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鉄よりも、どんな金属よりも硬く強化した革のブーツで私は、壁を思いっきり蹴りたげた。壁は、ガラスの様に割れ消えていった。それを見た私は、少しだけふらつき魔法を解除した。
「はぁーはぁ…はぁーはぁ」
少しだけ足に打撲が出来てしまった。でもこんなの治癒魔法で、治すことが出来る。一刻も早く先生を捜さないと、助けないと…っ!でも、どうやって先生を見つけ出せば良いのだろう…?
「アミーさん!」
そう言って、ドアを開けたとは、ユニコーンの時の飼育員だ。
「無事見たいね。他の人も怪我は、ないから安心して」
「でも、先生は、攫われました」
そう言って、窓から外を見た。痕跡なんて、ない。私の魔法は、追跡や捜索出来るような魔法は、持っていない。
「ごめんなさい。言うことを聞くしかなかったの。私たちも死にたくないもの」
「解っています。
でも…でも……どうやって、先生を捜せば良いのか解らない……いくら考えても私の魔法では、探し出すことができない」
解っている。解っているから何も言えない。責められない。先生。先生。どうやって、見つけたら良いの?
「アミーさんの弱点が分かった気がする」
「え?」
「何でもない。
アミーさん。博士から貰った物何か持ってないかな?」
女性は、そう言って微笑んだ。先生から貰った物……飴だ。私は、飴を渡すと女性は、祈る様に両手で握った。すると、蜘蛛の糸のような、綿毛のような細く長い糸が現れた。
糸は、壁に続き、この施設の外まで、見える。
「この糸は、物と人を繋ぐ糸。持ち主を捜す糸。例えどんな事があっても繋がりがある限り切れない糸。
これが私の魔法」
そう言って、微笑み私に飴を渡した。この糸の先に先生が居る。
「でも、私が居ないと魔法が継続出来ないから私もついていくよ」
「危険があるかも知れません」
「それは、君も同じだし、強いといえば、私も怖いっていれば怖い。でも、頑張っている人をほっといて、自分だけ助かろうって、思えない。
とりあえず、私の車に乗って」
そう言って、私の手を引き歩き出した。この魔法があれば先生を助けることが出来る。でも、この人も迷惑をかけてしまう。
そんなの出来ない。もう、誰にも迷惑をかけたくない。
「アミーさん。これが終わったら私と友達になってくれる?」
「え?」
友達?私と友達になりたい?私は、友達と言う言葉を聞くとかつて、幼かった頃のあの日の事を思い出した。血の気が引き少しだけ目眩が起こしふらついた。女性は、私の方を見て、また微笑んだ。
「私は、君をもっと知りたいしもっと仲良くなりたい。ダメかな?」
「でも……私なんかで、良いでしょうか?」
「私は、君と友達になりたいんだから君じゃなきゃ、ダメだよ」
この言葉は、久しぶりに聞いた。両親が交通事故で、亡くなり一人ぼっちになった悲しみで、魔力が暴走して、周囲の人を巻き込んでしまい多くの人を傷つけてしまった。魔力の暴走は、一人のお兄さんに助けてもらったけれど、高校の時も、中学生の時も私は、私の魔法を恐れて他人を避けた。
誰かを失うのが怖くて。わたしのせいで、誰かが傷つけるのが、もっと怖くて、一人になろうとした。
だから、彼女のその言葉は、むず痒く居心地が悪い。
「……」
「んー……難しいか…とりあえず、友達には、ならなくても良いや。せめて、知り合いレベルでも良いよ。だから私の名前を覚えてね。“クロト”って言うの。よろしくね。アミーさん」
確か、初めて先生に出会った時もそう言っていた。
「アミーでいいです」
私は、目をそらしながらそう言った瞬間にクロトは、微笑み水色の可愛らしい車の所へ向かった。
「乗って」
「はい」
車に乗るとクロトは、車のエンジンをかけて深呼吸をした。
「行くよ」
先生。今助けるからね。私は、先生から貰った全てを無駄にしたく無い。愛も夢も希望も全て彼から貰った。
今度は、私が返す番だ。
遠くに行く前に、見えなくなる前に、失う前に繫ぎ止める。
この糸のように