素早さ超極振りと謎の魔獣
つい最近追加された第三層にて。
周りには何もなくだだっ広いだけの平原の中を高レベルのプレイヤーが集まるギルド【疾風ノ帝国】のメンバーのうち四人がとあるクエストを達成するために歩いていた。その中の一人は【神風】の二つ名がつくギルドマスターのカザミである。
「カザミさん? ホントにこの辺なんすかね?」
「クエストの内容のなかに書いてある【霧ノ平原】はここだから間違ってないと思うよ?」
大剣使いのミュウは辺りを見回しながらカザミに軽い口調でそう訪ねる。するとミュウの隣にいた銀髪と黒髪の双子のメイとライは。
「カザミさんが間違える訳ないでしょ!」
「そうそう!」
「僕だって人間なんだから間違えることはあるんだからね」
そう断言する二人にカザミは苦笑いしながらそう突っ込む。
するとミュウは『おかしいなー』といわんばかりに首をかしげ、不思議そうに。
「一層のボスを一人でノーダメージで倒した時点で人じゃないと思うんですが」
「ゲームだからね・・・・・・現実はただの凡人だから・・・・・・」
カザミは人間であることを再度伝えると、髪の毛をくるくるさせる。
そんなやり取りをしていると。
「カザミさん。あれなんなんすかね?」
ミュウはそう遠くの方に指を指す。
その言葉を聞いたカザミは。
「どれだい?」
そう言葉を返す。
---次の瞬間。
「ッ!」
「うおっ!」
「「キャッ!」」
突然指を指していた地点から濃霧が生まれ、そのまま爆発したかのように勢いよく辺りに広がる。その影響で辺りには砂埃が舞い、立つことすら困難になる。
「なんなんだ?」
「なんなんすか今の?!」
「「びっくりしたー!」」
三人は風がやむと辺りを見回し、状況を確認しようとするが。
「カザミさん! 濃霧で数メートル先も見えないっす!」
「マップは!?」
「「ダメです!何故か使用不可になってます!」」
マップは使用不可で、しかも濃霧の影響で数メートル先も見えないときたのだ。
「転移石も使えません!」
そうミュウが大声で伝えようとしたときだった。
突然轟音とともに濃霧の中から純白の光線がミュウの方向に猛スピードで襲いかかる。
「ッ!」
ミュウは避けようとしたが、それをあざ笑うかのように光線によって消し飛ばされる。
「メイ、ライ!さがってて!」
カザミはそういって二人を後ろにさがらせると、【神風】の二つ名がついた由来のスキルを発動する。
「【神風・暴風】ッ!」
そういって持っていた杖を光線の飛んできた方向に振る。
するとその瞬間、強烈な暴風が杖の先が向いている方だけで吹き荒れる。その風は濃霧を巻き込み、自分たちの前にあった霧をすべて吹き払う。
「原因はあのモンスターか?」
カザミはそういって一点を見つめる。その先には先程の光線と同じ色をした鹿が一頭いた。カザミはミュウの敵をとるべく。
「メイ、ライ!あの鹿に攻撃して!一撃で決める気で!」
ふたりにそう指示する。
すると二人は持っていた大剣やハンマーを振りかぶると。
「「スキル【無限射程】【攻撃飛翔物化】ッ!」」
二人とも、同じスキルを発動させると。
「【断罪ノ大剣】!」
「【断罪ノ大槌】!」
自らが持つ最大威力の攻撃を発動する。それらの攻撃は【無限射程】【攻撃飛翔物化】のスキルのおかげで、元の威力を保ったまま鹿の方向に一直線に向かっていく。そして。
「【神風・断罪ノ太刀】!」
カザミ自身もスキルを発動させ、大きな風の刃を鹿の方に放つが。
「!?」
「「消えた!?」」
三人の攻撃がぶつかった瞬間、その鹿は煙のようにフッと消える。それと同事に後ろの方から払ったはずの霧がこちらの方へと向かってくる。カザミは寒気を感じ、後ろを向く。そこには。
「成程。だから霧の主とも呼ばれているのか」
遠くにいたはずの鹿がすぐそこに居た。その鹿は異常なほどに大きく、背丈は五十メートル以上あった。
「「わわわわわわ!」」
それを見た双子はあまりの威圧感に慌てふためいていた。
しかし鹿はそんなことは気にせず、鳴き声を上げる。
それが三人がギルドホームに飛ばされる前に聞いた最後の音だった。




