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凛として外道のごとく 『ワレ、異世界ニテ特殊部隊ヲ設立セントス』  作者: 振木岳人
◆ レアンドロ六世の直轄領、その正体 編
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81 『ティエラ・デル・レイ』 直轄領潜入開始


 『ティエラ・デル・レイ』──つまり王の土地と呼ばれるだけのこの直轄領は、小規模な集落が点在しているものの、その村一つ一つに地域性を感じさせる名前は存在しない。

 ただ単に「ウノ」「ドス」「トゥレス」と各集落に数字が振られているだけで、そこに住んでいる農奴と王国から許可を受けた農奴向け物品販売の出入り業者だけが、数字の後に「村」を付けて呼んでいるだけ。

 王の直轄領とは、それほどまでにシステマチックに管理運営されていたのである。


 もちろん、直轄領の広大な敷地は関係者以外立ち入り禁止。

 パルナバッシュの王都カーランから、北北西にある北の隣国リナッツェ=メルジェイに赴くには、直轄領を完璧に迂回するルートが出来上がっている。

 巨大なパルナバッシュ湾を湾伝いに北上する海岸ルートと、王都カーランをそのまま素直に北上する山岳ルート、それのみがリナッツェ=メルジェイに繋がる交易路であり、武装近衛部隊が厳重包囲する直轄領は、まさに人為的な秘境とも言えた。


 ──今その直轄領に、オレル・ダールベックはいる。

 王都カーランの飲食街のどこかにひっそりと拠点を構える、異世界転生人ギルドのパルナバッシュ王国支部の支部長、フランカ・ペトラから譲り受けた偽造身分証を懐に、王直轄領の奥深くへ潜り込んでいた。


 『パルナバッシュ農業大学 応用生物学部 准教授オシム・リーベック』

 これが今の彼のかりそめの地位であり、作付け指導や育苗の品質向上指導などの指導員として、直轄領の検問所に立てば無条件で通過出来る立場を手に入れた。

 だが、オレルはその肩書きを手に入れたからと言って、堂々と検問所から直轄領に入る事を良しとはしなかった。

 馬鹿正直に正々堂々と検問所をくぐるのではなく、海岸ルートを使って王都から遠く離れ、周囲に人の気配を感じない場所を選んだ後に、直轄領を囲む鉄条網をくぐる事を選んだのである。


 検問所を通ると記録されてしまう。いくら偽造の身分証が完璧に近い内容であったとしても、直轄領に外部の人間が入ったと言う記録と記憶が残れば、警備隊はいちいち気にするはずである。そうであるならば、完全なる隠密潜入で直轄領に潜り込み、情報収集も収集後の脱出も、隠密で行うべきだと行動方針を立てたのである。

 つまり偽造の身分証はあくまでも保険。

 直轄領内で武装近衛部隊と遭遇した際に提示する御守り程度の効力しかないと割り切り、己の潜入能力とスキルを全面的に頼る事としたのだ。

 もちろん、フランカ・ペトラを信用しなかった訳ではないのだが、王都で聴き込みを繰り返しても、ほとんど情報らしい情報を得られなかったパルナバッシュ王の直轄領が、あまりにも不気味に感じられた事が大きく起因した。

 人との接触を極限まで避けるべきと、彼を決断をさせたのである。


 小さめのリュックサックに三日分の食糧を詰め、昼間は秋の田園風景に溶け込むために茶色基調の迷彩柄ジャンバーを羽織り、夜は全身黒づくめの服で闇に紛れる。

 三日で欲している情報が入手出来ればそれに越した事はないが、最悪の場合は直轄領内で一週間は潜伏はせざるを得なくなるかも……そんな覚悟も抱いていた事から、持参した食糧を簡単に消費するのではなく、現地調達のサバイバル作戦をも覚悟していた。


 作戦開始初日、朝日を背にして王都カーランを出発したオレルは、海岸ルートを自動車に乗って移動せず、カーラン郊外から徒歩で直轄領を目指す。

 主要幹線を行き交う物流の車に姿を見られぬよう、海岸ルートから少し内陸側の未開拓地を選び、道なき道をひたすら直轄領に向かう。

 やがて目の前にずらりと広がる鉄条網にたどり着くとそこが直轄領の始まり。今まで歩いて来た荒涼とした大地と全く赴きを変え、まるでチェック柄の生地を地平線いっぱいまで広げたような、見事に手入れされた農地が見えて来た。


(鉄条網の外周にタイヤ痕か、武装近衛部隊がパトロールしていると見た。警備活動の時間を測りつつ、侵入は今夜決行しよう)


 鉄条網から少し離れ、地表に転がる巨石に身を隠しながら、双眼鏡片手に領内の様子を調べ始めたオレル。手前から奥にかけて幾重にも重なるなだらかな丘は、まるで大海漂う波のようにも見えるのだが、オレルの双眼鏡の先に怪しい施設は確認出来ない。


(広い、とにかく広いな。あの地平線の先、どこまで広がっているのやら。おまけに領内も鉄条網であちこち区切られている。各地区の境界線が鉄条網と言ったところか)


 時間はいよいよ夕方に差し掛かり、西の海原に水没して行くであろう傾いた太陽と入れ替わり、身体の芯まで冷やすような凍てついた夜の気配が、辺りを支配し始める。


 武装近衛部隊の境界線パトロールは一時間に一回。

 もともと直轄領と言ったところで、生産しているのは穀物や野菜などの農産物。貨幣経済下ではひと山幾らで取り引きされる、珍しくはないジャンルである。だからこそ、この厳重な鉄条網が異質にも見えるし、執拗なパトロールも過剰にも思える。


(王の直轄領だと言うプライドもあるのだろうが、それを上回る強固な意思を感じる。よほど見られたくない物があるんだな)


 王立科学研究所主導による核爆弾の秘密製造工場、それは間違い無くここある──

 そう確信したオレルは闇夜に紛れて潜入する事を決意。缶詰に入ったイワシの切り身と乾パンで簡単な食事を済ませて、いよいよ潜入開始だ。


(第一目標はあの地平線の向こう。小さな明かりが夜空に映えているのが確認出来る。昼の間に確認した、手前から三つ目の鉄条網の先だ)


 万が一を考え、昼間パトロールの車が通過して行った時間を今に当てはめ、時計の長針が正反対の方向を指す時間を狙う。


 寒いのは承知の上、迷彩ジャンバーを脱いで黒いタートルネック姿になる。

 黒いニット帽で髪の毛をまとめ、リュックサックから取り出した黒いワックスで、顔を真っ黒に塗りたくる。


(さあ、行こう)


 リュックサックを背負い、鉄条網を突破するための工具袋を手にして準備完了。

 静かに、そして深く、オレルは直轄領へと潜入して行った。



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