07 マスターチーフに任せた以上
──これからは屋内が三課の主な戦場になる
首都バルトサーリ郊外に建物を模した訓練所が作られたのは、オレルがそう主張したからである。
少数の兵士による屋内突入訓練、その目的は、敵アジトに侵入しての人質救出や強襲や要人誘拐など多岐にわたる。
オレルは三課のメンバーを集めるにあたり、諜報部員としての個人スキルを基本的な要求水準としながら、いざと言う時のために少数精鋭の特殊部隊兵士としてのスキル習得をも求めていたのである。
「屋内突入訓練、ケース3人質救出。クリア目標タイム二分に対して、所要時間は三分! 君たちは目標時間をクリアする事は出来なかった。今から何故余計な時間が掛かったのか説明して行くぞ」
トレーニング施設の屋外、鉄パイプを四方に刺した上に広げた大きなテントの下、真ん中に据えたテーブルを囲んで反省会が始まる。
「まず、ポイントマンのハンネス・ベイロン一等兵。一番先頭だから目立つのはしょうがないが、私には基本姿勢が出来ていなかったように見える。慣れの悪いクセが治ってない! 」
名前を呼ばれた若い軍人、ハンネスは、苦虫を噛み潰したような表情でマスターチーフの講評を聞いている。彼がムキになって抗弁しないのは、自分でもマズイなと自覚している証拠。耳の痛い話ではあるが、それでも素直に聞いている。
「屋内戦闘のポイントマンは、常に姿勢を低くして先行する。そして銃を持つ手を短くして小回りが効くようにしろと言った。しかし君はいちいち背を伸ばして後続の視線を遮り、室内突入の際は恐怖で腕を伸ばして発砲した。これがもし実戦で、敵が壁際に隠れていて拳銃を叩き落としたら、チームは全滅だぞ」
ハンネスはぐうの音も出ないほどに塞ぎ込み、がっくりと肩を落としながら、より一層訓練に集中すると誓う。
「次にセカンドアタッカーのベルテ・エーケダール二等軍曹。レクチャー通りハンネスの肩に左手を置いて、終始彼と進行方向など行動の同期を行なっていたのは評価するが、ハンネスと同じ方向を見過ぎだ。右の室内から飛び出した標的に驚いてたぞ、驚いてどうする! 君が予測して警戒して、冷静に制圧しないとハンネスが死ぬぞ! 」
黒髪のショートボブを揺らす、唯一の女性兵士であるベルテ二等軍曹は、悔しさに唇を噛み締めながら、次はしくじりませんと喉から言葉を絞り出した。
「次にライフルマン、チームで唯一自動短機関銃を装備するトシュテン・ヨハンセン少尉。階級はあなたの方が上ですが、遠慮なく言わせて頂きますよ」
「マスターチーフ、私はあなたに教えを乞う身だ。言葉を選ばず言って欲しい」
親子ほどの年齢差がある歳上の部下に対し、ヨハンセン少尉は背を正しながら彼の言葉を待つ。
「よろしい少尉、言わせて頂きます。通路3の1で背後から出た標的十二番、完全に気付いていません。つまり実戦なら部隊はそこで全滅しています。それと突入部屋Dで人質に一発命中。私が指揮官なら、とてもじゃないがあなたを部隊に入れたいとは思いません! 」
ここまで指摘されてしまえば、もう高級士官としてのプライドや面子など保っていられる訳が無い。
ヨハンセン少尉は全面降伏で申し訳ありませんと頭を下げながら、訓練に集中する事を約束した。
「屋内突入は細心の注意を払いながら、短時間で目的を達成させる、極めて高度な能力とチームワークが求められる作戦だ。最後の一回、私が標的や人質の場所を移動させただけでこの混乱、惰性で訓練を続けている証拠に他ならない! たがだか数分の作戦行動に全神経を集中させられないなら、原隊に復帰してデブで嫌味な上官のケツでも舐めてろと言いたい! 」
この言葉は効いた
ハンネスもベルテも、ヨハンセンすらも自分の未熟を素直に悔いながら、まだ自分には伸びしろがあると奮起し、腹から湧き上がる闘争心に瞳を輝かせたのだ。
「よろしい諸君! ここ数日君らと顔を合わせていて、初めて戦士の顔を見た気がする。さあ戦士たち、訓練失敗のPT(ペナルティ 罰)を行いたまえ。そしてそれが終わったら、午後は近接射撃訓練の時間に充てる! 」
──さあ立て諸君、立ってPTだ! 腕立てと腹筋十セット、戦士の訓練はその後だ!
テントから離れてパイプ椅子を置き、ポットに入れてあったぬるいコーヒーを飲みながら、のんびりと訓練の光景を眺めるオレル。
マスターチーフに任せた以上、余計な口を挟まずに訓練を見守ろうと決めている彼は、自分にしか出来ない役割のために、じっとここで時間が過ぎるのを待つだけ。
「……来たか」
ほどなくして、首都方向から車のエンジン音が聞こえて来た。
視察のために、ノルドマン准将がこの訓練キャンプを訪れるのだ。




