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35 怪我の功名


 左右腕部切創七箇所で合計約五十針の縫合処置。骨まで達していた切創も二箇所あり、術後右腕部にギプス装着。

 右足カカト亀裂骨折、左足大腿部筋肉裂傷、右足靭帯裂傷。右鎖骨骨折。

 診断と所見の結果、完治までに五十日の時間を要する重傷状態であるも、従軍神父部隊の治療祈祷により完治まで十日まで短縮出来た──


 バルトサーリ陸軍病院の入院病棟 今、その病棟が物々しい空気に支配されている。

 アムセルンド陸軍総局 参謀部 参謀情報部のオレル・ダールベック中佐が、昨晩暴漢に襲われて重傷を負い、この陸軍病院に入院したのである。

 担ぎ込まれた訳ではなく、ダールベック本人が自ら歩いてやって来た事から、命に関わる重篤な状態ではない事が不幸中の幸いではあるが、首都バルトサーリで高級士官が暴漢に襲われた事実は、関係者を騒然とさせる。

 深夜の内に緊急手術が行われ、傷口の縫合と固定は完了。朝方には病院に常駐する従軍神父部隊が治療祈祷にて深刻なダメージは回復。早々と集中治療室から一般病棟の個室へと移されたのだが、ここからが大騒ぎだった。


 深夜陸軍病院に駆け込んで早々に連絡を取ったノルドマン准将が、参謀情報部が独自に出動命令が出せる陸戦部隊『首都中央軍独立歩兵小隊』の兵士三十名を、完全戦闘装備で出動させ、陸戦病院を取り囲む。

 「暗殺者とその集団からダールベック中佐を守る」と言う名目の元、オレルを完全に隔離して外敵の侵入を一切跳ね除けたのだが、これがまた波乱を呼ぶ。


 首都バルトサーリでは、首都の治安維持の名目上、陸軍総局の編成した首都中央軍治安維持部隊にのみ武装出動が認められており、他の通常部隊が武装して首都管区で活動するのは原則禁じられている。

 「小隊規模の部隊が陸軍病院を占拠した」と言う通報を受けて、治安維持部隊が中隊規模三百名をもって、鎮圧目的で病院に出動したのである。


 更に更に、佐官以上の高級士官が暴漢に襲われた事件は、近年まれにみる重大且つ深刻な治安問題であると捉えたのか、陸軍総局軍警……ミリタリーポリスの捜査課が一班と警護隊が病院へと駆け付けたのである。


 『異なる三つの部隊が陸軍病院に集結し、そして睨み合いを始めた』この事件ーー

 その光景を目撃した軍人や軍関係者、または一般市民は、クーデターでも起きたのかと騒然とするのだが、その日の午後にはやがて沈静化して行く。

 「参謀情報部の中佐が、昨晩飲酒後の帰り道に物盗りに襲われた」と言う公式見解が陸軍総局から発表され、参謀情報部麾下の中央軍独立歩兵小隊は任を解かれて帰隊し、治安維持部隊も撤収。陸軍総局軍警も捜査班の課長を残して撤収したのである。


 オレルの病室、目が痛くなるような真っ白で殺風景な個室には今、床に伏せるオレルの他に四名の男女が集っている。

 オレルの上司であるノルドマン准将、そして治安維持部隊の中隊長であるテレジア・クロンカンプ大尉と、軍警捜査班課長のヘイン・デライケ少佐。

 更にオレルの部下である三課のシルバーフォックスの合計四人。

 シルバーフォックス以外の三人は、この騒動が起きた当初からオレルの病室に呼ばれており、オレルと会話を重ねて相互理解を深めて今もこの病室に残っており、シルバーフォックスは別の任務報告で病室を訪ねていたのである。


「中佐、マーヴェリックと接触して小型念話機を渡しました。毎日フタマル時に定時連絡があります」

「ご苦労、護衛の方はどうだ?」

「はっ、ハルヴァナとフルモナが常に狙撃ポイントからマーヴェリックをカバーしております。二人の背中はグリズリーが守っています」

「よろしい。それじゃ、君とバイパーも始めてくれ」

「了解しました、では失礼します!」


 最後に直立で敬礼し、病室を出て行くシルバーフォックス。

 ナース姿の彼女を目で追いながら、呆けた顔付きを隠しもしないノルドマンたち。准将だけでなく治安維持部隊のクロンカンプ大尉も、そして軍警のデライケ少佐も、そこまで徹底して変装するのかと驚いているのだ。


「我ら参謀情報部三課は、常に見えない敵と戦っている。彼女の変装は別段不思議じゅないよ」


 ギプスで身体のあちこちを固定され、包帯だらけの痛々しい姿ではあるが、オレルが口元に笑みを浮かべてそう言う。


 誰が敵なのか分からない今、相手が陸軍に所属していると言っても安心は出来ない。だが、今日の朝初めて顔を合わせたばかりのこの二人に向かい、オレルは警戒を解いて笑顔で接している。

 それに至るには理由がある。朝の段階で三つの部隊が衝突した際に、ノルドマン准将が相手部隊の指揮官の素性を調べたのだ。


 ──治安維持部隊のテレジア・クロンカンプ大尉は、弱小貴族ではあるが、地方領主クロンカンプ子爵の令嬢である。辺境地方の弱小領主と言う事もあって貴族派閥には属しておらず、クロンカンプ子爵とテレジアの政治的後見人は何と、五大貴族のランペルド・マルヴァレフト公爵であったのだ。

 ノルドマンは即座にランペルドに確認を取り、彼女の素性に問題が無い事は証明された。


 また、軍警捜査班課長のヘイン・デライケ少佐はいわゆるアウトロー。

 士官学校の歴代の首席卒業生の中で最も優秀と呼ばれながら、独断専行と命令不服従などかなりの問題行動で出世街道の道から外れた、後見人もおらず派閥にも招かれない、強度の曲者(くせもの)であったのだ。


 その二人がオレルと会話を深めて理解し、そして軍本部に対して「参謀情報部のオレル・ダールベック中佐が、昨晩飲酒後の帰り道に物盗りに襲われた」と、ニセの報告を行なったのである。

 つまりオレル・ダールベックは、軍内部の捜査権と情報収集能力車を手に入れ、更にはいざと言う時にバルトサーリの街に治安維持目的で戦闘部隊を展開出来るコネクションを手に入れたのだ。


 怪我の功名とはまさしくこの事

 オレルの元に新たな仲間が加わったのだ



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