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27 連続する猟奇殺人


 アムセルンド王国の首都バルトサーリは、ここ数日の間低気圧に包まれており、ぐずついた天気が続いている。

 今朝も空は分厚い雲に覆われており、霧の様な細かい雨が石畳の道路と石造りの家々を、音を立てずに濡らしており、首都の晩夏は冷たく終わりそうである。


 週の半ば、住宅街から職場に向かう人々の傘が道を覆う中、傘もささずに両手をトレンチコートのポケットに入れた男性が歩いている。

 帽子を目深にかぶり、その表情までははっきりと分からないものの、への字に結んだ唇が彼の機嫌の悪さを表している。家庭内で何かが起きたのか、それとも、これから向かう職場が彼の機嫌を損ねるような環境なのか……


「事件だよ!事件だよ!また獣人殺害事件が起きたよう!」


 街角にある新聞スタンドの販売員が、朝刊の注目記事を叫んで宣伝する声が聞こえて来る。トレンチコートの男はその宣伝文句でさらに口をへの字に曲げるが、その内容が気になるのか、表情とは裏腹に、吸い込まれるように新聞スタンドへと足を進める。


「……一部くれ」

「まいど!二十キュロクね」


 ズボンのポケットから小銭を取り出し、販売員に渡すと、男は新聞を受け取りトレンチコートの内ポケットへ。そのまま目的地に向かって歩き出す。


 今年になってから度々起こる獣人の連続殺害事件。特定の種族を狙った凶行では無いのか、被害者はキツネ種であったりウサギ種であったり犬種と多岐に渡る。だが、犯行の手口が毎度毎度残忍である事から、首都の人々はこの連続猟奇事件に震え上がっていた。


「今度は猫種の獣人がやられたらしい」

「印刷工場で働いてた、若い娘さんらしいよ」

「可哀想に、また首と手足バラバラにされて、道に飾らせてたのかな……」


(……バカヤロウ、心にも無い言葉を口走りやがって……)


 職場に向かう人々同士で事件のウワサ話を重ねる中、トレンチコートの男は内心でそう毒付き、朝から営業している飲食店へと入って行った。


 店の名前は『リッテ・モルテ』。バルトサーリで働く労働者たちに、安価で美味しい食事を提供し続ける、アメリカンダイナーのような店である。

 トレンチコートを脱ぎながら新聞を取り出し、帽子をとる。カウンター席へと着いた男は、店内を慌ただしく動くウェイトレスにおはようと声をかけた。


「あ、ゴルトベルクさんおはようございます!いつもので良いですか?」

「ああ、お願い」


 挨拶を返したウェイトレスは、カウンター内に戻るとそのままポットからカップへコーヒーを注いでゴルトベルクに差し出す。そして覗き窓から厨房を覗き、ゴルトベルクさんにいつもの!と声を張る。


 見ればこのゴルトベルク、肌の張りや精悍な顔付きから、歳は三十歳前後と想像出来る。だが彼の髪は銀色に近い灰色であり、帽子をかぶっていた時は分からなかったが、鋭い耳が頭に生えていたのだ。──つまり彼も獣人、狼の獣人であったのだ


 先に出されたコーヒーをブラックのまますすり、そして新聞を広げる。一面にデカデカと報じられている記事はやはり、獣人の連続殺害事件の詳細だ。

 ──今年になって始まった事件の被害者は、全員が全員とも胴体が行方不明のまま。必ず首を中心として左右に手と足が並べられ、悪魔の儀式ではないか?と囁かれている。

 この新聞記事にある被害者の若い女性も、仕事終わりの帰宅中に襲われたのか、連れ去られた後に殺害されて解体させられたのか、バルトサーリ北区に路地裏に整然と並べられており、深夜巡回中の警官が発見したそうだ。


「……ひでえ事をしやがる……」


 そう呟いたゴルトベルク。ちょうど「いつもの注文」が出来上がり、鹿肉のホットドック、キャベツの酢漬けとマスタードたっぷり乗せが目の前に出される。ウェイトレスの若い女性には、ゴルトベルクの呟きは聞こえなかったようだ。


 ふう、とため息を吐き出して新聞を折りたたんで中断。コーヒーを一口ごくりと大きく飲んでホットドックを掴むと、ゴルトベルクの視界右隅に人影が映る。

 失礼と言いながらゴルトベルクの隣に座るその人影に対して、カウンター空いてるんだからわざわざ隣に座るんじゃねえよと、心の中で盛大に抗議しながら、露骨に嫌な表情でホットドックにかぶりつく。

 鹿肉自体の風味、そしてグリルした際の香ばしさ。それにからっと酸味の効いたキャベツの酢漬けと粗挽きマスタードのスパイシーな風味が絡んだパンは、二日酔いと憂鬱が相まったゴルトベルクを元気にさせる。

 だが、突如それを遮る声がかかる。それも隣の迷惑な人影からだ


「ファルカー・ゴルトベルク巡査部長ですか?」


 ──あれ? 俺の名前を?──

 ゴルトベルクは振り向き、わざわざ隣に座って来た嫌な人影をしっかりと見る。

 知り合いでも何でもない、見た事も無い青年がそこに座っていたのだが、彼は軍の制服に身を包んでおり、略式ベレー帽をかぶっていたのである。



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