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凛として外道のごとく 『ワレ、異世界ニテ特殊部隊ヲ設立セントス』  作者: 振木岳人
◆ オペレーション・セメタリー(墓地作戦) 編
87/157

87 プロローグ 『ゲヘナ・ウォーカー』


 『ゲヘナ・ウォーカー』直訳すれば地獄を歩く者。

 意訳をもってすれば、『地獄の旅人』と言う表現が一番適していると言われている。


 本来地獄と言えば、東洋の宗教学的には罪人の魂を罰する場所とされ、西洋の宗教学的には天に仇成す悪魔の棲む場所とされている。西洋では罪深き人の魂は地獄ではなく煉獄に落とされて清められる事から、地獄は悪魔の王国と認識される。

 それはつまり、西洋の視点で言えば、悪意渦巻く地獄を旅する者をゲヘナ・ウォーカーと呼ぶのであるが、その旅の目的などは無い。役割や使命など与えられる訳でもなく、ただ何かを求めてウロウロと彷徨い歩き、そして歩き疲れて倒れて死ぬだけの存在。それがゲヘナ・ウォーカーである。


 そしてその地獄の旅人とは、サタンやアスモデウスやバイモン、またロノウェやベリアルやグレモリーなどと言った一流どころの名だたる悪魔では無い。地獄の旅人には個体名など無いのだ。

 何故ならば、地獄の旅人ゲヘナ・ウォーカーの正体とは人間。いや、元は人間だった存在の成れの果てであり、地獄を彷徨う悪魔に堕ちたとて、悪魔からも相手にされない者であるからだ。


 ──神と悪魔がその覇権を争って衝突する最後の黙示録戦争、その天と地を切り裂く苛烈な戦争において、地上で生き残ったわずかな人間の中の更に一部が、怒りと哀しみに満ちて変貌を遂げるのである。


 人間社会が、そして自分自身が作り上げて来たちっぽけな幸せ。そのささやかな幸せを黙示録戦争でことごとく破壊された一部の人間は、怒りと哀しみに打ち震えながら最後の慟哭に包まれるのである。

 アダムとイヴの頃から人類一人一人が受け継ぐ『原罪』。その原罪を、怒りや恨みや悲哀などのあらゆる負の感情で燃え上がらせるのだ。

 そして原罪が燃え上がった人間は、「悪魔の力持つ人間」「何処にも帰る場所の無い者」「天使から見下される人間」「悪魔にすら嫌われる者」として、命尽きるまで彷徨い歩かなくてはならないのである。

 つまり、生き残ったわずかな人間として、新たな千年王国を信じて生き続ける事が出来なかったのだ。


 『ゲヘナ・ウォーカー』

 魔法学者や魔法術士と違い、悪魔を召喚したり契約を結ぶ事のある黒魔女であるならば、その存在を耳にする事はあるかも知れない。

 しかし世界人口の数パーセントにも満たない悪魔使いの黒魔女が知っていたからと言って、その名前が世間に出回る事は無い。何故ならば、そんな名も無き地獄の旅人を、わざわざ呼び出す者などいないからだ。

 そもそもが、名前も分からなければ呼び出せないのである。


 この物語は、ブラック企業の第一線で活躍しながら謎の自殺を遂げた課長が、何回かの転生を繰り返してアムセルンド陸軍所属の諜報部員になった物語。


 ブラック企業の課長から、魔法系統を確立させた若き天才魔術師に生まれ変わるも、革命の旗頭に祭り上げられた後に革命が失敗し、ギロチン台で処刑されて再び転生。

 今度は『拳聖』と褒め称えられる武闘家としての人生を歩むも、戦乱や闘争の無い平和な時代に生きて、何らイベントの無いまま老衰で他界してまたまた転生。

 そして一部の「天使崩れ」にしか知られていない事実だが、黙示録戦争が起きた世界において、何らかの理由をもってゲヘナ・ウォーカーへと変化して命尽きて転生。

 この世界において四回目の転生を果たし、アムセルンド公国の陸軍軍人を経て、諜報機関の指揮官となったオレル・ダールベックの物語である。


 孤独と孤立の果てに絶望を見てひっそりと命を閉じ

 才気に満ちた若者として担がれ、そして首を落とされ

 心身を鍛えて人の円熟味を備えると今度は何も無く

 果ては地獄の旅人となって彷徨い続ける

 同じ世界の輪廻転生の輪から外れて、多次元世界の時間軸すらずれた世界において四度も転生を果たしたオレル・ダールベック。

 彼は今、何を夢見て生きているのか……



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