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10 居酒屋 『バール・ドランメン』


 首都バルトサーリに本格的な夏が来た。

 四方八方が山に囲まれた高地バルトサーリでは、一年を通じて一番活動的で生命力溢れる時期へと入ったのだ。

 手に届きそうな金色の太陽は街の人々の活発的な笑顔を照らし、街の周囲に広がる雄大な草原は、南の山々から吹き下ろす暖かで穏やかな風に揺れる。まるでそれは海原に揺れる波のような絶景である。

 穏やかな気候に包まれ、パノラマのような景観を見る者の記憶に刻むこのバルトサーリで、オレル・ダールベックもいよいよ本格的な活動を始めていた。


 チーム1の三人は鬼教官であるマスターチーフの努力もあり、完全に仕上がった。

 屋内突入チームの先頭を行く、ハンネス・ベイロン一等兵は近接格闘射撃銃……いわゆるコンバット・シューティングを会得した上に、元々得意であったナイフ格闘術にも磨きをかけ、銃を撃ち切って弾丸再装填の作業中に敵が襲って来ても、すかさずナイフを抜いて応戦出来るまでに成長した。

 セカンドアタッカーのベルテ・エーケダール二等軍曹は、近接格闘は苦手と自覚したのか銃の扱いと「勘の鋭さ」に磨きをかけ、チーム内で誰よりも早く鼻が効く存在となり、前後の仲間に指示を送る司令塔となった。また、回転式拳銃から自動装填式拳銃に装備が変わった事で、二丁拳銃使い「アキンボ」へと進化しており、チーム潜入時にトラブルが起きた際の火力制圧の重要なキーパーソンへと昇華した。

 チーム三番手、ライフルマンのトシュテン・ヨハンセン少尉は、基本装備の自動短機関銃の扱いを完璧にマスターし、いざと言う時の弾幕要員としての地位を確立させた。そして背後とクリア後の室内にも気を配る慎重さが功を奏し、仲間が安心して前進出来る"しんがり”としての地位を確立したのだ。


 短期間で具体的な作戦に投入出来る形となったチーム1、荒事(あらごと)処理の専門チームが出来上がれば、彼らが活躍する舞台を用意するのは、指揮官であるオレルの役目。

 アムセルンド公国に仇為す存在や公国に巣食う悪をことごとく排除するため、彼は化石燃料車に乗り込み、とある目的地に向かって首都バルトサーリの街中を疾走している。


 少し開けた窓から入って来るのは、湿気をほとんど感じない高地特有のカラッとした風。真夏の太陽に照らされた熱さを感じる風ではあるが、車内に籠る熱気と比べれば遥か心地良く涼しい。

 オレルは迷う事無く左右の窓を全開にして、黒い髪をバサバサとはためかせながら運転していた。


「……そうか、迂闊(うかつ)だったな。彼らの名前を考えていなかった」


 ポツリと呟いた彼の言葉、そこには重要な意味が含まれている。諜報活動や非正規戦を行う者たちにとって、本名で活動を行うほど危険な事は無いのだ。

 本名で呼び合っているところを敵に見られてしまえば、そこから調べられて素性と所属する組織がバレてしまう可能性がある事。そして普段から仲間同士が偽名で呼び合っていないと、いざ捕虜になった時や拉致されて拷問を受けた際に、仲間の本名をバラしてしまう可能性もあるのだ。


「偽名、またはコードネーム。とにもかくにも、これは急いで各自に命名して、徹底させる必要がある」


 ──アルファ、ブラボー、チャーリー……フォネティックコードに数字を足して名乗らせるか。エコー・ワンやジュリエット・スリーのように。いやダメだ、転生経験者など聞く者によっては、いかにも軍事作戦の兵士だと悟られてしまう。完璧な偽名を作るか、それともニックネームか


 これがオレルの性分なのか、運転しながらいつまでもブツブツと呟き続ける。

 だが、街中も商店街を抜けて飲食店街にたどり着いた頃、オレルはとある店の前に車を寄せて停車した。

 まだネーミングについての結論は出ていないものの、目的地はここだとばかりに勢い良く車から降り、店の中へと入って行く。

 店の名前は『バール・ドランメン』、肉料理をメインとした居酒屋である。


 時間はまだ太陽が西に傾き始めた昼下がりの午後で、もちろん居酒屋は閉店している。何故オレルが昼間からこの居酒屋に入って行ったのか、それには理由があった。

 この居酒屋には認められた者しか入れない隠し通路が存在し、その通路から地下行きの階段を下り切った先にある隠し部屋こそが、オレルやごく限られた人々が向かう目的地であったのだ。


 その目的地こそ『異世界転生人ギルド』

 この世界ではないどこかの世界で誕生し、そして死を持って肉体から離れた魂が、何故だかこの世界に迷い込んで来てしまった者たちの寄り合い所。

 特異な前世の記憶を持つ者たちの集会所であったのだ。


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