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凛として外道のごとく 『ワレ、異世界ニテ特殊部隊ヲ設立セントス』  作者: 振木岳人
◆ オペレーション・セメタリー(墓地作戦) 編
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89 脱皮 ~兵士から エージェントへ~


 パルナバッシュ王国の王都カーランから、東北東に延びる街道を車で二時間ほど走らせると、のどかだった田園地帯や地平線まで広がる平野が、やがて海原でうねる波のような丘陵地帯となり、背の高い森と果樹園が点在する林地へと変わる。


 広く見渡すと、視界のあちこちに集落も点在しているの確認出来るのだが、珍しい事に、とある廃村らしき集落の一つから、空に向かって細い煙の筋が立ち上がっているのが確認出来る。

 古くに棄てられたような、時間の流れを感じさせるその廃村の中で、レンガ造りの煙突から唯一煙を立ち上らせる廃屋。そこには化石自動車が二台とバイクも停車しており、新たな住人がいる事を示しているようだ。それも、この家を再建させて定住するのではなく、仮の住処(すみか)として雨露をしのごうとする者たちが。

 ここはアムセルンド公国陸軍 参謀部 参謀情報部三課の緊急避難場所。通称『拠点B』と呼ばれるセーフハウスである。


 ここ王都カーランから東北東に伸びて、アムセルンド公国のマルヴァレフト領に繋がる事から、武器や食糧などの物資もこの拠点Bに備蓄させ、王都内でトラブルがあった際の一次撤退場所であると共に、補給場所として利用していたのである。

 もちろん、物資の備蓄や補充を担当するのはレイザー。公国のマルヴァレフト領出身でパルナバッシュ王国国境線の国境警備隊出身である事を最大限活用し、独自の国境超え秘密潜入ルートを策定。国境警備隊にも助力を乞い、途絶える事の無い補給ルートを確立したのである。


 潤沢な物資を廃墟に隠し、三課のメンバーは王都カーラン内で作戦活動を行なっていたのだが、今、全てのメンバーがこの拠点Bに集結していた。


 ブラックドッグの襲撃を受けていたシルバーフォックスとグリズリー。そして二人を車で回収して逃走したバイパーとファウスト。

 そしてその四人が安全圏まで脱出出来るようにと、迫って来た近衛警察の鎮圧部隊を足止めしていたフルモナとハルヴァナの狙撃班がバイクで拠点Bへ。

 更には、カーラン内のセーフハウスで部隊指揮を執っていたレイザーと、通話オペレーターのマザーズネストも車で逃走、拠点Bで仲間と合流した。

 王都内にあるセーフハウスは敵勢力に発見された訳ではないのだが、別の理由をもって二人とも車に乗って王都を離れた。──パルナバッシュ王の直轄領から戻って来たオレルと通信が繋がり、彼を回収して拠点Bに合流したのだ。


 かくして、三課の全員は王都郊外で再集結を果たしたのだが、その表情に疲労の色は浮かんでおらず、瞳には闘争心が溢れている。

 突如、正体不明の存在に襲撃され、撤退を余儀なくされたのだが、『それもまた一つの流れ』として捉えるにとどめ、自分たちの最終的な勝利を信じて疑わなかったのだ。


 夕暮れ時、雨風を凌ぐだけの隙間風暴れる居間に、メンバーが集まり、暖炉の火で暖を取りながら食事にありついている。

 暖炉に放り込まれた焚き木がパチパチと()ぜているのだが、その音だけが屋内に響き、一切の会話どころか独り言さえも聞こえて来ない。

 バイパーもシルバーフォックスも、フルモナたちやマザーズネストも、その場にいる全ての者たちは息を潜め、黙々と野戦携帯用の戦闘糧食を口に運んでいるのには理由がある。

 “我らが指揮官”が単独作戦から帰隊した直後であり、汗を流して着替えたのちに居間にやって来る事から、『指揮官の口からどのような事が語られるのか』を座して待っていたのである。


 暖炉の近くで温めておいた糧食の缶詰は鶏肉のチリケチャップ煮。人肌を穏やかに温めつつもその酸味も相まってか、口に入れた者の胃に染み込んでは身体を芯から温める。

 そして缶詰だけで絶対量が足りない者たちは、これまたやはり支給品のクラッカーの封を開け、黙々とそれを口に放り込んでは小気味良く噛み砕いている。


 暖炉の炎だけが激しく踊るだけの、ひどく静まり返った空間であったがそれも終わり。

 気配を察知したレイザーの甲高くも凛々しい叫び声が室内に轟いた。


「……気をつけっ!」


 古びたドアを開けて、きしむ音と共に入って来たのはオレル、三課の指揮官だ。

 だが、不思議な事に今日のオレルは何かしら"やわらかい"雰囲気を持って皆の前に現れ、いつもとは何かが違う。


「我らが指揮官殿に、敬礼っ!」


 食事の手を止めて直立不動の姿勢をとったメンバーたちが敬礼でオレルを迎えると、オレルは軽く返礼しながら何と……部下たちに座って食事を続けるようにと促したのである。


「レイザーから報告を受けた。皆、良く自分のポジションで粘り強く対応してくれたな」


 腹が減っているので食事を再開したいのは山々だが、指揮官に褒められるのもまんざらではない。メンバーたちは各々席には座るが、それでもオレルを見詰めている。


「どうした?食べて良いんだぞ。冷めない内にやってくれ」


 部下たちが緊張の面持ちで見詰めて来る事に気付いたオレルは、自分が立ったままでは部下も簡単にはリラックス出来ないのだと悟り、自嘲を混ぜた苦笑で口元を緩めながら、壁際に置いてあった椅子を取って皆の前へと座る。

 そしてポケットに入れてあったスキットルを取り出し、部下が見詰める前でゴクリゴクリと美味そうな表情で酒を喉に流し込んだ。


「ふう……生き返ったよ。直轄領は酷かった、土と肥料にまみれて鼻が曲がりそうだった」


 ……クスクス

 リラックスしろとオレルが気遣ってくれている事に気付き、大した冗談でもないのだがフルモナが笑う。

 それを皮切りにメンバーたちは緊張を解いて食事を再開したのだ。


「今日のこの時間はブリーフィング (作戦伝達説明会)ではない、ミーティングだと考えて欲しい。つまりは話し合いの部類に属する会合だ」


 メンバーたちはそのミーティングと言う言葉に違和感を覚えるのだが、それもそのはず。軍隊組織は全て上からの指示で動く組織であり、末端の兵士たちが独断で動くなとあり得ない話である。

 今でさえオレルの命令を待っている者たちが、この期に及んで意見交換を行いたいと提案されても、ピンと来るはずが無いのだ。


 しかし、オレルはそれを望んでいる。それもその場しのぎの言葉ではなく、心から願うような口調で、ミーティングの開催を宣言したのである。──パルナバッシュに来てからの三課の成長を実感し、次のステップを模索しているように。


 王都で合流し、この拠点Bに赴く車中で、オレルはレイザーから事の顛末について全ての報告を受けた。

 シルバーフォックスとグリズリーの噂を広める作戦は、街が混乱するほどの成功を収めている。

 ブラックドッグに襲撃され、近衛警察の鎮圧部隊が迫って来ても理性的な撤退に終始し、バイパーの救援まで持ち堪えた。

 バイパーは宮廷魔女に銃を突き付けながら魔女側の責任を追及し、立場的優位を確立させた。

 そして近衛警察の鎮圧部隊の進行に関して、一切射殺を行わずに頭を抑えた狙撃班。

 これらの流れを鑑みても、命令のみで動く兵士には出来ない展開なのである。言い方を変えれば、状況の変化に応じて最適な行動が取れる『エージェント』に変わりつつある事を、オレルは確信したのである。

 もちろん、レイザーはその時執った自分の指揮についても同じ。同時進行の作戦をセッションとして一つにまとめ上げた才能は、非凡としか言いようがない。


 だからオレルはこの拠点Bにたどり着いてから、未来を感じる喜びを噛み締めていたのであるーー彼らは伸びる、彼らは化ける と


「私が単独で潜入したパルナバッシュ王の直轄領、そこで得た情報を皆に披露する。その上で、核爆弾開発阻止作戦を実行するにあたって、皆の意見を聞かせてくれないか?」


 オレルの腹の中には、すでに作戦のプランはある。だが、あえて意見を募る事で、オレルは三課のメンバーに脱却を求めていたのである。

 命令に忠実であっても独創性の無い機械的な兵士から、命令に忠実且つ、目的のためにあらゆる想像力を働かせるエージェントにステップアップして欲しいと。

 そう思わせるだけの可能性を、彼ら彼女らは秘めていたのだ──



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