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凛として外道のごとく 『ワレ、異世界ニテ特殊部隊ヲ設立セントス』  作者: 振木岳人
◆ レアンドロ六世の直轄領、その正体 編
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84 バイパーの想い


『オペレーション・スモールトーク班に203状況発生、205状況に進展する可能性を報告して来た!狙撃班においては205状況についての対応を指示する!なお、ウィッチハント班は警戒して状況続行、新たな指示を待て!』


 当事者のシルバーフォックスとグリズリーだけでなく、三課のメンバーであるバイパーやファウスト、ハルヴァナとフルモナの左耳に付けた小型の思念受信機に、マザーズネストの声がけたたましく飛び込んで来た。

 シルバーフォックスたちの報告を受けたレイザーが判断し、マザーズネストを通じて一斉送信で指示を出した結果であり、レイザーのこの鶴の一声が、別々に進行させていたオペレーションを一つにまとめ、彼ら彼女らは参謀情報部三課と言う一つの組織として動き始めたのである。


「203状況……味方が敵勢力からの追跡を受けている状況。攻撃はされていないものの、味方の援護が無ければ該当エリアから脱出が望めない!」

「そうよ。それが205状況に変わるかも!」

「205状況、敵勢力が単なる追跡から、攻撃による味方排除に変化する可能性。……フルモナ、行こう!」


『マザーズネストより狙撃班へ達する。シルバーフォックスとグリズリーの現在地は、カーラン飲食街より南東へ五百メタルの住宅街。カーラン東外壁門に向けて逃走を開始。援護頼めるか?』


 現地で購入した低排気量の古いバイクを街角に停め、ウィッチハント班とスモールトーク班の緊急事態に備えていたフルモナたち。

 緊急の一斉送信を受け、そして狙撃班への応援要請を受けた途端、血相を変えてバイクにまたがる。


「東の外壁門なら、管理棟の屋上が見渡しやすい!そこに向かって!」

「分かったわハルヴァナ。飛ばすから、しっかり掴まってなさい!」


 ドロン!と白煙を吹きながら回転を始めたエンジンをフル回転に上げて、フルモナが運転するバイクは王都の東に向け矢のように飛んで行った。


 一方、こちらは王都カーランの西に位置する水門広場。

 毎日恒例になっていた宮廷魔女との極秘の情報交換は今日も問題無く行われており、使い魔のウサギを抱えた魔法使いの少年ファウストが、魔女一名と会話を重ねている。

 魔女と情報交換を行い、宮廷内部や王国政府の意向を探るオペレーション・ウィッチハントは、交渉係としてファウストが魔女と接し、バイパーが密かにファウストの護衛を行なっているのだが、本日はファウストがヘロヘロになる日。

 相手側もローテーションを組んでいるのか、コンチェッタ、クラリッチェ、アンナベッラと日替わりで現れる人物が違うのだが、なぜにファウストがヘロヘロになる日なのかと言えば、原因はクラリッチェにある──過剰な色気と荒々しい言葉遣いの女王様気質は、ウブなファウストを腰砕けにしてしまうのだ。


 水門広場からちょっと身を引いて、近くの倉庫の影から様子を伺うバイパー。このクソ寒い中で過剰なほどに肌を露出してファウストに近寄るクラリッチェと、顔を真っ赤にしてオロオロするファウストを遠巻きに見詰めながら、最初は羨ましいとは思ったものの、毎度毎度のこの繰り返しを見て食傷気味。あの少年はいい加減成長しないなと苦笑しているあたりは、自分だって二十歳前のウブな青年である事を棚に上げているようでもある。


 このように、雑談で終わってしまう日もあれば、有用な情報を得る日もある。

 パルナバッシュの国王レアンドロ六世は老いがひどく、自力で歩くどころか玉座から立ち上がる事すらままならず、今では娘の宰相が代理として下々の者に声を発している現実や、パルナバッシュの血族は大勢おり、次代の王座を求めて静かな権力闘争が始まっている事など、王家の裏側やパルナバッシュの世情の実態など、様々な情報を得られている。

 また、パルナバッシュ建国に寄与した魔女たちは、立場こそ宮廷魔女として今も崇拝されているものの、今では儀礼的な存在としてただそこに立っていろと指示されるのみで、王家や政治に一切口出し出来ないほどに冷遇されているとも聞いた。


 パルナバッシュの(まつりごと)において、名前は連ねるが手出しは出来ない存在──それが建国の礎である魔女の現在の姿

 オレルや三課に対して意外なほどに協力的なのは、長年に渡る王国側からの冷遇が起因しているのかも知れない。


 だが今日はコンチェッタの当番日。そしてファウストがヘロヘロになる日。

 露出過多の姿で視覚を奪い、特徴的な香水で嗅覚を奪い、そして事あるごとに抱き付いたり腕を握ったりで触覚を奪うクラリッチェのやり方は、それはそれ魔女の作法なのだろうが、彼女が来る日は正直なところ三課にとってはハズレの日である。

 そして、そんなゆるい時に限って、ファウストとバイパーの念話受信機にマザーズネストの緊急一斉送信が轟いたのだ。


(シルバーフォックスたちがヤバい、追跡してる連中は近衛警察か?)


 緩んでいたバイパーの身体に激しい緊張が駆け抜ける。倉庫の影から水門広場にいるファウストと魔女を監視していたが、ファウストたちも襲われる可能性がある。

 何故ならば、カーランの市民に変装して完璧に王都に溶け込んでいたシルバーフォックスたちが追跡を受けているのだ、相手はそれなりに敵が見えている者と判断せざるを得ないのだ。


(周辺警戒……不審な人物はいるか?)


 コートの内側に右手を忍ばせ、冷たい鉄の塊を握りながら、辺りの気配に注視する。


(水門側に若いカップル、ファウストの奥に水路を眺める老婆と幼児、ファウストの右側離れた場所に旅姿の家族三人)


 今現在、この水門広場に怪しい存在は無い。だが自分たちがそうであるように、敵も変装している可能性がある。

 オペレーション・ウィッチハントに関しては、レイザーが状況続行の命令を出ている以上、魔女との会談を強制的に中止して、シルバーフォックスたちの応援に回る事など許されないのだ。


(いかんね、気持ちが焦り始めてる。挙動不審のポイントマンなどゴミ箱行きだって……マスターチーフが良く言ってたよな)


 仲間のピンチをじっと辛抱しながら自分の役目を果たす辛さは、ファウストも感じているはずだ──

 少年と魔女のやり取り、そしてその周辺を注意深く見守るバイパーだが、この穏やかな空間の光景とは打って変わり、一斉送信で思念受信機から発せられる仲間の状況は、刻一刻と変わりながら危険度を増している。


『こちらグリズリー、追跡者の正体が判明した!追跡者は黒い犬三頭、繰り返す、追跡者は犬三頭!』

『こちらマザーズネスト、犬とはどう言う事?詳細を送れ!』

『こちらシルバーフォックス、犬三頭は何かしらの魔力加護を受けているのか、術者の意思で動いているように感じられる。一定の距離を保ったままジワジワ詰めてきている!』

『こちらマザーズネスト、了解した。たった今発砲許可が出た!身の危険を感じた際は、現場の判断で発砲を許可する!』

『こちら狙撃班、スナイパーポイントに着いた!』

『マザーズネストよりシルバーフォックス、東外壁門に向かえ。狙撃班が援護する!』


(犬?……犬だと?)


 ファウストの安全を第一に周辺警戒を行いながら、仲間たちの交信内容に聞き入るバイパー。

 街の治安管理を行う近衛警察の警官部隊や、それに付随する政治犯の暗殺部隊のような、人間力や組織力を前面に出して活動する者たちではなく、追跡者は怪しい犬三頭だとグリズリーたちは言っていた。

 それはつまり、近衛警察の指揮系統とは全く別物の系統組織がグリズリーたちを狙って追跡している事に繋がる。

 では、その別系統の存在とは何か──

 その三頭の黒い犬を式神や使い魔の類いであると仮定すれば、術者である魔女が背後にいる可能性もある。つまり宮廷魔女が三課を裏切ったとも考えられるのだが、今もバイパーの視界に入るクラリッチェはファウストに対して非常に友好的であり、同時進行で裏切り作戦が行われているとは考え辛い。

 また、この国には魔女文化ほどではないが魔法文化も現存しており、魔法術式による魔獣使役の可能性や、ビーストテイマーによる動物使役の可能性も捨て切れないのだ。


魔女の裏切りに答えを直結させるのはやめよう。そう思って(はやる)気持ちを抑えていたバイパーの受信機に、更なる衝撃が走る。狙撃班のフルモナから目の覚めるような叫び声が轟いたのだ。


『こちら狙撃班スポッター、管理棟から市街地へ八百メタルにてシルバーフォックスとグリズリー確認。シルバーフォックスたちの二十メタル後方に目標三体確認……あ、あれはっ!』

『どうした?フルモナ、報告しろ!』

『あの三体の黒い犬はブラックドッグ!ブラックドッグです!』

『こちらレイザー、交信割り込むぞ。ブラックドッグとは何だ?詳細知らせよ!』

『ブラックドッグとは犬の姿をした精霊です。死を予兆する不吉の精霊ブラックドッグ!あれは生と死を司る古の大魔女ヘカテーの(しもべ)である事から、背後に魔女の存在が考えられます!』

『こちら狙撃班ハルヴァナ、フルモナの見解に同意します!敵は攻撃的なブラックドッグです、発砲許可を下さい!』


 バイパーはフルモナたち交信を座したまま最後まで聞いていなかった。やり取りされる会話の途中で電気が走ったかのように身体を翻し、ツカツカと早足でファウストとクラリッチェの元へと向かい始めたのだ。

 肩で風を切りながら、表情一つ変えない真剣な顔で向かって来るバイパーに、ファウストとクラリッチェは何事かと呆けているのだが、バイパーはクラリッチェを真正面に、二メートルほどの距離を開けて立ち止まるやいなや、懐から自動拳銃を取り出し、クラリッチェの眉間にピタリと狙いを定めたのだ。


「バ、バイパーさん?」

「な、何だ?いきなりあたしを撃つってのか?」


 剣呑な気配に動揺する二人を前に、バイパーはこう言い放つ


「仲間が今ブラックドッグに襲われている。今直ぐだ、今直ぐに貴様の仲間と連絡を取って襲撃を中止させろ、さもないと貴様はここで死ぬ。ブラックドッグは魔女の使い魔らしいじゃないか、知らないとは言わせないぞ」


 本当に撃つ気があるのか、それともブラッフなのかまでは分からない。ただ、その場にいたファウストは背筋の凍るような思いでバイパーを見ている。

 兵隊同士、仲間同士の時に見せる穏やかな好青年の顔ではなく、ファウストに見せたその顔は、何の後悔も感慨も得ないまま平気で引き鉄を引く、殺人機械そのものの表情であったからだ。

 ──この人は撃つ、美女とか共闘する魔女とか関係無く無慈悲に撃つ。それが仲間への想いなんだ──

 ファウストが抱いていた使い魔のウサギがキュウ!と鳴く。身震いする彼の腕に余計な力が働いたのか、主のファウストに苦しいと抗議したのである。



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