表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/157

06 秘密訓練キャンプ


 オレル・ダールベック中佐が参謀情報部のラーゲルクランツ少将とノルドマン准将の二人と会談してから、一カ月半の時間が流れた。

 オレルを指揮官とした『参謀情報部三課』も秘密裏に設立されて、具体的な部隊運営が始まったのだが、未だに諜報活動や先頭行動は行なっていない。

 何故ならば、三課は未だに兵士が揃っておらず、途上の段階にあったからだ。


  公国歴 十年 六月

 春が終わり、高地の空に照る太陽が更に輝きを増す初夏。生命力に満ちた新緑の匂いが、高地の風に乗って首都バルトサーリの人々の鼻腔をくすぐっている。


 その首都バルトサーリのとある郊外、深い森と草原の狭間に奇妙な建築物がある。安い板材を繋いで四方をぐるりと取り囲んだ敷地の中に、これまた安い板材で作り上げた二階建ての“バラック小屋”のような建物が建っている。

 誰がどのような目的を持って、このような安上がりな建物を作ったのかは不明だが、今……不思議な事に、この建物の奥からパンパン! と、鼓膜が悲鳴を上げるような激しい炸裂音が、しきりに聞こえて来るのだ。


(クリア! )

(クリア! )

(オールクリア! )

 炸裂音が鳴り止んだと思ったら、今度はペラペラの板材で作られた建物の中から聞こえて来る叫び声。

 ここは参謀情報部三課のトレーニング施設、オレル・ダールベックがノルドマン准将に要求した内容の一つである、三課の実働部隊用の秘密訓練施設であったのだ。


 オレルは三課運営にあたり様々な要求をノルドマンに行い、その全てが認められて通っている。

 もちろん、コンセプトなどを包み隠さず話して、その内容についてノルドマンの理解を得た上での認可である事から、予算の無駄遣いだと後々嫌味を言われるトラブルは起きていない。


 オレルは三課の運営にあたり、部隊の活動を二種類に分けてそれに見合う人員を選定すると決めた。これが様々な要求の根幹である。

 一つはヒューミント活動要員、つまり情報収集と潜入に特化した諜報部員。そしてもう一つは実力行使を行う実行部隊。

 諜報部員三人と、実行部隊三人一班が二つの合計九人。そこへオレルと副官と連絡係の兵を入れて合計十二人の分隊編成で活動する。そして部隊の誰もが一定水準以上の戦闘能力を発揮出来るように訓練する。


 三十名ほどの小隊規模編成を覚悟していたノルドマンは、三課を大所帯にせず小回りが効く範囲内でと申し出たオレルの意図を理解した。そして思いがけなく余ってしまった巨額の準備予算に喜びながらも、装備や施設の更なる充実を約束したのである。


(よし、午前の訓練は終了! 外で反省会を行なったら昼休みにするぞ! )


 建物の入り口から、四人の男女が出て来る。

 ファイルとストップウォッチを手に、短く刈り込んだと白髪の壮年男性が先頭となり、背後から若い男女三名ががっくりと肩を落として外に出た。

 壮年の男性は若者たちに振り返り、いかつい顔をそのままに「今の訓練内容についての反省会を行うぞ! 」と宣言するも、若者たちの視線が自分に集まっていない事に気付く。

 その視線を追うように振り返ると、その先には壁際で鉄パイプの椅子に座ってくつろぐ、オレル・ダールベックがいるではないか。


「中佐、いつからいらっしゃったのですか? 」

「今来たところだ、昼食の差し入れを持って来た」


 ゆっくりと立ち上がり、そう質問に答えたオレルに向かい、壮年の男性も若者たち三人組も姿勢を正して敬礼する。


「うむ。マスターチーフ、君たちも“軍服を着ている時以外”は、敬礼しない約束だぞ」


 オレルは部下たちにそう注意するものの、苦笑しながら差し入れの入ったバッグを渡す事で、真剣に怒ってはいないぞとメッセージを送った。


「今まで君たちの活躍の場は戦場にしか無かった。しかし君たちは自分の意志で活躍の場を世界に変えたんだ。つまらん行為で軍人だと悟られるな」

「すみません、中佐。より一層気を引き締めます」

「地獄を喰らう男の異名はダテじゃない。マスターチーフ(上級兵曹)の事は尊敬はしているが、よろしく頼むよ」


 一般の兵士をまとめる軍曹、その軍曹にも階級があり、上級兵曹とはその階級の頂点に存在する。兵士から叩き上げで数多(あまた)の戦場を駆け抜け、満期除隊になる頃になれるかなれないかの名誉階級、それがマスターチーフである。

 部隊設立に際して様々な準備で駆け回る事から、特殊部隊兵士の育成にかかりきりになれない事を悟り、オレルは教育係としてこの、クラース・オーストレム上級兵曹をスカウトしたのであった。


「午後にノルドマン准将が視察に見えられる。君たちは気にせず訓練に励んでくれ」


 あくまでも淡々とした口調でそう説明し、昼飯が冷めるから早く切り上げたまえと部下たちに促した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ