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凛として外道のごとく 『ワレ、異世界ニテ特殊部隊ヲ設立セントス』  作者: 振木岳人
◆ レアンドロ六世の直轄領、その正体 編
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77 白い魔女と黒い魔女 後編


 ゲヘナ・ウォーカーとは『地獄の旅人』を意味する言葉で、純然たる悪魔を指して言う言葉ではない。結果として悪魔化してしまった人間を、蔑みながら言う名前よ。


「悪魔化した……人ですか」

「そうよ、望むと望まないと悪魔になってしまった人間の事」


 ──経典に登場する天使や悪魔には、全てに名前がある。元々神が生み出した天使、そして追放した悪魔には全て名前が付けられており、名前が無い存在は全て言葉すら喋れない下級種の獣。

 例えば天使の軍勢は大天使ミカエルを筆頭にサマエル、そしてラファエルなどが揃い、悪魔側で言えばサタンにサタナエルにベルゼバブなど全てに名前がある。もちろん、悪魔下級種の獣たちも固有名詞は無くとも種族名はちゃんとある。

 つまり、天使も悪魔……光にも闇にも名前があるのに対して、人が悪魔化しても名乗る事すら許されない存在、それがゲヘナ・ウォーカーなのよ。


「何か理解し難い世界の話です。そのゲヘナ・ウォーカーになった人は、一体何をするのです?」

「いやあ、何もせんわね。何も求められず、天使にも悪魔からも存在すら無視される」


 アンナベッラお手製のお菓子を独り占めしながら、フェデリアはもの思いに耽るような表情で淡々と語り続ける。


 人間が悪魔化するのは、特別な環境に置かれた状態でないと起こり得ない。

 その特別な環境下とはズバリ『黙示録戦争』。神と悪魔の最後の闘いを繰り広げる中、それを目の当たりにしてしまった一部の人間に起こる突然変異現象よ。

 どちらが勝ったかなど関係無く、人間の短い人生を精一杯送って来た世界が焼け野原になった事で、感情が爆発してしまった人間の成れの果て。

 絶望や怒り、そして尽きる事の無い悲しみが身体に満ち溢れた時、人の身体に悪魔の力が宿る。天使の堕天現象の人間版だと考えれば簡単。だからと言ってゲヘナ・ウォーカーに使命など無いし、そもそもやる事は何も無いのよ。黙示録戦争は終わってしまったんだから。


「オレルさんは別の世界で黙示録戦争の目撃者だった。そしてゲヘナ・ウォーカーとなって地獄を彷徨い続けたですか……」

「そして歩き疲れて心臓の鼓動が止み、この世界に魂が転生した。まあ、あくまでも可能性の話だけどね」


 フェデリアの話を耳にしながらも、遠くをぼんやりと見詰めるアンナベッラ。

 使い魔の猫を使って街中を散々追跡していた時の彼の姿、そして闇夜の水門広場で会った時の彼の声……。それらを思い出して何かを結論付けようとするのだが、いかんせん自分の人物評と結論が繋がらないでいる。


「えらくご執心なのね。そんなに気になるの?」


 アンナベッラと会って最初の内は、これが彼女の恋バナ第一号なのかもとニヤニヤしていたフェデリアであったが、あまりにも真剣に考えているアンナベッラを目の当たりにし、いよいよ心配になって来る。彼女から打ち明けられた内容が内容なだけに、思考の翼をどう広げ、何処に向かおうとしているのか気が気でなくなっていたのだ。


「オレルさんは、この国の裏で起きている危機を私たちに教えてくれたです。だけど、私たち魔女の力など借りなくても、オレルさんなら自力で解決出来たのではと思うです」

「なるほどね。わざわざ魔女に秘密を教えた理由、腹の底に抱える理由か」

「それに、水門広場で会った時は、悪魔のオーラを抑えて人間そのものだったです。つまりオレルさんは、ワザと私たちに見つかるように、街中でわざわざオーラを発して私たちに追跡させたと考えてるです」

「魔女とコンタクトを取ろうとした訳じゃないかもよ。だってアムセルンドの軍人なんでしょ?王都の警戒網や監視体制を観察してたかも知れない」

「むうう、そうですね……」


(オレル・ダールベック、あなたが望む未来の姿とは何?絶望に包まれた地獄ですか?それとも人間の可能性を示す新たなステージですか?あなたのその、怒り狂った悲しみの瞳は、どんな未来を見捨ているですか?)


 口をへの字にして塞ぎ込んでしまったアンナベッラ。

 核兵器開発の阻止を狙うアムセルンド軍人のオレル・ダールベックは、悪魔的な恐ろしいほどの力を内に秘めつつ、抜群とも言うべき知略を練りながら王都の闇に潜んでいる。

 それは激しく好戦的でありながらも、表向きは極めて冷淡を装う、まさしく「凛として外道のごとく」立つ者。その彼を畏怖を覚えながら見詰めると、彼の内面から溢れんばかりの寂寥感が滲み出て来たのだ。

 全てに絶望したゲヘナ・ウォーカーの生まれ変わりが国防を担う軍人となり、他国に潜入して破壊工作を行う……その先で彼が何を最終到達点としているのかが、アンナベッラには皆目見当が掴めていなかった。


 ただ、今日この日に親友の黒い魔女を水晶宮に呼んだ事は、迷路にはまり込んだ彼女の思考にとって、どうやらプラスになるきっかけになりそうだ。


 エルサの空中庭園を夕方の寒風が撫で始めた事で、身震いした幼い魔女二人の懇談はおひらきとなったのだが、別れ際にフェデリアがハグをしながら、アンナベッラの耳元でこう言ったのだ。


 ──敵国がボロボロになるのを喜ぶのが軍人だけど、オレルはわざわざ建国の魔女たちにパルナバッシュの危機を教えたんでしょ?案外、私たち期待されてるかもよ──


 もともとが民主化運動が盛んになった一触即発の時期。何をきっかけとして導火線に着火し、大爆発を起こしてもまるで不思議ではない不穏な時代。そこで秘密兵器阻止でも何でも王都や街で戦闘が起これば、否応無くいきり立つ民衆に波及する。

 下手をすれば王政打倒運動が始まる可能性も否定出来ない状況の中で、果たして建国の魔女たちはどう動くのか?


 フェデリアが耳元で囁いた言葉は間違いなく至言、囁いた側も聞いた側もその時は気付かなかったが、後々この言葉が効いて来る。そう遠くない将来において現実となるのだから。

 フェデリアの言葉は、アンナベッラに新たな覚悟を芽生えさせる、きっかけの種であったのだ。



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