレルに向かって確認と言う形で逆に質問をぶつけて来た。


「襲撃する際はもちろん敵の警備隊を排除しますが、追撃されない方法も策定しておかなければならない。つまり、隠密の作戦として非正規戦を行うが、派手になれば純軍事行動になってしまう恐れがある。その線引きを考えろと言う事でしょうか?」

「シルバーフォックス、良い質問だ。敵は研究者と警備隊だけではない。核開発に協力する西風魔導協会の存在も、未だに情報不足で不気味であり、パルナバッシュの王族もどこまで深く開発に関与しているか不明だ。君の質問通り、我々少人数の特殊戦部隊が敵軍と事を構える訳にはいかないからね」


 なるほど……と、メンバーたちはひとしきり感心した後に悩み始めるのだが、いよいよここでレイザーが口を開く。

 オレルは我々の論理構築を試しているのではないか?ならばオレルは我々の答えに何を求めている?──短時間でそう熟考したレイザーが、導き出した答えを披露したのだ


「中佐、その件について発言させてください。アムセルンドの国家安全保障問題として、我々はパルナバッシュの秘密核開発を阻止して研究者を排除する。これが一つの柱となりますが、思いのほか敵の存在が重厚に感じます」

「うん?重厚とはどう言う事かね?」

「例えば核研究者、例えば近衛警察の警備隊、例えば西風魔導協会、更には近衛警察の王都防衛隊。これがパルナバッシュ王を中心としてリンクしているのなら、我々はどれか一つを敵に回せば全てが敵になる可能性があります」

「そうだね、レイザーの言う通りだ」

「そこで、作戦の柱は我々が実行するとして、もう一つのプランを策定すべきではないでしょうか?【敵地内のレジスタンス組織を援助して政府を混乱させる】。我々が作戦を完了して無事に母国に戻るには、この過程を活用すべきかと」

「敵地内のレジスタンス組織を援助してパルナバッシュを混乱させる、か。ちなみにレジスタンス組織とは?」

「地下抵抗組織ではありませんが、今回の場合は、レジスタンス組織は【宮廷魔女】【西海魔女連合】がそれに相当するかと判断します」


 「魔女?」「彼女たちを?」「魔女を利用するのか?」と、滝を打ったように騒然とする室内。

 たまたま王都から脱出する際に、バイパーは魔女のクラリッチェに銃口を向けてそのままになっているが、情報交換を繰り返し行って来た、いわゆる友好的な存在である事は確か。

 だがレイザーは、その魔女たちを矢面(やおもて)に立たせようと主張したのだ。魔女とコミュニケーションを図っていた側からすれば、怒りが込み上げて来てもおかしくないのである。


 だが、オレルの瞳の奥に不快感は湧いて来ない。むしろそう主張するレイザーを好意的に受け止めているようだ。

 そしてレイザーの真意を測るように、今度はオレルが質問を投げかけた。


「魔女たちをけしかけてパルナバッシュに混乱を起こす。案としては悪くないが、果たしてそれはアムセルンドの国家安全保障問題に密接に関わり合うと言えるかい?」

「言えます。核開発を阻止して担当者を排除しても、必ず第二第三の研究者が現れてノウハウを引き継ぐでしょう。王族や西風魔導協会も深く関わっているなら、間違いなくそれは起こる。ならばパルナバッシュに政変を起こして体制を崩壊させるのです。全土が混乱すれば開発どころでは無いはずです」

「なるほど、ちょうどパルナバッシュは民主化運動で揺れ動いているからね。建国の魔女が動けば、民衆も劇的に動くかも知れないね」

「これは長期的視野でのアムセルンド国家安全保障対策です、大義名分が立つと思うのですが……」


 レイザーの恐るべき提案に、その場のメンバー誰もが凍りついているが、戦慄を覚えていると言う事は誰もが「その手があったか」と叫んでいるのと同じ。

 唖然とする空間で一人口元に笑みを漏らす。──喝采しているのだ、オレルは腹の中で喝采しているのである。西側諸国を敵対視する問題国家を、知恵一つで民主化させてしまうCIAのトップエージェント並みだと讃えているのだ


「レイザーの意見は実に興味深い。君たちに反論や別の意見はあるかね?」


 立ち上がって眺めるも、ぐうの音も出ないのか辺りには静けさが漂っている。

 レイザーの発言が仲間たちを飲み込む……流れとしてはそう見えたのだが、しかしここでオレルがクサビを打った。今まで見せた事の無い怒りと冷酷さを合わせたかのような表情で、沈滞した部下たちに檄を入れたのである。


「我々参謀情報部三課の理念は何だったか?人種や性別で差別しない、完全実力主義の部隊であったはずだ。レイザーの意見に呑まれてどうする?気に入らなければ気に入らないと食い下がってみろ。私はそれを望んでいるし、考える事をやめた者は部隊から去れ!」


 こう言われてしまえば、更に意気消沈してしまうのは当たり前。だがそうなる事を理解した上で、オレルは元の柔らかい表情に戻る。


「いずれにしても、魔女との接点を切る訳にはいかない。バイパーとファウストは王都に毎日行って魔女とコミュニケーションを図れ」

「わ、分かりました」

「そして私は明日出立するが、戻って来るまでの間に議論を重ねるように。帰って来た私に方向性を示せ」


 では解散と言いながら、オレルは居間の外に出て行くのだが、彼の背中に視線を合わせながら、レイザーはこう思っていた、中佐は既にそこまでプランを立てていた。中佐は元々この国をひっくり返す積もりでいたのだと──


 指揮官のいなくなった居間では、やがて喧々轟々と議論が始まり、飲酒の許可も下りていた事から、激しい言い争いにまで発展したらしい。

 だが、次の日には皆が皆ケロっとした顔で普段の顔に戻っていた。決して意見が合わなくとも、信頼する仲間に間違いは無いのだ。そして意見が合わなくとも最終到達点は皆同じなのである。 勝利と言うゴールを目指すだけなのだから



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― 新着の感想 ―
[一言] なんか幼女戦記を思い出した、あれはめっちゃおもろい
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