素早さ超極振りと初PVP
「二日目スタート! がんばるよー!」
「「おー!」」
ゲーム二日目を迎えた奈乃香達はそう掛け声を上げる。始まりの森から少し離れた場所ということで、あまり人気はなく、その声は周りに大きく響き渡る。
ロックは歩きながら地図を見て心配になったのか。
「で、たしか虹ノ竜洞窟はこっちだったよね?」
「心配し過ぎだよロック。この幸運値極振りの私がいるんだから大丈夫だよ」
そう言ってカエデは自慢げに胸を張る。
しかしロックとツバキは日頃のカエデをよく知っているので少し不安な顔になる。
「まあ、今のカエデは向こうとは違って悪運は強くないはずだしね」
「そうだよね!」
しかしこのゲームの中だけでは幸運値だけは高いということは事実なので二人はそう言って安心しようとする。
「私の凄さわかってくれた? わかってくれたなら行くよ!」
カエデはロックたちの納得の声を聴くとそう言って走る。
「ほら行くよって痛だっ!」
カエデの足元に木の根っこがなかったならの話だが。
カエデは足元にあった木の根っこにつまずき、盛大にすっころぶ。周りに少量の砂埃が舞う。
「だ、大丈夫?」
「け、けがはない?」
そのいきなりの出来事にロックたちは慌てながら近寄ってくる。
「一応、大丈夫・・・・・・ってあれ?」
怪我がないかゆっくりと立ち上がりながら確認していたカエデがいきなり声を上げる。
その視線の先には握られた拳があり、その拳の中には。
「なんだろこれ? 指輪?」
紺青色をした宝石が埋め込まれていた指輪があった。
その宝石は神秘的に内部から輝いており、握っているだけでどこからか力がわいてきそうな姿をしていた。
「えっと・・・・・・航海ノ守護結晶だって。レアリティーは・・・・・・」
「「レアリティーは・・・・・・?」」
ロックとツバキは次の言葉を待ち、思わずゴクリと唾をのむ。
「なんと・・・・・・」
「「なんと・・・・・・?」」
「最高ランクの究極レアでした!」
「「ふえぇ!?」」
究極レアという、めったにお目にかかれないアイテムだということを知り、思わず二人の口から辺鄙な声が漏れる。多分後で二人はどこからこんな声が出たのだろうと一晩かけて悩みこむことだろう。そしてその最高ランクのアイテムを手に入れた本人は。
「やっほい!」
変な声を上げているロックとツバキには目にもくれず、そう喜びながら跳ね回っていた。
と、その時。
「おいそこの嬢ちゃんたち。痛い目にあいたくなかったらそれをよこしな。」
森の陰から、ひげを無造作にはやした中年の男が山賊定番のセリフを言いながら出てきたのだ。その男は、曲刀をクイクイッと挑発するように動かしている。しかし、山賊がどんなことをするのか、そもそも目の前の男達はただの不審者ではなく、山賊であるということも知らないのだ。なのでそのセリフを聞いた三人は。
「誰この人? ちょっとやばくない?」
「嬢ちゃんってキモッ。ロリコンかよ」
「さすがにこれは色々と終わってるね」
そうきつい言葉をその山賊に向かって言い放つ。もちろんのことその山賊はそこ言葉が頭に来たのか、激怒しながら。
「渡す気がないなら、力ずくで奪ってやる!」
そう叫び、曲刀を振りかぶりながらロックたちの方に走っていく。
その走っていく先には。
「えっ・・・・・・はっ?いきなり?」
いきなり切りかかろうとする山賊を前にロックは少し戸惑う・・・・・・が。
「死ねっ!」
山賊がロックに剣を振り下ろした瞬間。
「・・・・・・【加速】ッ!」
「なっ・・・・・・」
ロックは【加速】を使い、瞬間的にその場から立ち退く。素早さ極振りなだけあってそのスピードは速く、山賊が剣を振り切った時にはすでにその山賊の背後に回り込んでいた。山賊は『ロックを切る』ということに集中し過ぎていたため、『ロックが消えた』と思い込み、戸惑っている。ロックはそのまま。
「はああああっ!」
山賊のうなじに事前に構えていた双剣を両方から振る。AGIが低かったためダメージは少なかったが素早さ極振りの影響で低レベルのプレイヤーでは考えられないスピードを出した双剣とぶつかった衝撃で山賊の体がツバキの方に吹っ飛ぶ。
「ッ・・・・・・! くそが!」
衝撃によるダメージをこらえながら、ゆっくりと立ち上がった山賊はそう叫ぶとロックにはかなわないと思ったのか標的をツバキに変え、切りかかる。
「うん?えっ・・・・・・私?」
ツバキはいきなりの出来事に戸惑うが、すぐに状況を判断し盾を・・・・・・構えなかった。
山賊はそれを諦めととったのかにやりと笑いながら。
「そうか、あきらめたか! 痛くしないからな!」
そう言って首元を切り裂く。切り裂かれたところから紫色の発行体へと変化していき、しばらくするとツバキの体はすべて発行体となり、空へと昇って行った。
「えっ・・・・・・どゆこと?」
「効かないよー!」
もしツバキが防御力に極振りしていなかったらそうなっていただろう。しかし実際のツバキは防御力に極振りしており、山賊の攻撃程度ではダメージが通らないのだ。山賊の持っていた剣は首元に当たった瞬間、まるで鋼鉄に当たったかのようにキンッと金属らしい高い音を軽く響かせる。
「えっ・・・・・・は? 嘘でしょ? なんで効かないの?」
山賊はその出来事が意外過ぎて信じられなかったのか、何度も切りかかる、が。もちろん効くわけもなくぶつかるたびにキンッと高い音を立てていく。しばらくするとツバキの視界に。
『スキル【復讐】【吸収】を習得しました』
という表示がアナウンスとともに出てくる。
ツバキは山賊の攻撃を受け止めながら。
「ねえ皆?なんかスキル習得したんだけど?」
「どんなスキル?」
「えっとね・・・・・・」
そう言ってツバキはスキルの説明を読む。
【復讐】 相手の攻撃を受けた時その威力の(1.5倍)のダメージを相手に与える。
『習得条件』 相手の攻撃をノーダメージで何度も受け止め、イライラ・うんざりしてきたとき。
【吸収】 相手の攻撃を受けた時その威力の十パーセントを吸収し回復する。そしてその回復した分だけ相手にダメージを与える。一日に三十回使える。
『習得条件』 五分間の間、相手のダメージをノーダメージ・ノーノックバックで何度も受け止めること。
「だって!」
読み終えたツバキはそう言って二人に呼びかける。
その時山賊は。
「くそっ!くそっ!くそっ!なんで効かねんだ?」
自分の体力がどんどん減っていることには気づかず、何度も切りかかっていた。そしてそれを受け止めるツバキの顔はどんどん艶が良くなり、明るくなっていく。
その惨状を見ていたロックは。
「一思いにやっちゃったら?」
とツバキに提案する。
ツバキはその提案を受け止め。
「くらえ! しーるどぷれす!」
そう言いながら持っていた大盾を下にし、体重をかけて山賊にのしかかる。
「ぐへえぇ・・・・・・」
大盾につぶされた山賊はそう断末魔を上げながら、紫色の発行体となって空にのぼって消えていく。
ロックたちはそれをただただ静かに見続けていた。