表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凛として外道のごとく 『ワレ、異世界ニテ特殊部隊ヲ設立セントス』  作者: 振木岳人
◆ レアンドロ六世の直轄領、その正体 編
80/157

80 「三課の誓い」


 王都カーランの旧市街にある、参謀情報部三課のセーフハウス。

 ご近所さんに気付かれぬように、何人もの男女が朝から晩まで静かに出入りを繰り返すこの謎の家が、今日は何だか様子がおかしい。

 この夕飯の時間帯、普段ならば部屋の明かりが灯っていてもシンとしているのに、家族の団欒よろしくひどく賑やかな声が漏れて来るのだ。


 本来なら、食事をする兵士や時間をずらして周辺警戒に神経を尖らせる当直番など、絶対に全員が同じ部屋に集合する事は無いのだが、セーフハウスのリビングルームには今、指揮官を抜かした全ての兵士が揃っていた。


 何故か大きなテーブルは隅に追いやられ、映画館のように椅子だけがズラリと並べられ、何かの催しが行われようとする気配が。だがまだ始まっていないのか、集まっていた兵士たちはそれぞれが好き勝手な方法で時間を潰しながら、その時を待っている。


 シルバーフォックスは端の椅子に座りながら、ダンベル片手に一心不乱に手首の筋力強化を行なっている。

 バイパーはサラダボウルに山盛りにしたお手製ポップコーンを持参。最前列中央席をゲットして、まだ始まってもいないのにポリポリとポップコーンをほうばりながら時を待つ。

 また、マザーズネストはバイパーの隣にいつの間にか座り、バイパーに談笑を持ちかけながらちゃっかりポップコーンを頂戴し始めた。

 フルモナとハルヴァナは一日の仕事終えて湯あみしたばかりで、時間に間に合わせようと急いでリビングにやって来たのか髪の毛は濡れたまま。二人して交互に仲良くタオルで髪を拭き合っている。

 そしてレイザーことリタ・バルツァーは、後列席の一番隅っこに陣取り、ガッチガチに緊張しながらうつむいている。目をひん剥いて冷や汗を垂らすその様は、まるでこの世の終わりのようでもある。


 レイザーだけが何故か正反対の反応を示す賑やかなリビングで、どうやらグリズリーが司会進行役を担っているのか、リビングの出入り口扉からしきりに廊下の様子を伺っている。

 そしてリビングに集まった仲間たちにもうちょっと待ってろと指示を出していたのだが、どうやら準備が出来たようだ。


「さあ、心の準備も出来たようだから始めるぞ!」


 グリズリーは『客席』の中央に躍り出て仲間たちに着席と静粛を促した。


「今朝、中佐が単独で作戦行動に赴いた。王都に残った我々にも果たすべき任務はあるが、中佐が帰って来るまでこのセーフハウスを守り切る事も重要な使命である!」


 グリズリーは一旦仲間たちの顔を見回す。異論が無いか反応を伺ったのだが、もちろん異論を挟む者などいる訳が無い。


「そしてだ、今日新たなメンバーが二人誕生した。軍属でも協力者でもなく、コールサインのある三課の正式なメンバー。我々に新たな戦友が誕生したのだ!ついては、本日これより新たなメンバーの歓迎会をとり行う!中佐の許可は得ているが、くれぐれも飲酒はダメだぞ」


 仲間たちは拍手や歓声を上げて盛り上げる中、グリズリーはにっこりと微笑みながら、空いている椅子に赴き着席した。


「ファウスト、入って来い!」


 グリズリーの掛け声をきっかけに、バイパーやシルバーフォックスたちはやんややんやと囃し立て、緊張でガッチガチになっているであろう魔法使いの少年のコールサインを呼ぶ。すると廊下からリビングへと少年が入室して来た。

 兵士たちの予想通り緊張感に押しつぶされそうな少年は、使い魔のウサギを抱えたまま目をくるくる回転させながら皆の前に立った。


「さあ少年、所属と階級を名乗れ!」


 ニコニコとニヤニヤが半々で混ざる笑みに包まれた少年は、グリズリーの透き通った低い声にドンと背中を押された。


「ぼ、僕の名前はエルモ・ライホ、本日よりファウストを名乗ります!所属と階級は……ええと……ええっと……」


 おぼつかない自己紹介に、フルモナやハルヴァナそしてバイパーたちがこぞって「ブーブー!」「しっかりしろ」と叫んでは茶々を入れる。


「え、ええと……所属はアムセルンド陸軍総局、参謀部……参謀情報部三課です。階級は……戦地任官の三等軍曹です!」


 よし、良く言えた!と仲間たちは大騒ぎで喜び、そして隅っこでうつむくレイザーはいよいよもって顔面がひきつる ──(次は私の番だ、次は私の番だ、次は私の……)


「よし、偉いぞファウスト!だがまだこれで半分だ。三課の誓いを間違えずに言え、これが言えなければ仲間とは認めないからな」


 しっかり練習しただろ? と、グリズリーに優しく促されたファウストは、徐々にではあるが羞恥心を克服して冷静さを取り戻しつつある。

 そして、今年になって三課が創設された当初、三名だけでスタートした突入班の面々が恒例行事として残そうと続けて来た「三課の誓い」を、おぼつかない切れ切れの声ではあるが唱えはじめたのだ。


 ──我らは走る、馬よりも速く走り世界を駆け巡る。我らは闇に潜む、フクロウよりも闇に溶け込み気配を消す。我らは闘う、雄牛よりも猛々しく突進して敵を蹴散らす──


 がんばれっ!がんばれ! 

 途中で迷って口ごもるファウストだが、バイパーたちは手に拳を作って興奮気味に彼が再び詠唱するのを信じて待ち続け、ハルヴァナやフルモナは可愛らしい声援を投げかけ彼を鼓舞している。


 ──見ざる聞かざる言わざるなんぞクソくらえだ。月の女神の着替えシーンをばっちり見ろ、人々の血を吸うノミの鼓動を聞け、地獄の裁判官に俺たちが正しいとはっきり言え──


「……正確無比に敵を狙い撃ち、銃が無ければナイフを取り出し、ナイフが無ければ手を使い、手足が動かなきゃその牙で敵の喉元に喰らいつく、それこそ俺たち参謀情報部。鉄の心持つアムセルンドの守り神、悪党どもに立ち塞がる別名死神だ」


 ファウストがホッとした顔で言い終えると、やんややんやとリビングに歓声が巻き起こる。誓いの言葉を述べた事で、少年も晴れて三課の仲間となったのだ。


「良くやった!良く覚えたね」

「ひょろひょろのガキンチョだと思ってたのに大したものね」

「さあ、余興の時間だ。何かやれ!」

「シラケさせんじゃねえぞ!しっかり楽しませろよ」

「あたしを退屈させたらただじゃおかんよ!」


 正式メンバーとしての自己紹介、そして次に隊の誓いを一字一句間違わずに詠唱して、更に最後に余興を行って仲間を楽しませる。これでファウストの入隊の儀式が無事終了するのだが、最後の余興に関しては強かった。

 得意の神聖光魔法と使い魔のウサギを駆使して、何ともメルヘンチックでアクロバティックな、ウサギのサーカスを披露したのだ。それはまさに──もしかしてお前、旅の途中で金に困ったら、これやって食い繋いでいたなと仲間に深読みされるほどの出来栄えであった。


 ただ、大成功に終わったファウストの入隊の儀式の最初から最後まで、まともに見ようとはせずに冷や汗と油汗を垂らしながら緊張に押し殺されそうになっていた者がいる。それがレイザーことリタ・バルツァー少尉だ。

 何故彼女が恐慌に陥っていたのかはもちろん、次は彼女の番だから。彼女も正式な新しい仲間として入隊の儀式を行う旨を通達されていたのである。


 マルヴァレフト領の国境警備隊に属した軍人として、そしてマルヴァレフト公爵のボディガードとして生きて来た彼女は、所属の申告や「三課の誓い」などは楽勝とも言って良いほどに詠唱出来た。

 澄んだ高音から発せられる誓いは、戦の女神が詩を詠む姿を彷彿させるような、荘厳な気配すら感じられたほどだ。


 ……だが、余興がまずかったのである。

 結果として三課の仲間には迎え入れられたものの、レイザーの余興は部隊の兵士たちにとって後々まで語り継いでは「いけない」黒歴史になってしまったのだ。

 何故なら、軍人としての教育しか受けておらず、余興のネタに苦しむ彼女が、精一杯悩んだ末に試みた余興が『ダンス』。

 酒場の踊り子が踊っていたのを思い出して、苦し紛れに全力で踊ってみたのだが、これが失敗だった。

 まるで、ロールプレイングゲームにおいて、勇者一行に襲い掛かりMPを吸い取る魔物の特殊スキル『あやしいおどり』そのものであったのだ。いや、見ていた仲間たちがカチンコチンに冷え切ってしまったので、『いてつくはどう』だったのかも知れない。


 ちなみに、もし現代社会からこの世界に異世界転生した者がレイザーの踊りを見たらならば、誰もがこう答えるであろう「あれは八十年代アイドルの、井森ダンスだ」と……


 いずれにしても、誰もが多くを語ろうとはしないが、新たなコールサインを授かった仲間が増えた事は事実。

 三課の誓いを胸に秘め、そして結束と絆を新たに彼らは再び動き出すのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] マルヴァレフト家は公爵ですか?それとも侯爵ですか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ