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凛として外道のごとく 『ワレ、異世界ニテ特殊部隊ヲ設立セントス』  作者: 振木岳人
◆ 西海の魔女連合 VS ゲヘナ・ウォーカー 編
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71 交渉術① 安心させてズドンと放つ


 いよいよ王都カーランにも冬将軍の足音が聞こえて来たのか、太陽の恩恵を失った深夜は急激に冷え込んで来るようになった。

 穏やかな西風を遮る冷えた北風が王都を覆うため、白い息を吐くまでには至らないが、厚手のコートを羽織って外出しなければ、あっという間に身体の芯が冷え切ってしまう。

 何か湯気が立つ温かい飲み物を身体が欲するようになるのだが、そもそも深夜の王都を出歩く者などいない。いくら労働者たちが仕事上がりに居酒屋で酒をあおったとしても、夜の八時頃には宴は終わる。日付けが変わる頃には、街は完全に夢の世界に浸っているのだ。


 だがその日付けが変わる深夜に、この西区の水路広場には人の気配がある。

 満天に散りばめられた星がチラチラと輝きながら、放射冷却で冷えた空気が鼻腔や肺を冷たくコーティングするその環境下に、数人の人影が星明かりに照らされていたのである。

 水門を背に広場を見据えている人物たちは三名。三名ともトンガリ帽子を被って片手にホウキを持つ魔女。

 ただ、普段宮廷で着ているような、身体のラインが浮き上がり太ももが露わになるような、男性の視線を釘付けにする破廉恥なドレス姿ではない。

 首元にふわふわのファーが付いたコートをしっかりと着込み、防寒対策を講じているのだ。


「へっ……くちん!」

「クラリッチェ大丈夫?」

「足元から冷えて来たよ。コンチェッタは寒くないのか?」

「え、私?私はストッキング二枚重ねで、上から毛糸のパンツも履いてるからポカポカよ。ねえアンナベッラ」

「はいです、私は殿方のズボンを拝借したです。さすがに夜は冷えるです」

「お前ら……何であたしに一声かけないんだよ!」

「だってクラリッチェったら、魔女たる者はいついかなる時もセクシー云々(うんぬん)って、見栄えを気にしてうるさいじゃない」

「見えないところに気を使うのはさすがですが、もはや紐でしかない下着はどうかと思うです。さっき飛んでた時お尻丸見えだったです」

「むっきいいい!」


 トリオ漫才のような会話を重ねているのは、水晶宮に詰める宮廷魔女、コンチェッタとクラリッチェ、そしてアンナベッラの三人。彼女たちは日付けが変わろうとする今、この場所で取り引きを行うためにやって来たのである。


「そろそろ時間ね」

「来た、来たです!」


 魔女三人組が広場の先に目を凝らすと、一人の男性が浮かび上がる。猫を入れたとおぼしきずだ袋を手に、ゆっくりとこちらへ歩いて来るのが見える。


「あれが……悪魔」

「クラリッチェ、アンナベッラ気を付けて。悪魔は狡猾で容赦無いわ。とにかくあっちのペースに乗っちゃダメ」

「分かってるよコンチェッタ。いざとなれば、あたしの判断で陣を発動させる」


 魔女たちの前にやって来たのは若い男性。

 ハンチング帽を被り、タートルネックのセーターとハーフコートを着込んだその青年は、どこをどう見ても街の若者たちとの違いが分からないほどに普通なのだが、彼が距離を取って立ち止まった事で、彼女たちに緊張が走る。


「この猫、使い魔の御主人様は誰だい?」


 青年は笑顔を見せず、かと言って嫌悪の空気も発せずに、淡々とした表情で魔女たちに問いかけた。


「私……です。私の使い魔です」


 隣のコンチェッタの袖をギュッと握りしめながも、最年少のアンナベッラは勇気を出して答える。すると青年は、おもむろにずだ袋の口紐をほどき、優しく地面に降ろして袋の口を開いた。


「ああ、ステッラ!」


 袋から出た猫は勢い良く駆け出して、アンナベッラの胸元へとジャンプする。そしてコートの襟をかき分け胸元へと潜り込み、ちょこんと顔だけ出して落ち着いた。


「私は西海(せいかい)の魔女連合の長老補佐、宮廷魔女のコンチェッタです。この子たちはクラリッチェにアンナベッラ、同じく宮廷魔女です。この度の一件、宮廷魔女責任者代理の立場から遺憾の意を表します」


 青年の口角が微かに上がる。

 なるほど、この長老補佐の魔女はこの追跡劇を不運なトラブルと捉えており、謝罪する気はさらさら無いと言いたいのだな ──と、青年はコンチェッタの思惑に気付き愉快になったのだ。

 遺憾の意を表すと言う言葉は、「残念だ」「残念に思う」と言う直接対峙を避けた間接表現の感覚に類する。つまり英語のアイム・ソーリーであって、アポロジャイズ (謝罪)ではないのだ。


「あまり気を回さなくて良い、謝罪を要求する積もりなどは毛頭無い。私の名前はオレル・ダールベック、取り引きのためにここに来た」

「使い魔を解放する代わりに情報が欲しい、そう言う事でしたね?ただ、我々には王家を守る義務があります。ですから、答えられる質問と答えられない質問がある事は承知いただきたい」

「それについては無理強いはしない、そちらの立場を尊重しよう」


 友好ムードとまでは行かないものの、オレル・ダールベックなる人物が、理屈の通じる相手であった事が幸いしたのか、彼女たちの緊張していた肩が幾分下がる。

 そしてオレルも駆け引きの時間は終わったとばかりに、タバコを取り出して火を付けて、ふわあっと紫煙を夜風に漂わせる。

 攻撃する意図が無い事をアピールする喫煙だと、魔女たちは彼の行動にホッとするのだが、そこまでオレルは凡庸では無かった。

 タバコを吸う姿を見せて安心させながら、魔女たちが背筋を凍らせるような言葉をズドンと繰り出したのである。


「魔女本流のウィッチクラフト式ではなく、正教式五芒星防御魔法円か。これに私を閉じ込めようとしても無駄だよ、何故なら私は悪魔じゃない」


 ──何で知ってるの!──

 ──どうしてバレてるの!──

 ──初手で否定されたです!──

 言葉には表さないものの、魔女三人組は明らかに動揺していた。


 オレル・ダールベックなる人物を、追跡段階から今の今まで悪魔と仮定していた事が本人にバレていた事。

 そしてクラリッチェが苦心して構築しておいた悪魔を閉じ込める魔法円が、その種類までバレていた事。

 更にはそれをひっくるめて全てを否定された事。


 このオレルの言葉が、どれだけ破壊力を秘めていたのか計り知れない。しかしこれを基点として、交渉のイニシアチブは全てオレルに奪われてしまったのだ。

 ──悪魔的要素をふんだんに含んだ謎の青年

 魔女たちの知的好奇心は、完全にオレル・ダールベックの手中に収まったのだ。



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