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凛として外道のごとく 『ワレ、異世界ニテ特殊部隊ヲ設立セントス』  作者: 振木岳人
◆ ランペルド・マルヴァレフト公爵 編
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25 アンナリーナ・マルヴァレフト


 ランペルド公爵との会談が無事終わり、応接間を退出したオレル。さすが五大貴族の一つだけあってデカイ屋敷は歩くのも一苦労だなと、顔には出さないが内心呆れている。

 来た道を戻るように、重厚な雰囲気のセンターホールはそのまま通り抜け、長い廊下を端まで歩いて使用人用の階段を降りる。そして一階の使用人控え室とリネン室を挟んだ通路を北に向かう。その先が使用人の出入り口なのだが、何を思ったのかピタリと立ち止まり、執事に振り向いた。


「いらない木箱があるならください。ワインの空き瓶もあればありがたい」


 マルヴァレフト家の屋敷内、裏口に向かって歩くオレルは、執事が頭の中が真っ白になるような依頼をする。

 どこで誰が見ているか分からない、このまま裏口から出たとしても、手ぶらで執事やメイドが頭を下げて来るなら、怪しい人物が出入りしていると宣伝している事になる。


「この木箱を持って、私が頭を下げて出ますから、胸を張ったまま見送って下さい」


 執事から空き瓶入りの木箱を受け取ったオレルは、笑顔でそう言って執事の度肝を抜く。彼は出入りする業者に化けて屋敷を去ろうと言う念の入れようなのだ。


「では皆さん、ごきげんよう」


 扉を開けて早々に振り返り、見送る執事やメイドに向かって深々と頭を下げると、身を翻して屋敷の外へと足を進める、まさにその時だった

 「アンナリーナ様!走ったら危のうございますよ!」と屋敷の横の庭の遠くからメイドの声が聞こえたかと思ったら、裏口に向かってドレス姿の少女が駆けて来てオレルと衝突しそうになったのだ。


「おっと……」


 オレルは冷静に横へ移動して難を逃れたのだが、まさか裏口に人がいるとは思わなかったのか、立ち止まった少女もびっくりの顔。


「アンナリーナ様いけませんよ、ここは使用人の出入り口にございます」


 オレルを見送っていた執事頭がそうたしなめると、さすがにバツが悪かったのか、アンナリーナと呼ばれたドレス姿の少女は小さな声でごめんなさいと謝る。


「こちらはランペルド様にご用があってみえられた、オレル・ダールベック様にございます。オレル様、この方はランペルド様の末娘、テレジア様の忘れ形見でアンナリーナ様にございます」


 オレル・ダールベック中佐が今度訪問して来た際に出入り業者と勘違いしては失礼だと、執事頭がとっさに機転を効かせて互いを紹介する。するとアンナリーナはにっこりと微笑みながら、両手でスカートを掴んでちょこんとお辞儀をしたではないか。


「アンナリーナ様、オレル・ダールベックにございます。只今急ぎの所用があるゆえ、これにて失礼します」


 木箱を抱えたまま丁寧に頭を下げ、サッと身を翻すオレル。

 年の頃は十歳前後であろうか、幼さとあどけなさが抜け切っていないアンナリーナは、それでも淑女教育の賜物(たまもの)とでも言いたげに、「それは残念にございます、次回はおくつろぎ出来るようお待ち申し上げます」と、オレルの背中に投げかけるのだが……

 ーーだが、オレルは振り返らずに歩幅をどんどん広げて去って行ってしまうーー

 年端もいかない少女が、せっかく精一杯の挨拶をしていると言うのに、オレルはそれを褒めもせずに、顔面蒼白となってその場から逃げ出したのだ。


(何故だ、何故彼女にある?もう終わったんじゃないのか?何故だ!)


 全身に鳥肌を立て、背中に冷や汗を滝のように流し、今にも天地がひっくり返りそうなほどにグワングワンと目を回すオレル。

 そう、少女アンナリーナの首元に、認めたくない印があったのだ。ーーそれはつまり『流れ星のアザ』 このアザがある少女と関わり合いになると、彼の運命が劇的に変わる忌むべき印だ


 若き魔法使い、若き革命家として世界の表舞台に担ぎ出され、そして失敗した時……

 流れ星のアザある少女は貴族の娘として、特等席で喜んでいた。ギロチンで俺が首を跳ねられるのを楽しんで見ていた。


 武闘家として生まれ変わり、日々ひたすら修行に明け暮れていた時……

 村に伝染病が流行り、村娘だった流れ星のアザの少女は、飢餓と病気で呆気なくゴミのように死んだ。その後はまるで何事も無く、俺が老衰で死ぬまでひたすら静寂と孤独が続いた。


 悪魔として生まれ、悪魔として滅ぼされた時は、彼女の姿は一切見なかった。そう言う因果はもう終わったのだと安堵していたのに……


「オレル・ダールベックとなった今、俺の人生は再び狂い出すのか……!」


 森の中に隠してある車にたどり着いた時、身体をガタガタと震えさせながら、喉から絞り出すように吠える。

 彼女の存在により、大きく変わってしまった自分の人生の数々。それを振り返りながらも、流れ星のアザが今回はどう作用するのかを想像し、そして答えの出ない迷宮にひたすら戦慄を覚えるオレルであった。

 

  ◆ ランペルド・マルヴァレフト公爵 編

    終わり



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