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やさしいオオカミくん

作者: 武市健志郎

 これは、ある学校に通う、一匹のオオカミのお話です。

 動物たちが通う学校で、オオカミくんは、授業中も休み時間も、給食の時もずっと一人で過ごしています。でも、本当はみんなと一緒に遊びたいし、昨日のテレビの話に参加したいと思っていました。みんなはオオカミくんのことを「いっぴきオオカミ」だと言いますが、本当は寂しがりやで弱虫なだけで、自分から友達になって欲しいと言えないだけでした。

 更に厄介なことがあります。学校のみんなも、その親たちも「オオカミ」は怖い動物だと、彼のことを避けているのです。同じクラスの七つ子のヤギくんたちは、お母さんから言われているからとオオカミくんとは話もしてくれません。また、タヌキくんが嘘を付いた時は「そんなことをしたら、オオカミ少年って言われるよ。」と言っていました。その時オオカミくんは「僕は一度も嘘なんかついたことないのに」と、とても悲しい気持ちになりました。

 ある日の休み時間のことです。ウマくんとロバくんがけんかをしていました。オオカミくんが聞き耳を立てていると、どうやら、先生から頼まれて運んでいる荷物の量が平等ではないようです。ロバくんが「ウマくん、本当にこの量は僕だけじゃ運べないよ。ちょっとだけでいいから手伝ってくれないか?」と言うと、「僕だって荷物を運んでいるんだ。自分の分くらい頑張って持ってくれよ。」と、ウマくんはそっぽを向いてしまいました。そんなウマくんの態度に、ロバくんは大声で泣きだしてしまいました。オオカミくんは「僕が手伝ってあげるよ、泣かないでロバくん。」と、心の中で何度も練習しましたが、どうしても言い出すことができませんでした。オオカミくんが困っていると、事態に気付いたイヌくんが慌てて教室に入ってきて言いました。「ロバくん、何で泣いているの?大丈夫?ウマくん、何があったの?」ウマくんは少し拗ねていて話そうとしません。オオカミくんは「ロバくんがその量は持てないから、ウマくんに手伝ってほしいと頼んだけど、ウマくんがそれを断ったんだ。」と、イヌくんに心の中で教えました。

 そっぽを向いたままのウマくんと、泣いているロバくんを交互に見ながら、荷物に気付いたイヌくんが「この荷物を二人で運んでいるんだね。ロバくんのほうがちょっと多いみたいだ。」と言いました。イヌくんの言葉を聞いて、ただ泣いていたロバくんが、しゃくり上げながら「そうなんだ。この量は僕では無理なのに、手伝ってくれないんだ。」と訴えました。それを聞いたウマくんは、ブルルルと鼻息を吐きながら「勝手なことを言うなよ。」と怒ってしまいました。その二人の争いに、オオカミくんはどうすることもできずにいましたが、イヌくんは落ち着いた様子で言いました。「よし、今回は僕も手伝ってあげる。でもね、今回は僕が来たからよかったけど、もしロバくんが無理をして大量の荷物を運んでいる時に、怪我でもしてしまったら、残ったウマくんが、全部の荷物を一人で運ばないといけなくなったんだよ。ロバくんも泣いているだけじゃ駄目だ。二人とも、もっと冷静に対応しないと。」イヌくんは、泣いているロバくんの肩をたたきながら荷物を持つと、ウマくんにも「さぁ、早く運んでしまって遊びに行こう!」と促しました。そこに、少し離れたところで様子を見ていたサルくんとキジくんもやってきて「僕たちも手伝うよ。」というと、五人は楽しそうにおしゃべりをしながら教室を後にしました。残されたオオカミくんは「僕もイヌくんと同じイヌ科なのに、何でこんなにも差があるんだ。」と落ち込みました。そして、「サルくんなんて、カニくんを虐めたこともあるのに友達がいる。僕には一人もいないのに。」と、他人の過去の過ちまで引っ張り出してきて悩みました。

 それからしばらく経ったある日、オオカミくんの学校に転校生がやってきました。学校中がその話題で持ち切りです。オオカミくんも「どんな子だろう。僕と友達になってくれたらいいな。」とワクワクしていました。みんながざわついている中、教室の扉がガラガラと開き、担任のフクロウ先生が入ってきました。「みなさん、いつまでも騒いでいてはいけませんよ。今日は転校生が来ています。今から自己紹介をしてもらうので、静かに聞いてくださいね。」先生の言葉に、「はーい。」と皆は返事をしましたが、オオカミくんは、転校生のことが気になってそれどころではありませんでした。「では、入ってきて自己紹介をしてください。」先生の言葉に、廊下でうなずいていたのか、少し間があってから、いよいよ転校生が入ってきました。「皆さん、こんにちは。」転校生は挨拶をしながら入室しましたが、さっきまでのお祭り騒ぎが嘘のように、教室は静まりかえっていました。オオカミくんも、目を丸くして彼のことを観察していました。転校生は、全身が真っ黒で翼があり、翼があるのに、くちばしではなく牙がある、見たことのない姿をしていました。転校生は、自分の姿を見て驚いた様子のみんなの態度に、ちょっと慣れているようで、肩を少しすくめて、頭を掻きながら「転校生のコウモリです。よろしくお願いします。仲良くしてね。」と言いました。しかし、クラスのみんなはまだ驚いているようで、コウモリくんのあいさつに、返事をすることができないでいました。「ほー、コウモリくん。上手くあいさつできましたね。」みんなの様子とは裏腹に、フクロウ先生は感心していました。「それでは、コウモリくんはオオカミくんの隣の席に座ってくださいね。」「えっ!?」突然自分の名前が出てきて驚いたオオカミくんが、短い声を発しました。それと同時に「フクロウ先生ー、お客様ですよ!」と廊下からウサギ先生の声がしました。フクロウ先生は、「ほーほー、こんな時にお客さんとは。では、朝の会はこれで終わりにします。あまりにぎやかにして、他のクラスに迷惑にならない程度に、コウモリくんとお話してあげて下さい。イヌくん、後は任せましたよ。」そう言うと、先生は飛ぶように急いで出ていきました。

 先生が出ていくと、さっきまで驚いていたのに、クラスのみんなはコウモリくんの周りに集まっていました。オオカミくんもその輪に混ざりたいと思っていましたが、やはりそれはできず、自分の席からその様子を眺めていました。そして、コウモリくんが隣の席になることへの不安と期待が合わさり、心の中はドタバタしていました。「コウモリくん、君は少し変わって見えるけど、翼があるから、やっぱり僕たち『鳥』の仲間だよね?」最初にコウモリくんに話しかけたのはキジくんでした。「・・・そうだね。」コウモリくんは相槌を打って答えます。「いやいや、立派な牙があるじゃないか。それこそ俺たち『獣』の仲間の証だろ。」納得がいかなかったのか、トラくんが割って入ります。そして、「そうです、そうですよ。コウモリくんは、私たち『獣』の仲間に間違いないですよ。」と、いつものようにキツネくんがトラくんを支持しました。その合いの手を、いつもはあまりよく思っていないオオカミくんも、今日はキツネくんの意見に賛成でした。「うーん。そうだね。」コウモリくんは、翼の付いた手を口元にやり、ちょっと考えながら答えました。「さっきは『鳥』の仲間だっていったよ。」キジくんも引き下がる気はないようです。「おい、コウモリ。お前は『獣』の仲間だよな。キジにはっきり言ってやれよ。」トラくんもムキになっているようです。その様子を遠巻きに見ていたオオカミくんは、「何だか変な空気になっている。コウモリくん大丈夫かな。」と、一人離れているのに、おろおろしていました。そして、表情を見ようとコウモリくんの顔を見たとき、一瞬目があったような気がして、ギクッとしました。そして、ギクッという音が周りに聞こえていないか確かめるように、きょろきょろと辺りを見渡しました。そのとき「キーンコーンカーンコーン」とチャイムが鳴り始め、コウモリくんの周りに集まっていた生徒たちも、ざわざわしながらも自分の席に戻っていきました。「なんだよ、こんな大事な時に。」一番納得のいっていないトラくんも、捨て台詞を吐くと、仕方なく去っていきました。少しほっとしたように肩ごと翼をなでおろしたコウモリくんも、自分の席へと向かいました。近づいてくるコウモリくんに、オオカミくんはとてもドキドキしていました。そして、また一瞬目があったような気がしましたが、コウモリくんは特にオオカミくんに声をかけたりすることもなく席に着きました。そして、オオカミくんもコウモリくんに話しかけたりはしませんでした。

 コウモリくんが転校してきてからの数日間、学校の動物たちは『鳥』と『獣』の仲間分け作業に追われていました。『鳥』チームの中心はキジくんで、『獣』チームの中心はもちろんトラくんです。最初は、誰が『鳥』だ、いや『獣』だ。という口論くらいでしたが、昨日の給食中、キツネくんとツルくんは、使う食器の悪口まで言い合っていました。転校してきて2、3日は、コウモリくんを挟んでこの口論が行われていましたが、最近は、コウモリくんも、オオカミくんと同じように席に座って皆の様子を見ているだけでした。そのきっかけは、トラくんが言った「コウモリ、おまえは半端でしかもどっち付かずだな。」という言葉でした。その言葉に、声に出して賛同したのはキツネくんだけでしたが、皆も納得いくものがあったようで、コウモリくんはすっかり一人ぼっちになっていたのです。幸い、コウモリくんの隣の席は、オオカミくんなので、取り立てて話す訳でもありませんが、見た目上はお互い一緒にいるような錯覚が生まれていました。オオカミくんは、コウモリくんをとても心配していました。独りぼっちになって悲しんでいるのではないか、寂しい思いをしているのではないかと、彼の心境を常に察していました。表情を探ろうと、オオカミくんはよくコウモリくんの顔を覗き込んでいましたが、転校してきた日のように、二人の目が合うことはありませんでした。そして、コウモリくんのことばかり考えているオオカミくんでしたが、そんなことにはちっとも気が付いていませんでした。

 ある日の生活科の授業の時間、フクロウ先生は住居についての授業をしていました。「みなさんも、学校に来ていない時は基本的にお家で生活していますね。ほー考えると、やはりどのようなお家に住んでいるのかは重要です。特に最近、地震とか洪水とか、大災害になることがほーとー多いですからね。安全面などもよく考えて、理想のお家の絵を描いてみましょう。」動物たちは、楽しそうにお喋りをしながらそれぞれ思いおもいの絵を描いていきます。そんな中、三つ子の末っ子のブタくんが「僕はスピード重視。わらの家を建てるよ。」と言うと、次男のブタくんは「わらはもろ過ぎるよ。僕は木で建てるよ。」とお互い絵を見せ合いました。それを見ていた長男のブタくんは「母さんの話を忘れたのか?怖い動物が襲ってきたら危ないから、家はレンガで作るんだ。煙突の下では鍋でお湯を沸かしておくんだよ。」と言いました。「そうか、オオカミに食べられちゃう!」弟たちの言葉に、クラスの動物たちは「そうだ、安全面にも気をつけるってそういうことか。僕もレンガで作ろう。」と、皆レンガの家の絵を描き始めました。木の家を描いていたコウモリくんは、オオカミくんが心配になって隣の席を恐るおそる見てみました。しかし、オオカミくんは、夢中で絵を描いているようで、クラスの様子に気付いていないようでした。ちょっとほっとした様子のコウモリくんが、ふとオオカミくんの絵をみると、そこには、色々な材料が使われた素敵な家の絵がありました。「オオカミくん、すごく素敵なお家だね。」コウモリくんは、興奮して思わずオオカミくんに話かけました。「えっ!?」集中していて驚いた、だけではないかもしれませんが、オオカミくんが慌てて振り向きました。「とても素敵なお家だよ。ぼくの木の家とは大違いだ。どんなお家なのか教えてよ。」どうすればいいかおどおどしているオオカミくんでしたが、興奮しているコウモリくんの目はキラキラしていました。オオカミくんは、そんなコウモリくんの様子に後押しされるようにぽつぽつ話だしました。「この家は、壁はレンガで屋根がわらなんだ。壁は頑丈な方がいいけど、屋根は重たいと危ないと思って。あと、ドアは木じゃないと開けにくいと思うから、木でできているんだよ。」オオカミくんの説明をきいて、コウモリくんは「すごい!」と感嘆の声を上げました。あまりにも大きな声だったので、クラスの皆が二人の方を振り向きます。「コウモリくん、大きな声を出してどうしましたか?」フクロウ先生が不思議そうに首を傾けながら歩み寄ってきました。「先生、オオカミくんのお家がすごいんです。」興奮気味のコウモリくんに促されて、フクロウ先生がオオカミくんの絵を覗き込むと、大きな丸い目をぱちくりさせて言いました。「ほー、これは素晴らしいお家ですね。皆さんも見に来て下さい。」先生の言葉に、クラスの皆がオオカミくんを取り囲むように集まってきます。しかし、オオカミくんは恥ずかしくてずっともじもじしていました。そんな様子に気付いてはいませんが、コウモリくんは集まってきた動物たちに、オオカミくんの描いた家の説明を始めました。「オオカミくんのお家は、壁がレンガなんだけど、屋根はわらなんだ。壁は頑丈じゃないといけないけど、屋根は重たいと落ちてきたとき危ないからだって。そして、開けにくいといけないから、ドアは木でできているんだよ。みんな、すごいと思わないか!?」興奮して話すコウモリくんの説明に、みんな「すごい!」「オオカミくんすごいね!」と感嘆の声を上げました。そして、トラくんが「オオカミ、どうやったらこんなすごい家が思いつくんだ?」と聞くと、オオカミくんは「コウモリくんみたいなお家を描いただけだよ。」と答えました。その答えに、クラスの動物たちは、「どういうこと?」と隣近所の人の顔をきょろきょろ見ていました。「コウモリくんは、『鳥』みたいに翼を持っているけど、僕たち『獣』みたいに牙も持っている。何か一つだけじゃなくて、必要な個所に必要なものを持っているんだと思ったんだ。たぶん、僕が書いたお家だけじゃなくて、きっとそれぞれ活躍できる場所が違って、力を合わせると良いものができるんだと思う。」トラくんの質問に、ふと思ったことを話したオオカミくんでしたが、話しおわると急に大それたことを言った気がして恥ずかしくなりました。でも、オオカミくんの言葉に、コウモリくんだけではなく、クラスの皆が感動し、「僕ももっと色々考えて描き直そう!」と盛り上がっていました。そしてイヌくんが「本当にオオカミくんは、いつも色んなことに気を配って皆のことを見ているね。同じイヌ科なのに、全然敵わないよ。」と、呟いてから「僕もいい家を描くぞ!」と席に帰っていきました。

 皆が席に帰ってから「オオカミくん、ありがとう。」とコウモリくんが言いました。オオカミくんは驚いて「僕こそごめんね。コウモリくんが独りぼっちになっているのに、話し掛けてあげることもできなかったんだ。」と答えました。するとコウモリくんは「何を言っているんだ。いつも一緒にいてくれたよ。とても嬉しかった。ありがとう。いい友達ができて良かった。」と笑いました。オオカミくんは、顔を真っ赤にしてもじもじしながらも、とても嬉しい気持ちになりました。

 おしまい。

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