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第一話 安心しろ、ただのホモだ。

 あれから一年と少しばかりが経ち、俺は高校へ進学した。


 今日が初登校日で、ホームルームでは自己紹介が行われていた。




「うーし、んじゃ適当に自己紹介していけ~」




 なんともやる気のなさそうな先生の合図で、出席番号一番の元気そうな女の子が勢いよく立ち上がった。




「紅坂妙有那あかさかたゆな、ドMです!」




 ファッ!?


 いきなり何いってんだよこいつ?


 


 当然のように、クラスが少しざわめきを見せる。




「あっそ、次ー」




「あっ、センセ~。サラッと流さないでくださいよぉ! でも、冷たくあしらわれるこの快感……ン~、チョベリグッ!」




 肩にかかった長い髪をなびかせながら中腰になり、両の手で親指を立てる少女。


 いや、いきなりキャラ濃すぎだろ。


 辺な空気になって、次からのやつが可愛そうだ……。




 ドM少女の後ろの生徒が静かに立ち上がって口を開いた。




「アタイ、池田真緒いけだまお。北の魔王とはアタイのことよ! 夜露死苦よろしく!」




 スケバンだった……。


 何だよこのクラス。


 まだ二人だが、この先一年間が不安になってきた。




 幸運にも、しばらくの間は普通の自己紹介が続き、俺の番が回ってきた。


 


 はぁ、ここは俺もブチかますしかねぇな。


 今のうちから女子との面倒事を避けるためにカミングアウトでもしとくか。




 などという今思えば、愚の骨頂でもある張り合いをしてしまったことに、しばらく後悔する事になるのを、この時の俺は全く思いもしなかった。




「あー、俺、十和田十二とわだじゅうに。ホモっす」




 ぶわっとクラス中に笑いが巻き起こった。


 涙を流しながら腹を抱えるやつまでいる。


 おい、お前ら……全国のホモさんに失礼だぞ!




 胸元で指を組みメガネを輝かせている女子がいるが、アイツはなんかヤバそうだから関わらないようにしよう。




「あーあー、うるせぇ。静まれ! はい、次」




 相変わらずこの先生は冷めてるな。


 見た目は美人だが、絶対独身だわこの人。




「え、えっと……ぼ、僕、新島遥にいじまはるかっていいます。よろしくおねがいしまふ!」




 最後噛んじゃったよ。


 てかボクっ娘なのか、珍しいな。


 その小動物的可愛さのある新島にいじまに、男子共がキュン死しそうなのを俺は冷めた目で見ていた。




 そんなこんながありホームルームが終わって、いきなり移動教室の授業が始まろうとしていた。


 その前にトイレを軽くすませ、ハンカチで手を拭いながら廊下に出ると一人の男子生徒が話しかけてきた。




「うっす! お前、ホモ田野獣二だよな? 俺は佐藤拓馬さとうたくまよろしくな!」




「十和田十二とわだじゅうにだよ! ホモだけど」




 てか野獣って、こいつさては淫夢厨だな?




「まぁ、こまけぇ事は気にすんなって。それよりさ、移動教室の場所変更になったんだって」




「あ、そうなのか」




「B棟二階の赤い扉の部屋だって! んじゃ俺先行くわ」




「おう! 助かったよ」




 いきなり教室変更だなんて親切じゃないなこの学校は。




 ハンカチをしまい、俺はB棟へと向かった。




「えーっと赤い扉、赤い扉っと。ここか?」




 入学早々に友達作りが始まってるのか、何やら中から女子の声が沢山聞こえる。


 女子って大変だよな、ちょっと乗り遅れると、既に出来上がった輪の中に入るのは相当な無理ゲーになるんだから。




 わかったつもりで女社会を哀れみながら俺は扉を開けた。




 え……どういうこと?




 あ! あの野郎騙しやがったな!!




 扉を開けたその中にはエデンの園が広がっていた。


 要するに女子の更衣室だったのだ。しかも使用中……




 扉を開けて一秒経たないうちに、俺はない頭を全力で回転させ反射的に行動に移っていた。


 フレミングの右手を顔に当て、厨二病っぽいポーズをとって、こう叫んだ。




「安心しろ、俺はただのホモだ!」




 五秒ほどの沈黙の後、せき止められた時間のダムが決壊した。




「ギャアアアーーー!!」


「変態ーー!!」


「キモイキモイキモイキモイ!!!!!」




 上履きやカバンとともに罵声が飛び交う。


 それを避けながら、俺は直ちに戦略的撤退をした。




 クソ……。


 ホモなんだから別にいいじゃねぇかよ!


 元はといえば、佐藤の野郎!


 覚えとけよ……。




 最後に投げられた辞書がクリーンヒットした後頭部をさすりながら、俺はもともと知らされていた教室へ向かった。




 指定された教室がある廊下を歩いていると、前に小動物系ボクっ娘女子の新島がいた。


 何やら困った様子でオドオドと周囲の床を見回していた。




 ん~、このまま無視して通り過ぎるのはなんか後味悪いよな……。


 


「どうかしたのか?」




 俺がそう尋ねると、目をうるっとさせ、上目遣いになり震えた声で喋り始めた。




「あ、えっと……コンタクト、落としてしまって……」




「コンタクト? もうすぐ授業始まるし、とりあえず今は片目で我慢しろよ」




「りょ、両方落としちゃって……」




「コンタクト両方落とすとかどんなミラクルだよ!」




 ドジっ娘にも程がある……。




「あ、あの……どなたかわかりませんが、一緒に探してくだしゃい!」




 また噛んだ……。


 べ、別に可愛いとか思ってないんだからな!


 俺はホモなんだ! こんなことでドキドキするはずがない。


 てか俺、結構印象に残るような自己紹介したのに覚えられてないのか?


 しかも席、前だぞ。




「ま、いいけど」




 自慢じゃないが、俺は物探しが得意なんだ。


 ちっちゃいころに見たトレジャーハンターの映画にあこがれて、一時期はクラスで探しもの屋を自称していろんな物さがしてたな……。




 というわけで、俺はコンタクト探しのクエストを引き受けた。

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