45 内職
「僕を組織に入れてください!」
リゴシェの丘で行われた汚職警官一掃作戦において、警官に無理矢理連れて来られた魔法使いの少年エルモ・ライホは、三課に保護されてそのままセーフハウスまで連行された。
事情聴取と言うのが大きな理由ではあるのだが、何やら旅の途中サイフを落とし、空腹でまともに動けなかったと言うのも理由にあるらしい。
セーフハウスに連れて来られたエルモは、目の前に出されたパンにスープに野菜に肉料理を、これでもかと自分の腹に詰め込んで満足する。
まるで漫画のように腹をパンパンにさせて、エルモが言い出したのが先の言葉。三課のメンバーにして欲しいと申し出たのである。
不思議に思ったオレルが、事情聴取を兼ねて今までのいきさつを尋ねると、この特殊部隊に対して彼自身がまるで警戒感を抱いていないのか、自分の生い立ちから全てをさらけ出した。
エルモ・ライホ 十六歳
アムセルンド公国の北に位置する、フリドマリエ王国の寒村に産まれる。
類稀なる魔力を秘めていると、幼い頃に村の神官に太鼓判を押されて推薦され、八歳にして北極魔導協会の門を叩く。
彼の得意とする分野は五大属性魔法ではなく、神聖魔法。それも神の威光を讃える神聖白魔法系統ではなく、それと対を成す冥闇黒魔法に長けていた。
北極魔導協会に所属し、下級レベル第十三階位の見習いから魔導士人生をスタートさせたエルモであるが、なかなかにその道は平坦ではなかった。
日々の修行も厳しいのだが、この北極魔導協会には独特な階級昇格システムがあり、十四歳までは専門の施設で修行させるのだが、十五歳を過ぎると強制的に旅に出されるのだそうだ。
もともとこの大陸には四つの魔導協会があり、その協会その協会独自の特色をもって運営されている。
魔術と工業の融合を目指す研究色の強い西風魔導協会
西風魔導協会と目的は同じくするものの、より商業色の強い南海魔導協会
純粋な魔法研究にひたすら傾倒する東昇魔導協会
魔法研究一筋だが、攻撃魔法開発に力を置く北極魔導協会
土地柄もあって北極魔導協会に所属したエルモ・ライホだが、その魔術界の武闘派とも言っても良い北極魔導協会の昇格システムはズバリ、「戦場や戦闘による魔法影響」の実践と進化。これについて実践や開発した魔法の論文を発表しなくてはならないのだ。
つまり、北極魔導協会の会員となったメンバーは、自分の国を捨ててでも何処かの組織の一員となり、戦場に赴いて自分の開発した魔法を試して、それを論文にしなければランクアップしないのである。
北極魔導協会 クラス第十三階位見習い、駆け出しのペーペーから卒業するために旅に出たエルモ・ライホは、その性質の穏やかさもあって、自分の魔法研究や実践それ以前の段階として、自分を受け入れてくれる組織を探していたのである。
「必ず、必ずお役に立ちます!だから僕を!」
「弱ったな。組織の存在を知られた事もあるから、むげに開放する訳にもいかないし」
「魔法使えます!僕は役に立ちますよ!」
「魔法か、考えてなかったんだよな……」
オレルに懇願するエルモだが、正直なところオレルも苦慮していた。
独自の諜報ルートを持つ、近代化武装した少数精鋭部隊を念頭に作り上げた参謀情報部三課。基本的な戦闘の構想に魔法使いは入っていなかったのだ。
「僕、何でもやります!炊事も出来ますし掃除もやります!日曜大工だって出来るし、田舎じゃ畑もやってました」
「それってもはや魔法と関係ないじゃん」
同じテーブルで会話を聞いていたマーヤが冷静にツッコミを入れる。すると一緒に食事をしていた三課のメンバーは大笑いだ。
「我々は広い戦場を時間を掛け一進一退で闘う部隊ではなく、限定された空間において一瞬で勝つための部隊だ。魔法が役に立つのかは疑問だな。正直想像に難しい」
「そこを含めて研究したいんです。もし良い結果が出るならば、それこそ中佐にとっても悪い話じゃないですよ」
執拗に食い下がるエルモ。
オレルは子供の駄々を聞く親のように困ったなあと顔に出しているのだが、ここでシルバーフォックスが口を挟む。彼女は何か閃いたのか、エルモ・ライホの使い道を提案したのだ。
「中佐、この少年は光の魔法も使えるんですよね?」
「ああ、黒魔法が使えると言う事は、白魔法も使えはずだね?」
「あ、はい。使えます!得意じゃないですが、並の術者程度になら!」
その回答を得てニヤリとするシルバーフォックス。
かくして、シルバーフォックスの後ろ盾を得たエルモ・ライホは、マーヤと同じく軍属扱いで三課のメンバーとなった。
彼の仕事は主に、閃光手榴弾のエネルギーチャージ担当。一日通して二本程度のチャージぐらいしか出来ないのだが、マーヤと一緒にセーフハウスの雑用と家事をこなしながら、今日も今日とて内職に励んでいるのであった。
◆ 閑話休題 エルモ・ライホ 編
終わり




