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43 容赦無き殲滅戦 後編


「シルバーフォックス、行こう。コヨーテが心配だ」

「そうね、そうしましょう」


 魔法使いの少年、エルモ・ライホを保護した突入班の三名は、汚職警官が乗って来た車の影に隠れながら次の段階に入る方法を模索し、そしてものの数秒で決断する。

 シルバーフォックスはグリズリーに顔を近付け、小声で突入班を割る事を説明し、彼に新たな任務を指示した。


「グリズリー、少年を頼む。安全圏まで避難させるんだ」

「分かった。退避後に再合流するか?」

「いや、時間はそれほど掛からない。安全圏まで避難したらその場で待機だ」

「了解」


 シルバーフォックスは汚職警官たちの殲滅に関して、派手な銃撃戦による膠着状態が起きるとは判断せず、三課によって短時間で決着がつくのを予想。少年の避難誘導を指示したグリズリーに対して、再び戦場には戻らず少年を守りきれと命令した。

 階級では上のグリズリーも、三課の作戦行動では司令塔を命じられたシルバーフォックスの方が上。快く分かったと返事をして少年の背中を押した。


「行くぞ少年、頭を下げて進むんだ」


 グリズリーはエルモ・ライホの頭に自分の手を乗せて身を屈ませたまま、小さな歩幅でスススと歩き出す。マスターチーフに教わった、身体を小さく丸めて狙われ難くする要人警護方法だ。

 そして、バイパーとシルバーフォックスは少年の脱出を確認すると即、二人でフォーメーションを組んで古代遺跡に駆け出す。


(マザーズネストより突入班へ、フルモナから情報。遺跡南東角でコヨーテが小規模戦闘継続中、ハルヴァナの射線に入らぬよう、南西角から進入されたし)

(突入班了解した)


 屋根も崩れ落ちて立派な石柱と石壁が迷路のように点在する古代遺跡の廃墟で、南西角の石壁に張り付いたバイパーとシルバーフォックス。

 断続的に響いて来る拳銃の発射音、その炸裂音が管区警察支給の回転式拳銃か、三課支給の自動拳銃かを聞き分け、自分たちの指揮官と敵の位置関係を割り出した。


 暗闇の中、逸る心を深呼吸で一旦落ち着かせる二人。コヨーテ救出のために銃撃戦の渦へこれから飛び込むのだが、ここでシルバーフォックスがバイパーの肩をトントンと叩き、振り向いた彼に対してハンドサインでメッセージを送る。


 右手で手刀を作り、遺跡の南東角に向かって何度もチョップを繰り返す「方向を指示」

 そしてバイパーの目の前で右指を三本立て、二本、一本と減らした後に、人差し指でバイパーを指す「カウントダウン後、お前が実行」

 更に右手で円筒形の物体を掴んでいるジェスチャーを作り、そこへ左手でピンを抜く仕草を重ねる「擲弾使用」

 つまり、シルバーフォックスはこう命令したのだ。ーー閃光手榴弾を使用する、敵陣前に向かって私の合図で投げろ と


 理解したバイパーは腰のホルダーから閃光手榴弾を取り出して安全装置のピンを抜く。そしてシルバーフォックスの顔をまじまじと見詰めながら、彼女が示した三本指がカウントダウンを始めるのを待つ。


 ……三、ニ、一、今!……

 彼女の合図に合わせて、バイパーは遠慮の無い全力投球で閃光手榴弾を闇に向かって投げ、そして二人とも背を向けて耳を塞ぐ。

 未だに銃声と怒号が飛び交う闇夜の中に、カランカランと地面を転がる缶の音。それからものの数秒だった。バチン!と鼓膜が破れそうになる巨大な破裂音と共に、古代遺跡の南東角が一瞬だけ「昼」に変わったのである。


「ぎゃあああ、目が……目があああ!」

「見えない、何も見えないいいいっ!」


 閃光手榴弾の百万カンデラの光量をまともに見てしまった汚職警官たちは、目を押さえながらその場に崩れ落ちてのたうち回る。

 その光量は恐るべきもので、千メタル遠方からスコープで覗いていたハルヴァナとフルモナが、思わずスコープから目を逸らして、梅干しを口いっぱいにほうばったような、クシャクシャ顔で目を瞑るほどだ。


 本来ならある程度の時間が来れば失明状態も回復するのだが、無理矢理連れて来た魔法使いから、暗闇も明るく視認出来る戦闘補助魔法を受けていれば、回復するには更に時間がかかる。完全失明の恐れもある。

 こうなれば、バイパーとシルバーフォックスによる突入班の独壇場。閃光手榴弾の炸裂から目を背けて、夜目に慣れていた二人は突入を開始する。


 ……それは呆気ないものだった

 地面でのたうち回る汚職警官に向かって、ただ狙った銃の引き鉄を引くだけ。戦闘スキルも射撃精度も必要無く、ただただ銃を撃てば敵が死ぬと言う単純な作業だった。


 敵を無力化させてトドメを刺す行為。それを残酷だと主張したり、良心の呵責は無いのかと責める人もいるだろう。

 ならば、二十名以上の敵を健康な状態かつ、敵意剥き出しの元気な姿を維持させたまま、正々堂々と二人で立ち向かえばフェアになるのだろうか?

 いずれにしても、突入班の二人はそこまで物思いに耽ってはいない。……市民を護る立場の者が、市民を麻薬漬けにして不幸のどん底に叩き込んでその利益を貪っていた。その非道の循環を断ち切ったのだと考えているであろう。


 汚職警官一掃作戦はこれでひと段落がついた。

 もちろんそれは表面的な事実に過ぎないし、汚職警官の背後に存在している巨悪すら判明していない。

 この後に麻薬組織エトネッヴの壊滅も予定されている事、そして軍部にはびこる闇も暴かなくてはならない以上、参謀情報部三課に穏やかな日々が来るのはまだまだ先の事なのだ。


 また、オレル・ダールベックには新たな宿題が出来た。

 悪魔と契約していたかのような、あの副署長の末路。契約が不履行とされ魂を引き抜かれた際に、確かに悪魔的な存在はオレルの名前を呼んだ。つまり敵にはオカルト契約をしてまで秘密を保持しようとする者がおり、その者はオレルを知る存在を呼び出した事に繋がるーー魂を引き抜くだけでなく、一斉に警官の魂をも支配出来るほどの力を持つ存在を


 鎮まり返ったリゴシェの丘

 作戦は無事成功し、三課に撤収命令が下る。

 魔法使いの少年エルモ・ライホはグリズリーに保護されて無傷のままだが、事情聴取のため三課のセーフハウスまで移送される事になった。

 腹のムシがぐうう!と鳴ったのを丁度グリズリーが聞いており、気を利かせたグリズリーが念話通信で許可を取ったのがきっかけである事からして、サイフを落とした旅の魔法使いが涙目で感謝しながら腹いっぱいに飯をかき込む姿が容易に想像出来るだろう。


 少年もグリズリーも、そしてバイパーもシルバーフォックスも傷一つ無く無事作戦を終えた。

 ハルヴァナは大口径の対戦車ライフルを連射した事で、肩が痛いと計画的に泣き付いて、姉に慰められる程度であったが、この夜部隊から負傷者を一人出してしまった。


 ──汚職警官を一掃した後、バイパーとシルバーフォックスがオレルの無事を確かめていた際のこと

 物陰から出て来たオレルに心配し、大丈夫かと問うバイパーに対して問題無いと答えたオレルであったが、歩き出して早々に、真正面から石柱に激突して顔面を強打したのである。

 慌てて駆け寄ったバイパーとシルバーフォックスに対して、オレルは再び「大丈夫だ、問題ない」と答えていたものの、盛大に鼻血を滴らせていたのだ。


 タイミング悪く、閃光手榴弾の光をまともに見てしまったらしいのだが、あの真面目な顔で鼻血をダラダラ流すものだがら、二人は笑いをこらえるのに必死だったそうな。



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