01 プロローグ 記憶
大人になればなるほど、歳をとればとるほど、自分のダメな部分を変えるのは難しくなる。
否が応でも自覚してしまう、自分のダメな部分と言うのは、才能や価値観のような自分自身の独自スペックの事ではなく、主に他者とのコミュニケーションの結果によってもたらされる、己への嫌悪感が原因となる。
ダメだなと認識するその大抵が、他者とのコミュニケーションによるトラブルだ。つまり自己嫌悪を起点として自分をダメなヤツだと結論に導くのである──いつまでも記憶の底にこびりつく、嫌な思い出として
いちいち皮肉を言うクセがあるんだね
斜に構えてるのか、本心隠してるよね
あの一言、余計だったんじゃね?
もっと言葉をオブラートで包んだ方が
多彩な文言を使って嫌味な性格直した方が良いよと指摘されても、まだ若いうちならやり直せる。自分は一人前だと威勢良く胸を張る反面、未熟なのも痛いほど自覚しているから。
だがしかし、ある程度の年齢になってしまうと自分の未熟さを忘れてしまい、一人前だと言う自負が独り歩きを始める。──こうなっては手遅れ。第三者の忠告にたとえ耳を貸したとしても、それを受け入れて真摯に改善などする訳が無い。
かくして、歳をとればとるほどに思考は固まり、忠告してくれる友の数も減る。良くも悪くも“大人”が出来上がるのである。
嗚呼振り向けば、麗しの綺麗な思い出は忘却の彼方に。そして脳裏にこびりつくのは忘れてしまいたい嫌な思い出ばかり。
……前世の記憶など無い方が良かったな……
大陸有数の巨大軍事国家『アムセルンド公国』の首都バルトサーリでの夜
ほろ酔いとなったオレル・ダールベックは帰路にふと立ち止まり、輝く二つの三日月を見上げながらそう呟いた。