表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空母 双龍 東へ  作者: 銀河乞食分隊
燃えるミッドウェー
2/62

双龍の建造

建造です


8/4 一部修正 

「今日は船体構造について練ろうと思う」


「そうだな、艦橋とか艦橋とか煙突とか煙突とか」


「お前、大丈夫か?」


「昨日博打打ちの人に水交社に連れ込まれた。心配せずにどんどんやれと言われた」


「良かったな。仲間認定されたぞ」


「勘弁してくれ。あの人癖が強すぎる」


「癖の弱い将官がいるもんか。逆に言えば強いから将官になれるのだと思え。例えば譲らない人とか」


「勘弁して、本当」


「あのですね、藤本技官からこのようなものを預かってきました」


「なに!大尉、君、藤本さんと会ったのか」


「はい。体調を崩されているようでしたが、良い船を作れよとおっしゃっていました」


「そうか。大尉、作らなくてはな」


「はい」


「では早速預かってきたものを拝見しよう」


さすがにいろいろ参考になることが書いてあった。大変ありがたいと皆で思った。



「船形は艦政本部で研究中のものの中に良い物がありそうなので、参考にする」


「速度よりも安定性を重視し、発着艦が安全になるようにする」


「元良式フィンスタビライザーを装備し船体の動揺を軽減する」


「基本姿勢は、空母はあくまでも海上の飛行場であり、発着艦時の安定性を最優先とする」


「将来の拡張を考慮する。ギリギリの設計はしない」


「冗長性を持たせ、抗靭性を上げ、被弾時の被害極限に努める」


「船体の上に格納庫を載せる形か、格納庫まで強度甲板に含めた船体構造とするか」


数日後


「煙突と艦橋だが、艦隊や軍令部になんとか了解を取ってきたよ」


「では、片側に寄せるという事だな」


「うむ。格納庫が使いにくくなるし搭載機数も減りそうと言ったらOKが出た。文書にもした。撤回はさせん」


「よくやった。褒めて使わす」


「うるせい。疲れたんだぞ。水交社でおごれ」


「まあ、またの機会にな」


「信じてるよ。同期」


「ちっ。まあいいや。では、艦橋は船体外側へ張り出すと言うことで飛行甲板の使いやすさを優先とする。

煙突は重心上昇を避けるため飛行甲板より下とする。荒天時や大傾斜時の海水逆流や排気困難については形状を研究しそれを許さない。また、片舷外側上部への重量物集中に対しては、反対舷と水線下の重量を増すことで対処したい。皆、宜しいか?」


「艦橋は、下から飛行関連の1層、航海関連の2層、3層が戦闘艦橋の3層とする。トップには、測距儀と射撃指揮装置が一体化した高射装置を設置する。見張所とか信号関連に探照灯他、設置だ」


「当然拡張性は持たせるのだろうな。今は文句が少ないが、作り出せばかなりくるぞ」


「当然だ。しかし、高雄級にはさせん。最上級で過不足無いと聞いている。こっちは主砲も魚雷も無いんだ。これで十分だろう。ただ、司令部施設は考慮する」


「艦橋の防御はどうする?最上級相当か?」


「それだと重くなるからな。垂直防御は機銃掃射の機銃弾くらいははじける程度で済ます。水平は、天井を少し厚くしてお茶を濁す。艦橋を重防御にすると、他で1000トン単位で重量を増やさなければいけなくなる。この先、さらに装備が増えて重量が増す。もう2万トン近くなっている。それは避けたい」


「進捗状況の確認をしたい」


図面

 皆の苦労の甲斐があり、基本となる図面は八割程度は引けた。

鋼材

 鋼材の手配 溶接に適合した鋼材を製造できるよう一部製鉄所の設備更新。現在試験生産中。

 装甲板については、NVNC鋼板を使用。呉海軍工廠で製造予定。

船渠

 呉海軍工廠、横須賀海軍工廠で建造予定。船渠は予約済み。

機関 

 罐・主機共発注済み。8罐4基4軸で十五万馬力発生予定。

工廠作業員

 呉・横須賀とも電気溶接の実地訓練に入っている。現在、駆潜艇程度の船体を技術指導を受けながら建造中。


「では、船渠が先日空いて、いつでも建造に入ることが出来るという連絡を受けた。始めよう」


「では、今日は皆で水交社に行くか」


「そう言えばまだ奢られていないな。皆、今日はこいつの奢りだそうだ。喜べ」


大歓声である。


「え?あの?ちょっと、おい~。畜生、みんな聞いちゃいない。財布がつらいぜ」



 呉・横須賀とも順調とは言いがたいものの概ね予定に沿って進んでいる。


 順調とは言いがたいとは、電気溶接である。厳しい実地訓練を受けたはずだが、いざとなると決まりを守らないものが続出。


 鋼材の寸法を整える時に溶断は厳禁。必ずカッターを使用すること。だが、溶断してしまう。

等、他にも問題は出たが徐々に減っていた。


「設計部員には、工廠に来てもらい忙しい所申し訳ない」


「いえ、問題が有れば呼んでください」


「問題は、煙突の図面がまだ来ないが、どうしている?」


「最終形状を詰めている所ですので、しばらくお待ちいただければお渡しできます」


「それいつ?」


「鋭意設計中であります」


「なあ、わかっているだろうが、煙突の図面が無いと格納庫が前と後ろだけ出来ていて真ん中が無いんだがな。見えるだろ」


「はい」


そこには1層めの格納庫が側面中央部だけ無い状態の船体があった。煙路は出来ているので煙突の図面さえあれば、すぐに掛かることが出来るだろう。


「格納庫も船体の一部として強度甲板にするというのであれば、早く埋めないと船体にひずみが出てまずいぞ。それとだな、何か一部異常に強度を持たせてあるが、どんな意味があるんだ?」


「重々承知しております。近日中に必ずお持ちします。強度に関しましては、将来余地と言うことで納得していただければと思います」


「うむ、将来余地か?違うような気がするが、まあいい。図面の事頼むぞ。中佐」


「いえ、中佐などと言われますが野戦任官のようなものでこの船の建造中は少佐では具合が悪かろうという事で臨時昇進です。竣工すれば少佐に戻すと言われております」


「ふむ。では、良い船に仕上げて戻されないようにするように」


「ありがとうございます」



「おい、呉はどうだった?」


「煙突の図面が遅いと言われたよ」


「横須賀も同じだ。このままだと、中佐から戻されるなと」


「それは避けたい。図面は出来上がりつつある。煙路に近い部分から納めるしか無いだろう」


「そうだな。そしてまた言われるんだ。全部じゃ無いのかと」


 実は煙突の形状自体は決まっていた。格納庫の下を這う煙路から船体側面で一度上に向けてから舷外に出して排気口を下に向けると。

 ここまでは良かった。そこからだった。

 航空本部とか横空とかから、できるだけ舷側から遠くで出すのが機関排気による気流の影響が少なくなるので望ましいとか、艦政本部内では、そんなに出したらバランスが取れなくなるし、大傾斜時や荒天時に排気のつまり・逆流や海水の浸入が有るぞと言われ、いかんせん経験と貫目の不足している設計陣は、胃が痛かったり、抜け毛が多くなった気がしたりしていた。


 結局、風洞実験や大型水槽を使った実験で舷側からの距離や下向き角度および排気口の高さが決まった。


 さすがに図面が渡されてからは早かった。


 順調に進水までいけるかと思ったが、問題が起こった。


 我々とは関係ない所の話ではあるが、海軍上層部の汚職が発覚。一部政治家・財閥・華族と陸軍も巻き込んでの一大疑獄事件に発展してしまった。

 その汚職に関わった人間が配置にあった部署はすべて査察対象となり、艦政本部や海軍工廠も例外では無かった。


 結局、将官・佐官若干名が予備役編入や軍籍剥奪の上軍刑務所で服役となった。

 主犯格は軍法会議で銃殺刑かと思われたが、容疑者の政治家や財閥・資本家との贈収賄関係も有り捜査上の必要性から軍籍剥奪の上で司法機関に身柄を送られた。

 

 これは自分もまずいかと思われたが、贈収賄には無関係、金銭授受も無い、と言うことで厳重注意ですんだ。自分がつかんだネタは、どこそこできれいなご婦人とが大半だったせいもある。皆頼むから黙ってろ。と言うので、ハイと返事をしただけだ。

 しかし、考課表に黒星付いたな。


 これにより、4ヶ月ほど行程に遅れが生じた。


 行程は最後まで遅れを取り戻すことは出来ずに水密試験・気密試験等一連の試験を終え軍艦マーチとともに進水した。


 船渠からの進水は華が無いな。進水って言うのは、船台から船がするする滑ってザザーと海に浮かぶのがいいんだ。船渠にはすでに水が入りタグボートで引き出されというのは見ていてつまらん。



やや遅れたものの、無事に進水し今は艤装岸壁に繋がれて艤装開始である。


「艤装員長、どうですかこの船は」


「うむ、建造中に見学はしたが思ったより大きいな。ほんとに1万6千トンか?」


「いえ、結局2万3千トンとなっています」


「条約は大丈夫なのか?」


「はい、実は鳳翔をこの艦が配備され次第廃艦にします。これは計画時からの方針でした」


「鳳翔をか。反対は無かったのか」


「有りましたが、海軍次官が押し切りました」


「今の次官か?諸元によると、1万6千トンか。いつ訂正する?」


「条約締結国と折衝中であり、終わり次第訂正します」


「そうか。それならいいんだ。この船は火龍だな。もう1隻が雷龍か。こいつは艦橋が右だが、雷龍は左だと言うがほんとか?」


「事実です。計画時にそう決められていました」


「大方信号のやりとりがしやすいとか間違えて着艦しないようにとか言うんだろう。違うか?」


「そうみたいです」


「ばかどもが」


「どこに耳があるかわかりませんよ」


「かまわん。ばかはばかだ」


「艦首はなんだ、どう言っていいのか、一体型とでも言うべきか。これはあれか?第4艦隊事件の教訓からか?」


「いえ、設計当初よりこの形状です。少しでも艦内容積を増やそうとしてです。もちろん波浪対策もありました」


「慧眼だな。係留作業が少しやりにくそうだが、慣れるしか無いだろう。ところで、設計部員は航空本部と付き合いがあるかな」


「有りませんが、なぜですか」


「こいつの航空艤装は96艦戦・96艦攻に合わせてあるか?」


「はい、計画時に竣工時に搭載予定の機体だそうです。」


「そうか。それにしてはエレベーターがずいぶん大きいし隅に寄っているがなぜだ」


「前部エレベータは、迅速な艦内への収容を目指しています。主翼を折りたたまずに収容出来ます。折りたたみは艦内で行います。これにより着艦時の混乱は少なくなるかと」


「うむ、良い考えだ。だが、格納庫の高さは大丈夫か?」


「1層2層とも計画中の十試艦攻が格納庫内で主翼を折りたたんでも問題ありません」


「ならいい。隅に寄っているのは?」


「隅に寄っているのは、艦橋と煙突との重量バランスを取るためです。艦橋の反対側に飛行甲板を広げましたので、どうせなら艦内に翼を広げたまま移動できれば収容時に迅速に収容が可能になるのでは無いかと考えました。あの飛行甲板の部分だけは舷側の外にはみ出していますので、格納庫部分で幅9メートルを確保しています。エレベーターで降りる間に主翼を折りたたむことが出来れば格納庫内はエレベーターの位置にかかわらず前後の通過が可能です。波浪や被弾に対しては、寸法的に余裕を持たせることで、外板が多少変形してもエレベーターの使用が可能なようにしてあります。装甲は重量的に無理でした」


「中央エレベーターはそんなに大きくないな」


「艦橋と煙突がありますから、あまり大きくは出来ません」


「後部エレベーターは、前部エレベーターと同じか」


「はい。のんびり準備できない事態もあろうかと考えまして、エレベーターで上がったら即発艦できたら良いかと」


「良い考えだ。搭載機数は、70機と補用機10機か。補用機の展開も迅速に出来そうだな」


「まだ実際にやっていないので、出来そうではありますし出来たら良いと思います」


「なんだ、自信を持て。この船はきっと良い船だ。俺も良い船に仕上げよう」


「ありがとうございます」


などと歩いているうちに艦橋へ。


「艦橋は、おっとなんだよ海の上か」


「これも飛行甲板の幅を確保するためです。加賀よりも広いですよ」


「広すぎないか。トップヘビーになってないだろうな」


「復元性の確保は優先しています。全溶接構造とすることで、鋼材重量にして2千トン程度鋲構造より軽く出来ました。その2千トンを舷側の防御力向上と、単純にデカくなりましたので重量は相殺に当てています。おそらく鋲構造では、2万3千から4千はいったのでは無いかと考えます」


「舷側の防御力向上とは?」


「装甲を集中防御では無く、全周防御にしました。と言ってもバイタルパート以外は装甲厚30mm程度ですが」


「やらないよりはという程度か。至近弾には有効そうだな」


「艦橋は1層が飛行関係で2層が航海、3層が戦闘艦橋です。幅は狭いかもしれませんが長さを取りました。砲雷戦などしないので十分と考えています。あと少しでも軽くしたいとの考えもあります。航海科の海図倉庫は艦橋内では無く艦内にあります」


「そうか。わからんでも無いが、この戦闘艦橋に艦長を始めとする要員と司令部要員が入るのか。2万トンの戦艦に準ずる大艦の艦橋では無く、軽巡同等の艦橋と考えれば良いか。砲雷戦はしないしな」


「ご理解いただけて良かったです」


「うん。さてだ、部内用の諸元があるのだろう。出してくれないか」


「こちらをどうぞ」


計画 公試状態 

基準排水量 2万1千トン 実際 2万3千トン 満載 2万5千トン

全長 220メートル

水線幅 24.5メートル

喫水 8メートル 

機関出力 15万2千馬力

速力 全速 33ノット

航続距離 18ノット 1万海里

飛行甲板

 長さ 220メートル

 幅  33.5メートル

エレベーター 3基 前部・後部16メートル×14メートル 中央12メートル×12メートル

着艦制動装置 呉式 最大着艦重量4トン

搭載機数 常用70機 補用10機 (96艦戦・96艦攻・96艦爆を想定)

搭載機用燃料弾薬 全力出撃時 爆弾5回分 魚雷40本 揮発油は20回分(96艦戦・96艦攻・96艦爆を想定)


砲熕兵装

 高角砲 12.7cm連装高角砲 6基 基本計画時の8基より上部重量軽減のため削減

 機銃  保式13mm(暫定、正式機銃は未だ審議中)

高射装置は高角砲2基1群とし1群宛て1基 高射装置は左右2基 艦橋側は艦橋トップに設置

高射装置は開発中につき未搭載 艦橋トップのものは現時点でダミー


主要部防御

 垂直防御 最上級巡洋艦に準ずる

 水平防御 高度3千メートルから五〇番の水平爆撃に耐えうる 五〇番は通常 基本計画より強化

 水雷防御 最上級巡洋艦に準ずる 船体幅の分強化されている


居住性

 金属製ベッドを全員分


等など


「ふむ。大方わかったような気がする。気になる点がいくつか刈るが良いか?」


「はい。できる限りお答えします」


「満載がかなり増えるがこれは?」


「長期間の作戦行動に備えて、清水タンクや重油タンクの他食料庫などを大きく取ってあります。あと、兵装などを全部搭載した想像上のものです」


「長期か。欧州か東かな」


「計画時に考慮することとなっていました」


「誰だ、そんなこと考えたのは。ああ、言わんでもいいぞ。だいたい想像は付く。公試でこれだと満載では速力は出ないな?」


「30ノット出れば良いかと思います。航続は3割程度増えます」


「では話題を変えよう。高射装置とか機銃とかはどうなっている?」


「高射装置も機銃も現状のものでは、航空機の高速化に対応できないと言うことで鋭意開発中とのことです。就役には間に合わせると言うことでしたが」


「対応できないとは?」


「現在の高射装置や高角砲は96艦攻や96艦爆には対応可能と言うことですが十試艦攻や時期艦爆の運動性能では対応は難しいものと考えられました。さらにその後の機体ともなれば、対応不可能と言うことも考えられました。演習で赤城の対空射撃の成績が悪いので、調べたら他の艦も同じようなものだったようです。大砲屋は訓練不足とか気合いが足りんとかほざいまていたようです。結局機材の性能を訓練と気合いで乗り越えられないと言うことで、新型を制作中です。機銃はホチキスの25mmが有力候補でしたが照準器や装弾数に問題や不満があり再選定中だそうです。最悪新規開発も考慮しているそうです。」


「戦艦や重巡の砲術連中が騒いでいたのはそれか。俺は前任が球磨だったからな。そんなご大層な装備は無かったぞ。それに俺は航海だからな。砲術は何騒いでいるんだくらいに思っていた」


「軽巡からですか?重巡では無く。あ、失礼しました」


「いや、かまわんぞ。重巡や戦艦などそのクラスの艦長候補達はな皆大砲屋か水雷屋だ。空母はやりたくないらしい」


「うわ。それでは雷龍の艤装員長も軽巡クラスの方達ですか」


「そう聞いている。しかも、鉄砲や水雷では無く航海からのようだ」


ずいぶん失礼なことを聞いてしまったと、焦る俺。


「かまわんと言っただろう。鳳翔や龍驤に赤城・加賀を見てぜひやりたいと思う人間は少ない」


「改装で普通になったと思いますが」


「それでも、二〇センチ砲をケースメートに残すとかおかしな事をしている。速度も遅いままだ。図体だけで搭載機数も少ない」


「それはあまり言わない方が」


「なに、皆同じ事を思っているさ。アレ作ったの誰だよと」


話題をそらさないと。


「本艦就役後には、赤城と加賀は改装に入る予定です。鳳翔は廃艦。龍驤は未定です」


「赤城と加賀はまたやるのか。まともな空母になると言うことか」


「そうです。そう聞いています」


「それなら良い。では大分それてしまったが、艤装の相談に入ろう。まず舷外通路がだだっ広いのは、機銃がどうなるかわからないせいか?」


「はい。開発中の高射装置も大きさ重量ともわかりませんので、一応高角砲相当の重量に耐えられるスポンソンは付けてあります。機銃部分も過剰かと思いますが7cm高角砲の重量に耐えうるものとしてあります」


「備えあれば憂いなしだな。その憂いがいつ解消されるかわからんが。あとは、ここから見える所ではアレだな。着艦制動装置だ。最大4トンか。将来的には大丈夫か?」


「4トンですからね。十試艦攻とかの重量を考えると不安です。ですが、大型化の余地は取ってありますので、航空機が大型高性能化しても制動装置を高性能化すれば問題ないものと考えます。艦内も将来余地とか現在では過剰と思われる容量の発電機や、各種配管をしてあります」


「そうか。考えてあるのだな。今日はこのくらいにしよう。どうだね、一杯やらないか?」


「お付き合いします」


その日は終わった。良い酒だった。



「おはようございます」


「おう、おはよう。本日は下から見ていくか。昨日所用で副官は来ていなかったが、今日はいるぞ」


「艤装員長の副官を務めます。よろしくお願いします」


「うん、よろしく大尉」


「こいつは航海長候補だ。頼むぞ」


「大尉ですよね。では艦隊配備時点で少佐に?」


「そうだ。だから空母をやりたがる奴は少ないと言っただろう」


「では、この船を最良の空母と呼ばれるようにして、見返してやりましょう」


「おう、その心意気だ」


「あと、後ろの機関科の方は?」


「機関長予定だな。そうだろ、少佐」


「そうです。最上級とほぼ同じ機関と言うことで、三隈からやってきました。よろしくお願いします。」


「よろしく、少佐」


「鉄砲はいませんか」


「今の状態で砲術に用があると?」


「有りませんね。人の手当も無しと」


4人で艦底部へと向かう。


「機関ですが、最上級を基本として船が大きくなった分補強してあります。一番変わったのが巡航タービンですね。船に合わせて強力にしてあります。他は発電機ですが、船自体多く使いますし将来の機器増設に対応できるようかなり強力にしてあります。非常用ディーゼル発電機も前後左右の4カ所とし、最大限電力が途切れないよう配慮しています。電路も余裕を持たせた上に複数配線として1カ所切れたら終わりと言うことが無いようにしています」


「要するに最後まで粘れると言うことだな」


「そのように設計したつもりです。電力が完全に落ちたら艦内真っ暗で移動も出来ませんから」


「罐が少し大きいようですが」


「蒸気を主機と発電機と水圧ポンプ以外にも使うことになりまして、その分大きくなっています」


「烹炊所で使う分はしれてますし、何に使うのでしょうか」


「発艦促進機です」


「???」


「カタパルトです」


「「「え?」」」


「カタパルトです」


「カタパルトは火薬式だし、装備されていませんよね。水上機は搭載しないみたいだし」


「呉の潜水艦実験部で圧搾空気でカタパルトを作動させる実験が行われていまして、一応小型の潜水艦搭載水上機くらいなら打ち出せると言うことです。ならば、もっと強力にすれば艦攻でもいけるだろうと言うことで現在実証試験中です」


「コンプレッサーの動力に蒸気を使うのですか?」


「いえ、これは軍機になりますのでご注意ください」


頷くしか有りませんね。


「コンプレッサーは使いません。高圧蒸気を使います。圧縮しなくても最初から高圧ですから」


「だが、使うとしたら飛行甲板先端でしょう。そこまでにかなり温度が下がり圧も落ちます。蒸気を戻す配管とかも大変だと」


「蒸気は罐に戻しません。使い捨てです。最初は循環も考えましたが、手間と配管を考えると使い捨ての方が始末が良いのではと言うことになり、結局機関に使う清水タンクを大型化してしまいました。計算上は全機発艦で30回分の水は航海用と別に確保してあります。温度と圧の低下については、機関室前方に高圧蒸気タンクを作り罐から来た蒸気を温度低下が無いように加熱して貯蔵します。まあ、変なボイラーがあると思ってくれれば良いです」


「飛行甲板前方になんかあると持ったらアレがカタパルトのレールか」


「はい、その通りです」


「だが、実際使えそうか?」


「だめなら、ふさいで従来どおり自力発艦です。20ノット出れば、十試艦攻でも発艦可能です」


「搭乗員は大変だな。毎回ドンか」


「あーアレですね。火薬式のドカンと行く奴。これは一応徐々に加速するようになっています。あれほどドンとこないはずです」


「うまくいけば良いがな」


「試験では良好と言うことです」


「ならいい。あと空母には不似合いな強力なポンプが設置されているがなぜだ?」


「加賀とほぼ同じ能力の注排水ポンプです。基数を増やすことで強力な排水能力があります。あと、水圧ポンプはエレベーターの上昇時の補助にも使っています。また火災時には強い消火力を期待できます」


「それでどうだ。具合は。第4艦隊の時、龍驤はひどかったらしいが」


「良好です。消火にはに水と炭酸ガス消火装置だけでは無く、泡消化液も使用します」


「泡消化液?」


「ガソリンに火が付いたら水を掛けると広がってしまいます。炭酸ガス消火装置では、火勢が衰えるのに時間が掛かります。石鹸液に炭酸ガスを混ぜて発泡させたものを使います。水では消えませんが、これなら消えます。また龍驤は完全に格納庫が閉鎖されていました。そのせいで余計消火に手間が掛かりました。これは報告書になっています」


「この船での対策はどうなっている」


「格納庫側面にシャッターをもうけ、荒天時以外は解放する予定です。こうすれば可燃性ガスも滞留すること無く排気されます。また、格納庫被弾時には、爆圧が開口部から抜けて被害が少なくなるという予想がされています。また、塗料は難燃性塗料を使用しています」


「少し臭いのは塗料のせいか」


「そのうちもう少しましなのが出来るという話なのですが、現時点では」


「まあ燃えるよりはいい」


「飛行甲板の防御はどうなっている」


「ありません」


「無い?」


「はい、この搭載機数で装甲を施すと船体が4万トン近くなるという試算が出ましたので、装甲は無しです」


「ではこの船体で装甲を施すと、搭載機数はどうなる?」


「おそらく10機前後かと」


「話にならんな。装甲が無いのはわかった。では水平装甲はどの層にある」


「下部格納庫の床としたかったのですが、それでも重心が上がりすぎてしまい普通の艦と同じレベルです」


等と話しつつ日課終了。本日も親睦という名の水交社。



 艤装が続く日々だが、ついに高射装置が完成したという連絡があり、設置にはいる。


「彼が、砲術長候補だからよろしくな」


「はい、よろしく」


「高射装置の詳細は彼に聞け。開発に関わっていたそうだ。俺は知らん」


「では説明します。今までの高射装置は、設計時の最新鋭攻撃機に対応するように設計されていました。ですのでせいぜい120ノットまでが追随できる限界でした。新型は、突入速度250ノットまでは十分対応可能となっています」


「250ノットまでは十分て、ずいぶん高性能になったもんだ。十試艦攻や十一試艦爆にも対応可能か。」


「はい、十一試艦爆の急降下にも対応できます。ただ、八九式12.7cm連装高角砲改二とのセットでですが」


「改二?」


「改二です。旋回・俯仰用電動機を強力なものにして目標追従性をあげています。また砲架と駐退機に尾栓周辺の改良で大仰角でも発射速度が落ちなくなりました。装薬を強装にして薬莢を小型化し弾体を軽くしています。これで長時間発射速度を維持できます」


「いいことずくめでは無いか」


「問題もあります。高射装置が大きさ重量とも増加、さらに操作要員が一名増加しました」


「それで重巡や戦艦の連中が騒いでいたのか」


「はい、高射装置はだいたい高い所にありますから」


「次の改修に期待という所だな」


「それも難しいかと。高射装置は月産2台です。火龍と雷龍で4ヶ月掛かりました。現状では全艦に行き渡るとは思えません」


「艦船本部に頑張ってもらうしか無いな。設計部員」


とばっちりがやってきた。


「ところで機銃はどうなった。砲術」


「機銃は、要求水準に届くものが無く暫定でホチキスの25mmを装備します。これはライセンスでは無く購入にします。弾も含めてです」


「要求水準てどういうものだ」


「口径は20~30m、銃架に乗せた状態で発射速度毎分200発以上、有効射程2000以上、有効社高1500以上、装弾数40発以上です」


「厳しくない」


「制式後何年も使うとなれば要求水準は高くなります」


「ごもっとも。しかし詳しいな」


「軍令部装備科で対空兵装担当でした。艦政本部には出向という形で高射装置の開発に関わっていました」


「なるほど。では現状、機銃はどうなっている」


「自主開発だそうです。銃自体は海外から持ってくるかもしれません。ベルト給弾化を試みるそうです」


「開発費は、あーアレか博打打ちの人か」


「・・・どこから出ているかは少し・・・」


「まあ気にするな。気にしたら負けだ。以前は機銃の開発などと言ったら、途端に潰されたそうだ」


「潰されたのですか」


「戦艦と艦隊がすべてな人たちが、そんな金はすべて戦艦に使うべきとか言って、出してくれなかったぞ」


「そう言えば、本官が軍令部から出向になってしばらくして急に部内が何か風通しが良くなったし資金が潤沢になった気がします」


「それは、アレだ。2年前にあったアレのせいだ。関わっていた連中は艦隊派の中でも強硬だった連中が多かったからな。で、そういう連中が多かったのが、軍令部の紐付きとか赤煉瓦の中枢とか艦政本部の中枢とかだからな。要するに金が動く場所に陣取ってポッケナイナイと、お代官様お菓子をどうぞ。越後屋、菓子の下に何やら黄金が見えるぞ。をしたわけだ。さらにだ、そういう連中が旗頭にしていた軍令部総長の宮様も責任を取る形で自主的に予備役編入をされただろ。要するに声の大きさと宮様を盾に好き勝手やっていた連中が大方消えた。陸軍も同じようだ。ん?」


「設計部員、そこまでにしておけ。今は動きやすくなったことを喜ぶだけでいい」


「はっ、失礼しました」


「では話を戻してと言っても俺が原因だがな。本艦搭載の機銃だが、ホチキスで良いのだな」

「はい。25mm連装です。銃架や指導員も含めてフランスからやってきます」


「おフランスか。何かすごそうだな。指導員もか。海軍にフランス語が出来る人間てどれだけいる?」


「さあ、翻訳と通訳で一杯だったような気がします」


「まあ、赤煉瓦がなんとかするんだろう」


「勘弁してください。苦労するのはこちらなんですよ」


「なんだ砲術、今からフランス語の勉強でもいいじゃ無いか。江田島で英語を一からやったことを思えば、大差ないぞ」


「人ごとだと思って」


「人ごとだからな。こちらは諸元さえ有れば十分だ。数字がわかればいい」


 等とぐだぐだになりつつ、高射装置の設置位置や架装方法の確認などでその日は終わった。



「横空から来ました門脇少佐です。本艦就役後には飛行長の予定です」


「よく来た、少佐。そこにいるのが、本艦を設計した設計部員だ。疑問があったら何でも聞け」


「了解です。設計部員、よろしくお願いします」


「よろしく頼む」


「飛行長は配置が遅かったな。少数だが整備員とか早かったぞ。理由でもあったか」


「搭乗員は飛んでいないと腕が落ちますから、と言うのが大きな理由です。最も大きな理由は人手不足です」


「人手不足?」


「はい、空母2隻搭載機140機です。予備人員を入れても、搭乗員が300人以上必要になります。その養成が忙しく搭乗員の配置が遅れているというのが重要な理由です。搭乗員を他艦や航空隊から引き抜くにも限界があります。鳳翔と龍驤の搭乗員はまだ乗り組んでいますから。本艦搭乗員は、半分くらいほぼ一からの養成です。空母新造計画決定後人員不足が明らかですので、その時点で搭乗員の養成に掛かりました。当初は予算が少なく訓練も遅れ気味でしたが、ある時から予算・機材とも潤沢になり、若干遅れましたがただ今配備可能になりました」


「そうか。それは大変だったな。いや、そんな理由とはな。申し訳ない」


「理解していただき、ありがとうございます。搭乗員は現在さらなる練度上昇のため、鋭意訓練中です」


「うむ、けっこうだ。それなら言うことは無い。飛行長は、カタパルトは経験あるか」


「摩耶で1年ほど。アレはきついです。出来ればドンは御免被りたいです」


「安心できるかはわからないが、本艦のカタパルトはドンでは無く、ドーンらしいぞ」


「ドンでは無く、ドーンですか?」


「飛行長、本艦のカタパルトは、軍機なので情報の取り扱いには注意するように。さて、カタパルトだ

が、火薬式では無く蒸気式だ。火薬の代わりに、高温高圧の機関の蒸気を使う。元は潜水艦のカタパルトを圧搾空気で出来ないかと始めた実験が元だ。火薬と違い、カタパルト滑走中に圧の調整が出来るので、最初は弱く中間で最大発艦寸前は押し出すだけと言う、圧力調整も可能だ。長さは70メートル。100メートルあればかなり緩く出来るのだが、飛行甲板の長さの関係上そうなった」


「資料では、十試艦攻が攻撃過荷でカタパルト発進可能となっていますが」


「能力には余裕を持たせてあるのであと2トンはいける」


「それはすごいです。我々も地上設置のカタパルトで発進訓練(注)をすることになっています。アレは空気式で一日に何回も出来るようなものでありません。おそらくカタパルトとはこのようなものだという感覚をつかむ以上のことは出来ないと思います。本艦の能力は1機あたり1分となっていますが実際出来ますでしょうか」


「飛行甲板の幅の関係で発艦は1機ずつだ。なので実際にやってみないとわからないが、2機セットして、1機ずつ発艦なので、発艦自体は2機で1分くらい。セットに3分くらいかかるとみている。今甲板員と整備員がやってみているが、そのくらいは掛かるようだ。初めてなので時間が掛かっていると見ているので、洋上訓練に入れば教訓が貯まり練度上昇とともに時間の短縮は可能と見ている」


「4分で2機ですか。30機とすると1時間くらい掛かりますね。とても使い物になりません。練度向上はできる限り早くしなければ」


「それには賛成だが、あまり焦ってやられて、事故を起こされてもな。かえって遅くなってしまう原因になる。どれだけ確実に速く正確にと言うことだ。事故を起こせば、人も時間も無くなる。責任問題にもなるしな。安全第一でやってくれ」


「了解です」


「竣工まであと2ヶ月の予定だ。試験航行が終わり次第、部隊配備・訓練開始だ。我々も良い船に仕上がると確信している。飛行長も良い航空隊に仕上げてくれ」


「お任せください。必ずや練度最高に仕上げて見せます」


「うむ、励めよ」




 長かった。ようやく竣工する。


 本邦初装備のカタパルトが特に大変だった。細々とした変更・トラブル、それに伴う工事や原因究明など、ほんとに忙しかった。特に滑走具(注2)をどうするかと言うことで、喧々ガクガクの議論をしたな。使い捨てか、回収再利用か。


 艦政本部や潜水艦実験部等からの応援が多かったおかげで問題も大方解決し、あとは実地で問題出しという所まで来た。


 本日、艤装岸壁から舫いを解き、いよいよ試験航海に向けて離岸である。


 艤装員長を始めとする艤装員達からも良い船という評価を受け、少佐に戻される心配も無くなった。


 特に下士官以下の艤装員からは喜ばれたな。ベッドである。ハンモックじゃ無い。厠が多い。電力が豊富なので、通路が明るい。室内が明るい。艦内通話が伝声管や伝令では無く、電話なので聞き間違いが少なく迅速で確認も容易だから怒られなくてすむとか。


 揮発性のガスがこもると大変なので通風に気を遣ったら換気が良くて宜しいと。


 まあいいことばかりでは無いな。予定されている司令部要員からは艦橋が小さいと文句を言われ、航海科からは、何で海図倉庫が艦内の格納庫の下だ、取りに行くに大変じゃ無いかと文句を言われ。必要な分は艦橋に置けるようにしてある。何が不満だと睨み合い。


 すべて電話にしたら、艤装員長から、せめて航海艦橋にある操舵室とは伝声管を繋いでくれと言われたので、穴を開けて繋いだり。

 

 戦艦並みに容積のある弾火薬庫を冷却するするついでに機関の運転室に冷房を付けたらすごい喜ばれた。暖房は要らないよなと言って、我慢大会じゃ無いんですよと笑い合ったり。

 

 この船の設計を拝命してから、今日まで苦労もしたが、楽しい日々も多かった。お、タグボートが着き舫いを解き始めたな。


いよいよ試験航海開始です


(注)地上設置のカタパルトで発進訓練

実際に航空機は使わない。レールの上を3点姿勢のトロッコが走るのである。ただしトロッコの動力はカタパルトである。中間くらいで椅子が持ち上がり椅子だけ水平になるという小細工もしてある。

(注2)滑走具

シャトルのことです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ