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空母 双龍 東へ  作者: 銀河乞食分隊
燃えるミッドウェー
3/62

双龍 公試運転から部隊配備

おっとー。事案発生。


8/4 一部修正 行間を空けました

 さして問題も無く、いよいよ巡航タービンだけでは無く高速タービンも全開で運転させての速度試験である。

 弾火薬庫には重しを入れバラストタンクに注水して排水量を公試相当としている。


 公試運転中はこれと全速航行での舵一杯が一番の華だな。

 一応32ノットは出るとは思うがどうかな。

 

 驚きの33.5ノット。まあ各部点検として事前にドック入りして蛎殻を落としているし、一番良い状態だよね。


 公試運転で各部全力動作させてみて、いろいろあった。いやでない方がおかしい。問題が出るのが当たり前なのである。


 機関は全力運転で前進全速からの後進全速とか1軸全開あと停止とかいろいろやったが問題なし。快調との評価。


 問題は舵で出た。平行舵では無く、副舵と主舵の前後舵を採用した。水槽試験でも良好という判定。

 

 問題は、片側を固定した状態で、主舵のみで操舵した場合は反応が多少鈍く半径が大きくなるものの操舵可能。


 副舵のみの場合、反応が鈍く旋回半径がかなり大きくなることが確認された。まあ副舵は主舵の3分の1の面積しか無い。それに副舵の位置はスクリューの前である。予想されたことであった。


 後進時副舵のみでは操舵がかなり難しいとされた。


 艦長は艤装員長であり、航海長も艤装員であり知っていたので問題にはしなかった。


 問題にしたのは、なぜか乗り込んできた偉いさんである。


 まだ艦隊配備前だよ、乗り込んでくるなよと心の中で意見した。艦長もやりにくそうであった。


 前後舵を同時に操舵した場合は、旋回半径は軽巡並みと評価された。


 ただ、公試状態では下も重く傾きもそれほどでは無いが、バラストを減らして燃料3割弾薬3割の状態にしてみたら、けっこう傾いた。

 なので航空機搭載時で下が軽い時は、出来れば舵一杯はしない方が良いと言うことになった。


 直進時の安定性は高く波の荒い外洋でもピッチング・ローリング・ヨーイングとも極小であり、船体の据わりの良さは海軍トップクラスとされた。スタビライザーの効果かな。うれしいね。頑張った甲斐があった。


 公試運転が終わり、工廠から艦隊へ正式に引き渡された。俺の出番は終わりである。




 俺の出番は終わったと思っていたのは俺だけだった。呼ばれた。戦隊旗艦だし、戦隊司令部様が乗艦されている。軽口はたたけんな、注意しよう。


「設計部員、久しぶりだな。元気か」


「ありがとうございます。艦長」


(設計部員、戦隊司令部は司令以下、鳳翔を廃艦にされた司令部がほぼ横滑りできている。新造艦はうれしそうだが同時に恨みもあるらしい。注意しろ)


(ありがとうございます。艦長、気をつけます)


「航海、艦長室にいる。あと頼む。設計部員、飛行長」


「はっ」



「さて、設計部員、飛行長、二人に来てもらったのは、カタパルトの意見交換をしてもらうためだ」


「カタパルトですか。カタパルトでしたら呉の潜水艦実験部のカタパルト部門の方が専門家がいますが」


「うん、だから設計部員の方から話を通して欲しい。君たちで本艦に装備したのでな」


「そういうことであれば」


「では、飛行長」


「はい、実は聞いているかもしれませんが、戦隊司令部の作戦参謀が九六式をカタパルト発進させました」


「は?」


「九六式です。艦戦・艦攻・艦爆いずれも強度不足でカタパルト使用許可は出ていません。機体自体滑走具を取り付ける金具もありませんし。適合する滑走具もありません」


「ではなぜ」


「本艦が就役する際に戦隊司令部が第二航空戦隊から横滑りしてきました。どういう経緯かは知りませんし、知りたくもありません。どうせろくでもないものでしょう。そのときに廃艦になった鳳翔と龍驤の搭乗員や整備員・甲板員他を連れてきました。その連中が九六艦爆を改造してカタパルト発艦できるようにしました。作戦参謀の命令だったようです」


「それで」


「当日は十試艦攻の量産試作機でカタパルトを使った訓練をしていました。中島の技術者や搭乗員とカタパルト担当の要員や工廠の人間と意見を交わしていたところで急に呼ばれ、私と艦長が見た時にはすでにカタパルトがセットされ発進寸前で止める間も有りませんでした。カタパルトが作動したのですが10メートルほどで機体が破損、それを見て要員が緊急停止させたのですが機体は全損、搭乗員は全治1ヶ月の重傷、飛行甲板は傷だらけカタパルトにも傷が付きました。幸い搭乗していたのは操縦員だけでした。操縦員は不安だったので偵察員は乗せなかったと言っています。それが3日前です。2日前に緊急帰港しまして、操縦員は横須賀の海軍病院に入院しました。ほんと火災にならなくて良かったです。運が良かった。操縦員が機体が破損したのを感じて発動機を停止させたのも良かったのでしょう」


「それは幸いでした。原因を作った作戦参謀は」


「帰港後、艦隊司令部、横鎮、軍令部、海軍省と続けて呼び出されていますね。出世欲の強い人間でしたが、これで将来は無くなったでしょう」


「作戦参謀の独断だったのでしょうか」


「そう聞いています。何しろ陰では、陸式紐付きと呼ばれていたくらいですから」


「それはひどい。それでですね関係者の処分はどうなりますか」


「それは俺から言おう」


「艦長」


「いい。戦隊司令は、任を解かれると聞いた。将官だしな左遷先の船も無い。どこかの司令部付きになるか予備役編入を申し出るだろうという見方が多い。他の参謀は良くてどこかの守備隊の司令か格下の参謀または司令部付きだな。、悪ければ降等。こんな大型新鋭空母の戦隊司令部になれて張り切っていたのだが、張り切り方を間違えたな」


「現場の人間は、どうなりますか」


「現場に人間は、艦長に内緒で改造をしていた者達は、作戦参謀に無理強いされていたと言うことで、ひどい処罰は無いようだ。とくに操縦員は無理矢理だったと言うことで処分無し。またこの船に帰ってくる」


「それはいいことでしょうか。本官には判断できませんが。でも処分の内容にやけに詳しいのでは無いですか」


「何しろこんな事故だ。事故と言うよりも事件に近い。艦隊司令部・横鎮・軍令部・赤煉瓦と揃って飛んできた。期待の新鋭空母での重大案件だ。珍しくいろいろ早かったぞ」


「恨まれていると言うことでしたが、それで変なことしたのでしょうか」


「可能性はある。鳳翔や龍驤でのやり方で良い成績を上げて見返してやろうとしていたのかもしれない。なにしろあの船達だ、かなり工夫して運用していたようだ。それを考えると残念でもある。だがやってはいけないことをして、海軍に重大な損害を与えた。やった内容は、ミスによる単純な事故などでは無い。下手をすれば火災発生の上死亡者も出たかもしれない。それなりの責任を取らさねばならない」


「理解できたと思います」


「では、本題だ。その事故の後、カタパルトが作動不良になった。どうも構造的に弱い所があるのでは無いかと言うことだ。艦政本部や艦隊司令部にも上申するつもりだが、設計部員からも根回しをして欲しい。何しろ、やってはいけないと言われていたことをやって潰しました。物に問題があるのでは無いですか、等とは言えん」


「そう言うことであれば、いろいろ伝をたどってみます。他には問題ありませんか。エレベーターの具合とか、排気の後流とか」


「飛行長」


「無いです。エレベーターは使いやすいし昇降が早いという評判です。排気の後流も言うほど問題は無いです。機体の軽い艦戦で注意が必要なくらいです。艦戦はバルーン効果が出るくらいの機体なので天候によっては若干注意が必要です」


「バルーン効果?」


「地面と主翼の間の圧力が高くなりなかなか着陸できないことです。揚力が大きいというかまあそのようなものだと思ってください。すごいことであり、ある意味危険なことです」


「危険」


「そうです。地面の上の滑走路なら多少滑走距離が伸びた所で問題はありません。ですが空母の場合、狙った所ですね。着艦拘束ワイヤーの有る所です。そこに降りなければいけない。行き過ぎは事故になります。着艦の時、海面上ではバルーン効果の出るような高度ではありません。が、艦尾をかわった所で途端にそのバルーン効果の出る高さになったらどうします?降りるつもりが降りられないのですよ。これは機体の特性なのでどうしようもありません。慣れるしか無いです。改良もうまくいかないみたいです。次期艦戦に期待というところです」


「もう次期艦戦ですか」


「そうです。一二試艦戦です。実用化は一五年あたりでしょう。要求性能はかなり高いとの噂です」


「いいのですか。そのようなこと部外者に話しても」


「大丈夫ですよ。だいたいどこの国でも要求性能は高く出すものです。詳細を言わなければ大丈夫です」


「そうですか。艦長、他に何かありますでしょうか。無ければ艦政本部に戻りカタパルトの件進めたいと思います」


「うむ、他には無いな。ああ、そう言えば艤装の時に煙突の上にデッキを作っただろ。冬はいいが、冬以外は熱くて大変そうだ。駐機スペースとしては大変助かっている。甲板上での機体の運用がかなり楽になった。あれはいいアイデアだ」


「ありがとうございます。それでは失礼して、艦政本部に戻ります」


「うむ、よろしく頼む」

「はっ」


 退艦する時にいやに視線を感じる。気のせいか。顔見知りも多く気楽なのだが、ひょっとしたら鳳翔や龍驤の乗組員だった連中かもしれない。廃艦は俺が決めたのでは無い。そう言う流れになったのだ。勘弁してくれ。


 艦政本部に帰り、関係部署に電話を掛けまくり確認する。うーん、交換手のおねいさま、仕事なんだ大変だろうが我慢してくれ。今度入手できたら、間宮の羊羹を差し入れるから。



次回予告

舞台の歴史や、艦船の様子をお届け

次回も、サービス・サービス~

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