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凛として外道のごとく 『ワレ、異世界ニテ特殊部隊ヲ設立セントス』  作者: 振木岳人
◆ 西海の魔女連合 VS ゲヘナ・ウォーカー 編
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68 203状況進行中!


 パルナバッシュ王国の王都カーラン、その住宅街の入り組んだ路地を深く深く進むと、石畳すら貼られていない土剥き出しの地区がある。

 スラム街と呼ぶには貧しい者が少ないこの地区は、王都が作られた際の初期の地区であり、路地が狭くインフラ開発の手が結果的に及ばなかった場所である。


 狭い路地、ベランダ越しに間近に向き合う隣家、そして路地を挟んで飾られる洗濯物の数、数、数。無理矢理建てられた二階三階の石造りの家が並ぶここは、古き良きパルナバッシュを色濃く今に残し、王都の住民たちからは旧市街と呼ばれていた。


 その中世ヨーロッパの魔窟を彷彿とさせる、旧市街の一角のとある一軒家に、何やら見慣れぬ顔の若者たちが出入りしている。

 この周辺では珍しくもない石造りの二階建て家屋で、今年の夏頃からしばらくの間は空き家だったのだが、この数日で新たな借主が決まり、入居したらしい。

 ただ、その入居者たちがなかなかに不可解であり、ご近所さんたちの井戸端会議で話題をさらっていたのだ。


 切れ長の険しい目が特徴的だが、柔らかな笑みで挨拶する青年。

 この地方では珍しい山岳民族と思わしき、健康的な黒髪ショートボブの女性。

 もみあげが立派な、青年と言うよりもお父さんと言った表現が妥当な男性。

 金髪を短く刈り込んでおでこ丸出し、まるで少年のようなコケティッシュな女性。

 そして、この界隈では決して珍しくないハーフエルフの双子もいるのだが、前出の男女たちとの関係がまるで見えず。

 更には、ホビット族の可愛い少女や魔法使いらしきローブをまとった少年もいる事から、彼らがどのような繋がりなのか、周辺の奥様方は好奇の瞳でその一挙手一投足を見詰めていたのである。


 ただ、もみあげ男が近所に挨拶回りを行い、引っ越して来た新たな住人たちが実は、東の大国自由貿易王国フォンタニエの貿易商グループなのだと明かした事で、話題の火種はいつの間にか沈静化してしまった。

 自由貿易王国フォンタニエの貿易商で、南回り海運ルートではなくアムセルンド公国を突っ切る壮大な陸路貿易ルートを構築する、陸路策定プロジェクトチームのメンバーであると自己紹介して回ったのだ。

 だが、海の男以上にそれほど浪漫を感じない陸路貿易のチームメンバーの正体が、アムセルンド公国の陸軍部隊であり、参謀情報部三課のメンバーであった事を旧市街区の奥様が知る事はなかった。つまりは、身分を偽装して現地に溶け込む工作が成功したのである。


 その三課のセーフハウス、つまりは王都カーランにおける隠れ家は、今日もなかなかに騒々しい。

 アムセルンド公国の首都バルトサーリにあったセーフハウスで生活していた頃から、家事と寝ずの警備番は全て当番制であったのだが、こちらでの生活も同じ。

 誰もが仲間分の炊事を行い、誰もが仲間の生活空間を清潔に保つために掃除が義務付けられているのだが、これだけ長い間共同生活をしていると、兵士たちの間にも「得手不得手」や「好みの問題」が微妙に噴出して来る。

 あれだけ器用にナイフを扱うクセに、バイパーは包丁使いが下手くそで必ず血だらけになるとか、グリズリーは異常なほどに潔癖で、便器をピカピカの新品同様に磨き上げるから、逆に利用するのに気遅れしてしまうなど……笑い話のネタにするには事欠かなくなって来ている。

 そして今日は、どちらかと言えば笑い話と言うよりも恐い話の日。──シルバーフォックスの料理が怖いと言う、兵士たちにとって憂鬱で深刻な話題の日なのだ


 シルバーフォックスの料理は、大抵がスープになる。油を使った炒め物はすぐ焦がす、とにかく焦がす、油に火が着きすぐ燃え上がる事から、気にした本人も最近は汁物とパンと言う取り合わせで食事当番を済ませるのだが、そのスープこそが謎スープなのだ。


(この前、怪しいキノコが入ってましたよ)

(後で聞いたら、本人もキノコの名前なんか知らないって笑ってたね)

(エルモ君が急に笑い出して倒れた日のスープね)

(ハルヴァナ、手伝うフリして偵察して来てくれよ)

(嫌ですよ、バイパーの方が適任です。彼女と仲良いじゃないですか)

(この前、余計な事言うなって包丁突き付けられたんすよ、俺近付きたく無いっす)

(市場へ魚の買い出しに出てたから、おそらく今回は安心出来るのでは?さすがに毒魚など市場で出回ってないし)

(グリズリーは甘いわ。どんな新鮮で美味い魚も、彼女なら確実にクソ不味くするだけの実力が備わっているのよ)


「あら何?みんなで集まって何をコソコソと。ねえ、もしかして恋バナ?恋の相談してるの?それなら恋愛、不倫、略奪愛に禁断の愛、経験豊富なこのマーヤ姐さんに任せなさい!」


 ──童顔で経験豊富とか言うなよ──

 げんなりする仲間たちを前に、えへん!と胸を張るマーヤ。

 リビングで繰り返される内緒話に興味を示し、念話通信機が置かれた隣室からノコノコ出て来たようなのだが、マーヤが席を立ってリビングに赴いた時に、突如異変を知らせる音が鳴り響く。

 タイミングの悪さと言うのは何とも皮肉なもので、今まで散々暇であくびを繰り返していたマーヤを求め、念話通信機の基地局を呼び出す電子音が鳴ったのだ。


「ちょ、ちょっと待って!」


 三課のメンバーたちは今、全員このセーフハウスに留まっており、買い物やランニングなどで家から出ている者などいない。ならば、念話通信機の基地局を呼び出す存在がいるとすれば、三課の指揮官以外の何者でも無い。

 血相を変えたマーヤはメンバーを引き連れながら慌てて隣室に戻り、ヘッドホンを装着してマイクに向かった。


「こちらマザーズネスト、こちらマザーズネストよりコヨーテどうぞ!」


 コヨーテの身に何が起きたのか── マーヤの応対を固唾を飲んで見守る仲間たち


「はい……はい、分かりました。はい、了解です。203状況進行中、了解しました!」


 通信先であるコヨーテから、コンパクトにまとめられた伝達が送られて来るのか、マーヤはヘッドホンのスピーカーに最新の注意を払いながら、手元のメモ用紙にどんどんと内容を書き込んで行く。

 そしてマーヤとコヨーテの交信内容に関して、マーヤが時折復唱するキーワードを耳にした仲間たちは、奮い立つような緊張を持って交信終了を待っている。

 マーヤが口にした203状況進行中とは、味方が何かしらの勢力から追跡を受けており、攻撃はされていないものの、味方の援護が無ければ逃げきる事の出来ない状況を指す、三課の作戦用語の一つなのだ。

 つまりは、朝から情報収集のために外出していたオレルが、今まさに敵から追跡行為を受けており、三課のメンバーに対して状況改善のための応援出動を命じて来たのである。


「コヨーテより緊急通信!」


 交信を終えたマーヤは、メモ用紙を目の前にオレルからの伝言をメンバーに伝える。


「王都カーラン西区で203状況進行中、対象勢力不明。突入班と狙撃班に出撃要請!市街戦第三種装備を用意、一時間後に西区運河水門広場でコヨーテと合流、狙撃班は水門広場を狙撃出来るポイントに付け!」


 市街戦第三種装備とは、市街で銃撃戦を行うにあたって武装するグレードの段階を示す部隊用語である。

 第一種が最も完全武装に近く、私服を基本としながらも、カービン銃装備にヘルメットやボディアーマー着用を指示する、確実に戦闘を行う事を想定した準備命令である。

 そして第二種は戦闘要員だと気付かれないように、ヘルメットやボディアーマーを着込まずに、市民に溶け込みながら作戦を行う隠密戦を想定した準備命令。

 さらに今回発令された第三種とは、ライフルや軽短機関銃などで重武装せず、私服姿に拳銃だけ携行して作戦を行う、極めて隠密性の高い準備命令である。


 狙撃班の二人はもちろん、普段から隠密性の高い作戦を主な任務とする事から慣れているが、第三種装備での出動などメンバーにとっては初めて。

 マーヤが声高らかに伝達している中で、互いに顔を見合わせ動揺しながらも、徐々に徐々に戦士の顔へと変わって行く。


 ただ、今日のこの一風変わったオレルの命令には続きがあった。命令のメモを読み上げていたマーヤが、最後にこう言い放ったのである。


「なお、本作戦に限りマザーズネストも突入班に帯同。突入班は常にマザーズネストを警護するように!」


 念話使いの彼女が、何故ゆえ最前線の現場に出なければならないのかさっぱり理解出来ず、目を白黒する三課のメンバーたちであった。

 だが、このマザーズネストの実戦参加こそが、今回大きな意味を持っていたのである。



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