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18 五大貴族


「どうかね、一杯やらんか?」


 ノルドマン准将はコートの内ポケットからスキットルを取り出し、オレルに手渡す。

 スキットルとは、ズボンや上着のポケットに入れられるように平たい形状をしたスチール製のポットである。

 オレルはスチール製のキャップを開けて一口ぐびりと喉を鳴らす。そして中身の酒が上等なのか並なのかなどお構い無しに、そのままぐびりぐびりと美味そうに二口三口。

 あまりにその飲みっぷりが豪快で、慌てたノルドマンが私の分も取っておいてくれと狼狽(うろた)えるほどだ。


「晩夏ともなれば、北から吹き下ろす風は冷たく、雨もパラパラ降り出している。ありがとうございます、身体が温まりました」


 スキットルを返しながら礼を言ったオレルは、そのまま自分のポケットからタバコを取り出し、本日二本目のタバコに火を付ける。


「いやはや……酒もタバコもやらん男だと思っていたのだが、なかなかどうしていける口なんだな」

「働くだけ働いたら、飲んで吸う。そこまでつまらない男ではありませんよ」


 ここはイグナート・コズロフと対決した場所。

 三課のオペレーション・カットアウトを成功させて撤収開始。それと入れ替わるように、ノルドマン准将を責任者として参謀情報部二課が後始末……クリーンアップのためにチャルナコシカの麻薬製造工場に出動していたのである。

 麻薬工場は二課の指揮官に任せ、コズロフを排除した場所に居るオレルの報告を受けるために、ノルドマンはここで車を降りてオレルに合流したのである。


「私にも一本くれんかね?妻に怒られるから普段持ち歩かんのだ」


 タバコをねだるノルドマンに一本差し出し、火を付けてやると、そこでオレルの念話増幅器がピピッと呼び出し音を鳴らす。

 マザーズネストからの報告を受けるため、オレルはノルドマンに失礼しますと一言断り、念話増幅器を耳にあてた。


(こちらマザーズネスト、オールユニット撤収完了して合流しました。これよりセーフハウスに戻ります)


「ご苦労だった。各位に温かい食事を摂らせろ、飲酒も許可する」


(マザーズネスト了解しました)


「私は残務処理があるから今日は宿舎の方に戻る。夕方まで各自静養しているように」


 アウトと一言発してオレルは念話を終了した。


「見事なものだ、編成から半年もせずに結果を出した。中佐、君には三個小隊、いや中隊規模で特殊部隊を編成して貰いたいよ」

「准将、規模が大きくなれば必然的に私の目も届かなくなります」

「そう言うと思ったよ、今後も君の好きにして構わん。そして君がこれだと思う才能を見付けたら、遠慮なく言ってくれ。私が全て通す」

「感謝します、まだ私の構想である分隊規模にもなっていませんから、先ずはそこからです」


 ──それと と言いながら、オレルはハーフコートのポケットから一丁の回転式拳銃を取り出し、中身の弾丸を全て抜いて安全を確かめてからノルドマンに渡す


「うむ?これは、軍の回転式拳銃だな。これがどうしたね?」

「イグナート・コズロフが所持していた銃です。この事実が何を意味するか分かりますか?」

「……ちょっと待ってくれ中佐。他国軍の流入品ではなく、安い密造銃でも無いこれを、コズロフが持っていた事実は重大だ」


 ポツポツと降っていた雨が、荒れた横風も伴っていよいよ本格的に降り始める。まるでノルドマンの慌てた心象を表しているかのようだ。


「どうする中佐、これは、これは本当に根が深いぞ」

「承知しています。ただ、現状我々の戦力は微々たるものであるのも事実で、更にターゲットがどんどん増えているのも事実。プランをしっかり立てて敵を潰して行かないと、参謀情報部解体の逆襲を受ける事になりますね」


 首都に蠢く麻薬組織の壊滅を目指し、三課は行動を開始した。

 チャルナコシカは壊滅させたものの、もう一つの組織であるエトネッヴは無傷のまま。

 更にチャルナコシカお抱えの公認会計士が暗殺された事と、以前から押収した麻薬が紛失する事件が横行している事から、警察内部の汚職組の壊滅も視野に入れねばならない。

 その状況下において、公国陸軍の一部の軍人が犯罪組織に対して軍の支給品を横流ししている事実が浮かび上がれば、もはや無思慮のまま闘い続ける事は、自滅を意味する行為に変わったのだ。


「どうする中佐、君ならどうする?最小限の被害で勝ち続ける策はあるか?」

「優先順位、それが全てですね」


 脅えもせず、慌てもせず、極めて冷静且つ淡々とオレルは答える。

 もう一つの麻薬組織エトネッヴはライバルがいなくなったため、販路を拡大して我が世の春を謳歌したいのだが、未だに低品質アヘンが主力になっている現状からして高い収益は上げられないはず。それほど派手に動く事は考えられない。

 逆にチャルナコシカから高い賄賂を貰っていた汚職警官グループは、収入源が断たれた事からエトネッヴに急接近するのが予想される。

 派手に動いて様々な状況証拠を残す利点を鑑み、次のターゲットは汚職警官グループにするべきであろう。

 そして、チャルナコシカに陸軍正式拳銃を横流ししていた陸軍内の汚職組に関しては、今回我々が入手した横流し品を発表しないでしばらくの間沈黙する事で対応しましょう。


 もう一つの麻薬組織エトネッヴと警察汚職の関係、そして汚職警官の一掃を次の作戦とするのは理解出来る。しかし横流しの拳銃についてはしばらく静観すると言う理由が分からず、ノルドマンはしきりに首をひねって考察を繰り返している。


「ダメだ、分からん。中佐の口から説明してくれ」

「横流し品について我々が沈黙する事、これはこれで一つのメッセージになるのですよ。【我々は既に証拠を掴んでいるぞ】と。それが牽制になるのです」

「なるほど、情報が無い事もこれまた情報と言う事か。だが我々が弱腰で何もしないと思われる可能性もある」

「そう甘く考えてくれれば楽で良いのですが、実際は違うでしょう。准将、ラーゲルクランツ少将閣下とあなたに二十四時間体制でボディガードを付ける事を進言します。多分早々と尻尾を出して来るとは思いますが、今の我々には裏の軍勢力と真正面でぶつかるだけの体力がありません。汚職警官を片付け、エトネッヴを壊滅させる間に我々が戦力を整えて強くなるしか無いのです」

「あ、暗殺を狙って来ると言うのか?」

「ヤツらのターゲットは私、そして警告の意味で少将閣下とあなたが狙われる可能性が高いです」


 ──(やぶ)を突いてヘビを出したか──

 ノルドマンの苦々しい表情には一抹の恐怖も滲み出ている。


「中佐、近日中に訪問してもらいたい人物がいる」


 そうノルドマンは切り出したのだが、恐怖に耐えられず無理矢理話題を変えたのでは無い。この恐怖の未来図を中佐から聞いた結果、最善の解決を図るためにこの発言をするのだと言う、覚悟に満ちた瞳でそう切り出したのだ。


「アムセルンド公国のトップは君も知っているだろう。そう、五大貴族と呼ばれている。その五大貴族の一つ、マルヴァレフト家の当主であるランペルド・マルヴァレフト公爵に会って貰いたいのだ」

「マルヴァレフト家なら私も存じています。主戦派貴族に真っ向から立ち塞がる非戦派の貴族、軍人は嫌われる存在だと思っていましたが」

「それは世間での噂だ。実はね、参謀情報部が会計に通せない金は全て、マルヴァレフト卿が資金を提供してくれているのだ」

「なるほど、参謀情報部の影のスポンサーですか。非戦派のマルヴァレフト家が資金を出して、参謀情報部が軍の腐敗を暴く……。この軍組織にはそう言う図式が基本にあったのですね」

「設立時はね、今の我々は内部の腐敗だけでなく、敵国にも探りを入れる組織となった」


 ノルドマンはオレルの肩を掴み、真剣な表情でオレルに伝える。ーー動き出した歯車は、様々な歯車に影響を与えて全てが動き出す。中佐、君がコントロールするのだと


「中佐、マルヴァレフト公爵と会うのだ。会って現状を説明した上で、君が早急に必要だと思う人材、資金、施設など、その全てを要求しろ。この事態は君の主導で切り抜けるんだ」


 様々な選択肢を我々に説明しながら、彼は最善と思われる方法を躊躇なく選択して行く。

 答えは全て出ているのだろう、そして全ての事象と我々は駒となり、彼の手のひらで踊り続けるのかも。

 この時点でノルドマンが一番恐怖を覚えていたのは、自身が暗殺される可能性ではなく、警察内部の闇や軍部に蠢く闇でもなかった。

 オレル・ダールベックと言う若者の底の深さ……光すら届かないような思慮の深淵、それもまた、すなわち闇である事に恐怖していたのである。



 凛として外道のごとく ~転生玄人の諜報部員は亡国の姫君に忠誠を誓う~

 ◆ 異世界転生人ギルド 編

   終わり



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