プロローグ① ホモの予兆
「ねぇ、十二。あたしたちそろそろ付き合わない?」
「そこのペン取って」と言わんばかりの軽いノリで告白される。
今、俺に告白しているこの女子は伊豆沼宇千、いわゆる幼馴染と言うやつで、ちっさい頃から何をするにもいつも一緒だった。
これまで全くそういう素振りがなかったので正直戸惑っている。
そりゃ一応可愛い女の子に告白されたら即OKしたいもんだけど、こいつはもう幼馴染というよりも、歳が近い兄妹と言っても過言ではない仲だと思っていた。
デリカシーなど一切なく、なんでもズバズバ言い合ってきた仲である。
今さら恋愛関係にというのは少し違和感がある。
それにこいつの親父は警察官もやっていて、めちゃくちゃ厳格な人だ。
あと、超絶親バカ。
幼稚園にいた頃、宇千と手をつないで帰っている所を見られた事があったんだが、その時の親父さんの顔と言ったらもう……。
ガキに向ける目じゃなかったぞ。
あの人がすんなり俺との交際を許してくれるとは思えない。
絶対にボコボコにされて、使い込んだボロ雑巾のようにそこら辺に捨てられるに違いない。
やっぱり、ここはそれらしいことを言って穏便に断ろう。
「あ、あのさ。俺たち中学生じゃん? まだそういうのは早いっていうか……高校に行っても俺たちの気持ちが変わらなかったらその時はさ……」
さり気なく俺も、宇千に気があるような言い回し。
まぁこいつのことは嫌いではないから嘘にはならないし。
うん、この状況では完璧な返し方のはずだ。
「なにそれ、つまり無理ってことよね……」
ヤバイ、確実に機嫌悪くなってるモードだ。俺にはわかる。
少しうつむき、ショートヘアの短い前髪で目元に影を作って表情を隠す素振りをした時は、いつもその直後にクソでっかいカミナリが落ちる。
「うっそー! 本気にした? バカじゃないの?」
怒られると思いきや、ケラケラと小笑いしながら嘘だと告げる宇千。
「普通に考えて、アンタとアタシがそんな関係になるわけないじゃん。バーカ!」
「何だよ、びっくりさせんなよ……」
ま、わかってたよそんなラノベみたいな話があるわけないって。
一瞬でも本気にしてしまった自分が恥ずかしいぜチクショー。
「そうだよな~。お前と恋仲にだなんて、人類が俺たち二人だけになったとしてもありえないよな!」
「そうね。ほんとバカみたい……」
そう言ってお互いに教室に戻った。
最後に宇千が静かに放った「バカ」に少し違和感を感じていた。
「気の所為だろ」と考えるのをやめたが、この時はあんなことになるなんて思ってもいなかった。
まさか俺がホモになるなんてーー