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16 非正規戦特殊部隊


 麻薬製造工場の入り口は、まるで広場のように広々としており、かまぼこのような工場施設の前には、人が出入りする通用口と、麻薬を積載するトラックが出入りするための大きなシャッターがある。

 その通用口とシャッターの前に立ち、周囲を見張っている警備員の数は四。でこで手に入れたのか、四人が四人とも軍用回転式拳銃をホルスターに下げ、辺りを注意深く見守っている。

 そして、その警備員四人を闇から見詰めているのが、三課の突入班。バイパーとシルバーフォックスである。


 工場の入り口から漏れて来る電灯の明かり、それに照らされた四人のシルエットを岩陰から睨みながら、彼らは闘いのゴングを聞く。


(5、4、3、2、1、今! 只今をもってオペレーション・カットアウトは施行された。各位はグリズリーの爆破確認をもって行動に移れ)


 突入班だけはいちいち念話増幅器を耳に当てなくても通話が可能となるよう、腰のホルダーからイヤホンマイクが伸びている。そのイヤホンから、マザーズネストの状況開始宣言が聞こえて来たのである。

 そしてマザーズネストの宣言から遅れて数十秒後、バイパーとシルバーフォックスが潜む岩陰に匍匐(ほふく)前進で帰って来る。それはもちろん、グリズリーが発電機爆破の準備が出来た事を意味しているのだ。


「……遅延信管点火まで後二十秒……」

「……目を瞑って。夜目に慣れるのよ……」


 一言二言小声で確認し、その時を待つ。

 工場前に立つ警備員たちも、一番眠たい時間なのか、四人が四人とも無言のまま気が抜けたかのように立ち尽くしていた。

 だが突如まどろみの時間は終わりを告げる。工場脇の発電機のあたりから『バン!』と機械が破裂するような音が聞こえたかと思ったら、あっという間に全ての灯りが落ちてしまった。ーー辺りは完全なる闇に包まれたのだ


 ……シュン!シュン!

 バイパー、シルバーフォックス、グリズリーの背後から、工場側に向かって空気を切り裂く音がする。その数は四回。

 夜目に慣らしていたバイパーたちが目を開けて闇を覗くと、すでに四人の警備員たちは地面に沈んでピクリとも動かない。


(工場前クリア、これより突入する!)


 この刹那のような時間にスナイパーライフルを四発連射し、一発のミスも無く制圧してしまった狙撃班。その確かな腕前を持つハーフエルフの姉妹を尊敬しながら、バイパーたちはいよいよ屋内へと侵入した。


「おおい、真っ暗になっちまったぞ!」

「発電機が破裂したような音がしたぞ」

「代わりの灯り用意しろよ!」


 チャルナコシカの麻薬製造工場は、昼間奴隷や街の下層階級の市民を低賃金で働かせて、夜は幹部と構成員で出荷の準備を行う。そして今日は久々の大口取り引きで幹部と首領が全員揃っているーー

 公認会計士から聞き出した情報が、突入班メンバーの脳裏をかすめる。つまり『情にほだされるな、ここにいる者たちは全てアムセルンドに巣食う悪党だ』と自分に言い聞かせ、ためらわずに銃の引き鉄を引く覚悟を固めていたのだ。


 工場内に入ると、入り口側はトラックもUターン出来るほどの広々とした倉庫。その奥は縦に伸びる二本の通路の左右に、小部屋がズラリと並び、その部屋ごとに麻薬が精製されている。


 タタン! タタン!

(ルーム、クリア)

 突入班は倉庫で暗闇に迷っていた構成員二人を制圧。荷を積んだトラックと黒塗りの車の脇を抜けて、そのまま奥に続く通路へと入る。

 この倉庫での四発の銃声、この音がチャルナコシカの構成員たちを怖れさせる。発電機が故障して真っ暗になった世界で、誰が誰を撃っているのか分からない銃声が近付いてくれば、心臓が縮み上がってもおかしくはない。


「誰だ、誰が撃ってる!」

「敵襲かも知れない!親分を守れ!」

「バカヤロウ、俺だ!撃つんじゃねえ!」


 ……恐慌、パニック……

 突入班はまだ制圧を始めたばかりだと言うのに、工場内は怒号や悲鳴で溢れ返り、まるで見当違いの方向から銃声すら聞こえて来た。みっともないとは言わないが、共倒れも始まっていたのだ。


 騒然とする屋内を着実に進んで行く突入班。

 先頭のバイパーは膝を曲げ、背中を丸めて、スラリとした長身を極限まで低くし、縮めた両手で自動拳銃を構えている。

 背後に位置取るシルバーフォックスは、左手をバイパーの右肩に乗せて行動を同期。進行方向左側をバイパーにクリアリング(制圧)させながら、自分は右側をクリアリングしている。

 最後尾のグリズリーはシルバーフォックスの背中に左手を添えて、前進方向と背後を何度も何度も繰り返して確認しながら進み、自動短機関銃を右脇で抱えている。


 突入する部屋、通路に躍り出て来た敵に対して、一切の躊躇なく発砲して排除し続ける突入班。銃のマズルフラッシュ(発砲時に銃口から噴き出す火炎)で時折り暗闇から浮かび上がる三人は、一糸乱れぬ一つの巨大な意志となって進んで行く。


 だが、ここでチャルナコシカ側に変化が現れた。

 突入班が一本目の通路の半分を過ぎたあたりで、今来た入り口側倉庫が『ぽわっ』と明るくなったのだ。


 もちろん、発電機はグリズリーが破壊した、簡単には復旧出来ないように配線取り付け部分を爆破した。

 電気が利用出来ないならば、松明に火を付けたのか、それとも携帯用のオイルランプに点火したか……

 グリズリーに背中をトントンと叩かれ、司令塔役のシルバーフォックスが振り向いてその光景を見た途端、驚くべき判断を下した。


 ──あれはマジックライトの明かり、組織の構成員の中に魔法使いがいる。魔法使いによる現状回復、それが終われば次の段階には魔法攻撃が来る。これは厄介だ──

 バイパーの肩に添えていた手に力を入れて彼を静止させる。そしてシルバーフォックスはグリズリーに向かってハンドサインを繰り出し、無言のメッセージを送ったのだ。


・人差し指でグリズリーを指し示す

「お前が」

・指でVサインを作り、自分の両眼を指し示す

「確認しろ」

・右手で手刀を作り、何度も明るい方向をチョップする

「あの方向を」

・五本の指をこれでもかと開き、パーとグーを忙しく繰り返す

「魔法使い」

・再び手刀を作り、今度は自分の喉元に向けて振る

「殺せ」

 この一連のハンドサインでシルバーフォックスはこう指示を出したのだーー魔法使いの居場所を確認し、最優先で制圧しろ と


 工場内が明るさを取り戻せば、パニックも沈静化してしまい、突入班の我々もたやすく狙われてしまう。

 それに、明かりに誘導され逃げ出す者の量が増えれば、入り口を狙うスナイパー班の負担も増大する。

 不確定要素を早めに処理出来なければ、味方側に危険が及ぶし、ミスが発生する可能性も出て来る。


 ハンドサインを見たグリズリーは司令塔のメッセージを完璧に理解した上で一度うなずき、今来た通路を戻って行く。


 作戦遂行能力もさる事ながら、突然起きる予想外のトラブルにもアドリブで対応出来るようになった突入班。

 彼らは単なる突入班と言うだけでなく、非正規戦特殊部隊の兵士として間違い無く強くなっており、さらにこれからも強くなって行くのであった。



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