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凛として外道のごとく 『ワレ、異世界ニテ特殊部隊ヲ設立セントス』  作者: 振木岳人
◇◆◇ 第2部 核爆弾開発阻止作戦 編
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54 プロローグ ~五大貴族会議~


 アムセルンド公国の首都バルトサーリ

 牧畜と畜産、羊毛加工などで古くから栄えて来たこの街は、首都をぐるりと取り囲む山々に豊富な鉱物資源が眠っているのが発見され、単なる首都機能から産業地帯へと変化した。

 王国時代は王家の血筋発祥の地として、聖地としての存在価値しか無かったのだが、公国が誕生したあたりから二次産業が爆発的に発展して、名実ともに比類なき首都となったのだ。

 その首都バルトサーリの街の中央、小高い丘の上にひときわ高く雲を貫く建物がある。名称は『八月宮殿』。旧アムセルンド王国が建てた豪華な宮殿であり、古くから王国の象徴……ランドマークとしてそびえていた。

 そして時代は変わり、王家の血筋が潰えた今は、新生アムセルンド公国の象徴として、下界を見下ろしていたのである。


 高地の首都は早々と秋が深まって来ており、街を囲む山々の中には山頂付近に雪が積もり、白い稜線が太陽光を反射する光景も垣間見えている。

 時折山から吹き下ろす冷たい風を肌に浴びて、人々がいよいよ冬の到来を実感しつつあるバルトサーリにおいて、この八月宮殿も一年の締めくくりが始まった。

 アムセルンド公国の最高意志決定機関、五つだけ用意された豪華な椅子に座る事を許された高貴なる立場の貴族たちが、厳しい冬を前に本年最後の『五大貴族定例会議』を開催するのだ。


 五大貴族会議……「ザ・ファイブ」グレート・アリストクラート・アッセンブリー。これは侯爵や伯爵、子爵や男爵などで構成される貴族院議会の上部機関に位置する最高意志決定機関。

 貴族院議会が議決した議案を上奏し、五大貴族会議で議決を取って承認するのが表向きの議事運営方法なのだが、五大貴族会議がその強大な権力で全てを裏で決定し、貴族院会議がそれを追認すると言う事情もはらんでいた。


 八月宮殿の奥……ごく限られた者、許された者しか入れない密室に今、緊張感が漂い始めている。

 アムセルンドの王族にしか使用する事の出来なかった広間。当時は王国中の財宝や装飾品が所狭しと飾られていた権力と富の象徴の部屋であったが、今は全くその面影は全く無い。

 ソファや棚など王国時代の遺物は全て撤去され、楕円形の巨大なテーブルと椅子が五つ、中央にポツンと置かれただけのレイアウトになっている。質実剛健を具現化したような、重厚感に満ちた空間だ。


 ──ここがまさしく会議室、アムセルンド公国の五大貴族が集い、そして国と言う大きな船の進む先を決める操舵室であったのだ


 会議室の中には、やがて入室して来るであろう主人を待つ五人の筆頭執事の姿がある。五人が五人ともバラバラの衣装を身にまとい、全く無言のまま出入り口の扉に向かって直立不動を保っている。

 そして、廊下側にも各々が抱える執事やメイドが並び、いよいよ主人の到着を声高に叫ぶ。それまで控え室で過ごしていた貴族五人が、会議室に順番に現れたのだ。


(ヤーズフェルト家代表、フェリクス・ヤーズフェルト公爵様〜!)


 掛け声と共に会議室へ入って来たのは、恐ろしく背が高く筋骨隆々で美丈夫の青年。彼はヤーズフェルト家の若き当主であり、社交界や政財界から『若き闘牛』と呼ばれるフェリクス・ヤーズフェルトである。軍部に対して多大な影響を持つヤーズフェルト家、その力の象徴とも言うべきなのか、フェリクスは特注の豪華で煌びやかな特性の軍服を着て入室して来た。


(ライル家代表、ディーデリック・ライル侯爵様代理、アリョーシャ・ライル夫人〜!)


 次に入室して来たのは、露骨に肌を露わにせず、身体のラインを強調するドレスを着た女性。妖艶さと清楚の境界線を狙ったこの貴婦人の名前はアリョーシャ・ライル。長く床に伏せている夫ディーデリックの代理として会議出席が認められた侯爵夫人だ。


(ローセンプラド家代表、エサイアス・ローセンプラド侯爵様〜!)


 貴婦人の歩いた後に漂う残り香を楽しんでいるのは、でっぷりと太ったハゲ頭の中年男性。手や首にジャラジャラと貴金属を飾る派手なエサイアスは、とくに財界に顔が効くキレ者の経済通だ。


(マルヴァレフト家代表、ランペルド・マルヴァレフト公爵様〜!)


 自堕落を体現するかのようなエサイアス・ローセンプラドとは全くの対照的に、中肉中背のランペルドが入室して来る。貴族の頂点にいるとは思えないほどの質素な衣服に、貴金属で身を固めてもいないその姿は、まるでトップビジネスマンの様相。小脇に書類の束でも抱えようものなら、これから法廷闘争に赴こうとする血気盛んな弁護士にも見える。


 この四人が会議室に入り終えた段階で、空気は一旦落ち着いた。

 四人は四人とも自分の気に入った席につき、そして一人だけ入室を許された各々の筆頭執事が、いそいそと主人のために茶の準備を始める。

 ──無言、まさしく無言。この国のトップ集団である五大貴族の内四人が揃って席についたのに、お互い視線は合わせているものの全くの沈黙。執事たちが用意しているティーカップとソーサーの小さなカチャカチャ音が、マナーの悪い巨大な騒音に感じられるほどだ


 だが、これが五大貴族会議のならわし

 代表が現れて席につき、会議の開催を宣言するまでは議事録には載らない発言とし、オフレコ発言はすべきではないと言う暗黙の了解が存在している。──あくまでも表向きの体裁ではあるが


 そして、いよいよその開催権限を持つ者が現れた


(アムセルンド公国及びヘイデンスタム家代表、アレクシス・ヘイデンスタム大公様〜!)


 廊下で入来を宣言する声が、まるで詩を読むように軽やかな口調になる。

 その声を背に受けて入って来た青年。儚げな美のオーラを放ちつつも、命の力強さを具現化した紺碧の瞳を持つ中性的な青年。彼こそがこの国のトップ。アレクシス大公その人である。

 彼が代表の席につき、会議の開催を宣言すれば、それが五大貴族会議の始まりなのだ。



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