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09 ハーフエルフの姉妹


 首都バルトサーリ郊外、東西南北の主要幹線が交差する地区の草原に、『アムセルンド陸軍第二十七広域即応大隊』の駐屯キャンプがある。

 軍事国家であるアムセルンド公国は四方の国家と常に敵対関係を維持しており、常に紛争の火種がくすぶっている緊張状態が続いて来た。

 この第二十七広域即応大隊は、周辺諸国との緊張状態が加速して国境紛争が起こった際に、可及的速やかに現地国境部隊に合流して防衛活動を行う部隊である。

 戦士から魔法使いまでを含めた統合歩兵部隊から、弓兵、砲兵、騎馬隊などの戦闘部隊と補給部隊が常に待機して、現地からの応援要請に備えている。


 今、オレル・ダールベックはこの広域即応大隊の駐屯キャンプを訪れている。

 初夏と言えど高地のバルトサーリは山々からの吹き下ろしの風は体温を奪う。ベレー帽に軍服姿の彼は、短いコートをなびかせながら、高級将校らしく堂々と検問から駐屯地内へと入って行った。


 検問から宿舎を兼ねるテント群に向かい、受け付けの士官に問い合わせる ──ナーデロック狙撃小隊のテントはどこだ? と

 受け付けの老いた二等軍曹は、何だこの生意気な若造はと眉をひそめるも、襟章の「中佐」が目に入った途端、椅子から飛び跳ねるように立ち上がり、驚きながら敬礼する。


「ようこそ中佐殿!ナーデロック狙撃小隊は、右のテント群を奥に進み、六ブロック目がそれであります!」


 二等軍曹の慌てた声に、周囲の事務方が何事かと反応するも、オレルは礼を言いながら足早にその場を立ち去った事で、謎の若い中佐が受け付け所で話題になる事は無かった。


 ナーデロック(針の穴)狙撃小隊のテントを目指し、肩で風を切って歩くオレル。薄手のコートが風になびくその姿は、新進気鋭の若手高級将校を彷彿とさせるのだが、無表情を貫くその眼光が鋭く、見る者にとって決して好感度の上がる姿ではない。むしろ中佐の襟章に対して若さのアンバランスと、若者らしからぬ氷のような冷たい表情と視線から、普通の兵士らしからぬ謎の雰囲気漂う闇の使者のようにも感じられた。


「アンネリエ・フェーデル二等軍曹と、ブリギッタ・フェーデル三等軍曹はいるか?」


 ナーデロック狙撃小隊の小隊長に話を通し、小隊兵士のテントに赴いたオレルは、くつろぐ兵士たちに向かってそう叫ぶと、兵士たちの輪からちょっとだけ距離を置いた二人組が立ち上がる。

 オレルの背後にいる小隊長は、問答無用でやって来たこの部外者の中佐を追い返す訳にもいかず、憮然とした表情で二人組を手招きした。


「こちらのダールベック中佐が二人に話があるのだそうだ。聞くだけ聞いてやってくれ」


 オレルの前に立って敬礼するアンネリエとブリギッタ。見ればまだ二人とも頬の紅く、少女のあどけなさを残している。だが良く目を凝らすと、二人の耳が多少長く、そして多少とんがっているのが分かる。──そう、この二人はハーフエルフであり、人間とは時間軸の違う亜人なのだ

 

「私は陸軍総局参謀部参謀情報部三課のオレル・ダールベック中佐だ。君たち二人と話がしたい。……ちょっと席を外すよ」


 オレルは二人の敬礼に軽く返礼しながら、二人を連れてこの場から離れる事を小隊長に告げる。つまり、アンネリエとブリギッタの今後については、いくら小隊長であっても知る事は無用であると突き放したのだ。


 ハーフエルフの少女二人をテントから連れ出し、人目の付かない倉庫の裏で止まったオレル。一体何を切り出して来るのかと心中穏やかではない二人に対し、淡々と説明を始めた。


「結論から言う、私の部隊に来い。君たち二人の能力が狙撃小隊で埋もれてしまうのは惜しい」

「私……二人ですか? 」

「そうだ。狙撃手のアンネリエ、スポッター(観測員)のブリギッタ、二人で一つのチームならば片方だけ呼ぶ意味は無い。私は君たちの能力を評価している」

「評価ですか? あの、私たちハーフエルフ……ですよ? 」


 アムセルンド公国だけでなく、この大陸には未だに他の人種を受け入れない排他的な空気が漂っている。それは人間だけでなく、亜人でも獣人でも同じで、自分たちの生活領域を侵食する存在として、様々な人種が自分たちは一番だと言う自負の元に他の種族を蔑んでいた。

 アンネリエとブリギッタも、ハーフエルフだからと言う理由が元で様々な負の感情をぶつけられていたのか、オレルの言葉を素直に受け入れられないでいるのだ。


「アムセルンド公国の国家安全保障問題を解決するにあたり、ハーフエルフじゃダメなのか?」

「いえ、そう言う意味ではないのですが」

「言わんとしている事は理解出来る、だが私の部隊は性別や出自など一切排除した完全実力主義の部隊だ。殺害確認率トップのスナイパーチームを私が欲しがらない理由は無いと思うのだが」


 決して押しが強い訳ではないのだが、オレルの評価に戸惑いを隠しきれずにいる二人。今まで散々人間たちから忌み嫌われて来た記憶が邪魔するのか、未だに半信半疑と言った表情でいる。


「フェーデル姉妹、陸軍入隊五年目で三度の国境紛争に派遣され、通算殺害確認数は五十二。陸軍狙撃部隊においてトップの成績だ。そして通常支給されただけのライフル小銃で九百メタルの狙撃に成功している」

「そ、そこまでお調べになっていらっしゃるんですか」

「調べるのは簡単だ、そしてここからは憶測の範囲でしかないが私の見解だ。君たちは二人とも風と相性が良さそうだ、風の精霊使いだね?」

「ちゅ、中佐……」

「今まで人間種に虐げられて来たから、そこまで言う義理は無いと思って今に至るのであろうが……どうかね?もし君たちがアムセルンドに忠誠を誓った軍人ならば、本当の実力世界である私の部隊で働いてみないか?」


 ──アムセルンドに忠誠を誓った軍人──

 この言葉はフェーデル姉妹の心に刺さった。

 アムセルンドを想い、平和のために宣誓して軍人となったのに、成果を上げてもハーフエルフと言う理由で常に正統な評価を得ずに苦渋を味わって来たのだが、この中佐の部隊は全てが実力で評価されると言う。

 国家に、軍に忠誠を誓ったならば、その忠誠心と行動に対して正統な評価があっても良いと思い、二人は心がグラグラと揺れ始めていたのだ。


「我々参謀情報部の軍事作戦は非正規戦。つまり戦場で勝敗を決する事は無いが、我が国家に仇なす国内外全ての勢力が敵になる。"常に戦場”だ。参加するか否か、答えをくれ」


 もうこの時点で、フェーデル姉妹の心は決まっていた。

 オレルの言葉を耳にしながらも、姉妹で互いの顔をチラチラ見ては腹の底を確認し、私は参加したい!と高揚感たっぷりの表情で相手にアピールしていたのだ。つまりは姉妹揃ってオレルの部隊入りを希望したのである。


「中佐、是非とも参加させてください!」

「私頑張ります!中佐の部隊に入れてください」


 ハーフエルフの二人はそう言いながら敬礼し、オレルの言葉を待つ。

 オレルは口元に微かに笑みを浮かべ、よろしいと二人の入隊を歓迎しながら、取り出したメモ帳に何かを忙しそうに書き、そのまま千切って姉妹に渡す。


「自分の荷物を整理した後、ヒトゴーマルマル時にこの住所に来い。そこは私の部隊のセーフハウス(隠れ家)で、先任士官たちが待っている」


 そう言っただけでオレルは(きびす)を返し、ツカツカと軍靴を鳴らして帰って行く。

 話はついたのだ、雑談などしている時間など無いーー彼の背中はそう言っているようにも見える

 ただ、残されたハーフエルフの姉妹は、いきなり帰るなんてなんて失礼なの!とは怒っていなかった。逆に憧憬の眼差しを持って、小さくなって行く彼の後ろ姿をいつまでも瞳に焼き付けていたのである。彼女たちが胸に抱いた気持ちは明らか、それを人は希望や期待と呼ぶのであろう。



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