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二人目

「こちら、アールグレイになります」

 一人目の転生作業が終わって少ししたところで、助手がそう言って紅茶の注がれたカップを机に置いた。

「このタイミングで出す紅茶は、最初のコーヒーと違ってローテーション通りに出すのね」

 一人目が終わった後に出してくる紅茶は、定番の種類が一週間で一周するようになっている。頼んだわけじゃないけど、気が付いたらこうなってた。

「定期的に出しても問題がない、それが定番というものだと思いますよ」

「まぁ、出す順番をローテーション化すれば楽なのは確かだし、そもそも味に文句は何一つ無いし」

 私は彼の言葉にそう返した後、紅茶を一口だけ含み、

「……さて、次にいきましょうか。二番札の部屋の人、入ってきて」

 私の呼び出しに応じて部屋に入ってきたのは、茶髪な若い男性だった。なんかチャラそうな雰囲気を発してるわね、今度のは。

「……あー……まぁ、そういうことか……さて、まずはどんな世界に転生したいか、要望はある?」

 スマホで目の前の男性の情報をある程度確認し、私は彼にそう尋ねた。

「僕がモテモテになる、そんな世界ならどこでもいいですよ」

 あー、転生希望者の中でも活躍したい奴の次に多いモテたい奴か……こういうのは転生させてから死ぬまでの最短記録をたたき出しやすいから、慎重を期するのよね。ちなみに、三番目に多い希望は活躍してなおかつモテるという複合型である。

「それじゃあ、転生するにあたって、どういう能力が欲しいですか?」

「そりゃあ、モテモテになるやつをお願いしますよ」

 あー、やっぱりかー……モテたい世界を希望する人は同時にモテたい能力を欲する、これもうセット販売していいレベルかもしれない。

「モテる世界でモテる能力……あー、やっぱりいろいろと出てくるね。猫とか、犬とか、おおー、スケルトンにモテる世界もあるのか」

「なんでそんなイロモノばかり出すんですかね」

 私がイロモノばかり出すんじゃなくて、この検索システムがイロモノを真っ先に出してくるんだよね。要は人間にモテる世界は突出した特徴が無いから後ろに回されるってこと。

「モテモテになるなんて発想で希望を述べれば、そりゃまともな答えは返ってこないって。本来、モテるかどうかなんて本人の努力次第なんだし」

「確かにそうかもしれないかな……あ、そうそう、できれば二股以上かけても問題ない世界がいいですね」

「君は懲りるということを知らないの? 生前に六股かけた挙句に、その内の一人が殺人犯にクラスチェンジしちゃたじゃない」

 その結果、この男は現在ここにいるわけだが。

「男というのは恋に忠実な生き物ということですよ」

「恋に忠実なら、そもそも二股以上かけないと思うんだけど……あと、二股以上かけても問題ない世界は、たぶん無いわよ。問題ない国が存在する世界ならあるかもしれないけど」

「いやいや、そういう結論を出すのは流石に早すぎでは? 手にしたスマホに出てきた情報、まだ全部目を通していないんでしょ?」

 ちっ、見た目とは裏腹に鋭い……いや、そういう風に鋭い視点を持ってるから六股とかできてたのかもしれない。

「それもそうだけど……まず、モテモテになるという能力自体がありきたり過ぎて、ヒット数の桁が尋常じゃない要因になってるんだもの。そうなったら、そりゃ検索上位の世界でどうにかしたくなるのが神ってものなの」

「それもう面倒臭がりな人間と思考回路同じじゃないですか」

 そもそもの話、意思を持つような存在は皆そんなものなんだけどね。

「というかさっきも言ったけど、努力なしでモテる世界なんてたぶん存在しないわよ。だから、モテたいなら相応の能力を具体的に要求してくれないかな?」

「具体的にですか……」

 そう言ってから少しの時間が経過して、

「そうですね……相手を自分の思い通りにできる……なんて能力はさすがに無理ですかね?」

 私が聞いた事とはいえ、ここにきてとんでもない要望を飛ばしてきたわね。

「無理じゃないけど……それでいい?」

「できるのならそれでいいですよ。それなら、うっかり何股かかけてしまったとしても、もう誰かに殺されるということもないでしょう」

 殺されることはない、ねぇ……確かにここなら何股しようが人間に殺されることはないか。

「それじゃ、一番上に出てきた世界に転生させるわね。人間が一人もいない世界だけど、相手を自分の思い通りにできる能力のためなら、大した問題じゃないわね」

「ちょっと待って、ストーップ!」

 私が呪文をスマホに表示させようとしたところで、彼は急に大声でそう言って止めにきた。

「今ちょっと聞き捨てならないことを言いましたよね。人間がいないって、それ致命的にダメなんじゃないですか」

「とはいってもねぇ……君の要望した能力を受け入れられる世界で検索したら、人間がいない世界しか出てきてないのよ。そもそもの話、相応の意思を持つ存在を自分の思い通りに操作する能力っていうのは、冗談じゃ済まないレベルでランクが高いのよね。で、選んだ能力のランクが高いと、選べる世界は逆に少なく、しかもわりと地獄に近いレベルになっていくのよ」

 そしてトンデモな能力を希望してきた人は、大抵この説明をするとそこで踏み止まる。つまり、転生した後に修羅の道を突っ走るほどの覚悟はない奴の方が圧倒的に多いのだ。

「なるほど……それなら人間がいない世界とか納得ができる」

「納得してくれたなら結構、それじゃいくわね」

「いや、だからストップだって! そんな世界に行っても絶対に楽しくない!」

 六股かますような奴にとってはそうでしょうね。そもそも、転生って楽しい世界に行くためのものじゃないんだけど。

「それじゃ、前提条件として人間がいる世界を追加するわね……あっ……」

 私はそのままスマホを操作する手が止まり、しばらく沈黙が辺りを支配する。

「……いや、ここでダンマリされるとすっごい気になるのですけど……」

「いやいや、大したことじゃないよ。ただ……この検索件数はさすがに驚いた」

 比喩抜きで星の数ほど世界はあるはずなのに、ここで検索して検出された世界はひとつ……それも、これ人間がいる世界と言っていいのかどうかも分からない、最底辺が出てきた。

「ひとつだけ聞いていいかな? 地獄はお好き?」

「それだけで何が起きているのかは察しましたし、どう考えればそれが好きかもしれないと解釈できるような発想ができるのでしょうかね?」

 でしょうね。

「はぁ、まさかスタートラインに逆戻りとは……君はとんでもないことをしてくれてるよね」

「それ私のせいですか?」

 まぁ、確かに彼のせいだとは言い難いのかもしれないけど。とはいえ、やり直すってのはおそらく他の人が思っている以上に問題のある状況なのよね。多少はゆっくりしている時間はあれど、それでも一人に費やせる時間は有限だから。

「ふーむ……人間がいる世界を第一前提として……さっきの能力はもう論外にするとしても……モテモテになる能力と世界ねぇ……」

 そんな都合のいい世界、どこかに情報が転がっていないものか……

「なんなら、男性より女性の方が圧倒的に多い世界にでも飛ばしたらどうですか?」

 唐突に助手がそう口を出してきた。

「ふーむ、その手があったか……」

 いろいろと問題はあるけど、確かにその発想は突破口になるかもしれない。というわけで、検索し直してみて、

「あー……なるほど、これならどんな能力を乗っけても大丈夫かな」

 案外、あっさりと良さそうなのが出てきた。

「さて、もう一度本題に入るけど、とりあえず良さそうな世界が検索上位に出てきたので試しに聞いてみるよ。あのさ、人口の九割が女性の世界って、どう?」

「良い世界じゃないですか」

 やっぱり、そう思ってくれたか。それだと、私も楽に仕事ができる。

「それじゃ、その世界でいいわね。能力は……下手に選ばせるより、この世界に見合ったやつをこっちで見繕った方が安全かも」

 私はそう言いながら、スマホを操作して呪文を画面に映し出す。そして残った紅茶を一気に飲み干し、

「それじゃ、始めるわね」

 こうしてスマホに映る呪文を、私は口にし出した。それに合わせて、男性を囲む円が光を発し始める。一人目もそうだけど、目の前の彼もまた不安そうな表情をしている。何も言わないだけ、さっきよりはまだマシか。

 まぁ、客観的に見ると私でも引きそうになる光景なんだからしょうがない。というか、この仕事を賜る前に実際にこういう光景(とはいえ、当時は紙の書類だったけど)を見た時には、突然よく分からない呪文を喋り始めて正直言って私もあれは見ていて軽く引いてた。

 そんなことを考えつつ呪文を続けていくにつれ、円を文字が囲んでいく。そして一際眩しく光が迸り、それが消えた後には何も残ってなかった。

「はい、二人目終了っと」

「お疲れ様です。それにしても、女性の方が多く生まれる世界とは珍しいですね」

 私のそんな呟きを聞いて、助手がそう言った。

「何を言ってるのよ、単体生殖が出来るわけでもないんだし、あの世界も他の世界と同じで人間の出生率は男女半々に決まってるでしょ」

「えっと……それじゃ、なんで男性が一割しかいないのですか?」

「なんかさ、あの世界はサキュバス的なのが大量発生したらしくて、男は性的な意味も含めて搾取されまくるのよ。だから男性だけが激減していくっていうわけ」

 たまに得体の知れない何かが大量発生して人間の生息範囲を狭めていくっていうのは、過去に何度かあったんだけど、男だけ狭まってる世界ってのは希少だから、おそらく他の神からは実験的な感じで放置されてるんだと思う。

「でも、そんな物騒な世界に転生させたら、明日にでも彼は死ぬのではないですか?」

「その辺は大丈夫。性的な意味で採取されるってことは、それ以外ではそうそう命の危機に晒される事は少ないってことだし。だから、そういう世界に見合った能力を与えて送り出したのよ」

「その世界に見合ったというのは、どういう能力を与えたのですか?」

 彼がそんな疑問を口にしたので、私は少しだけ間を空けて、

「体力と精力がハイスピードで回復する能力よ。あの能力なら、サキュバス的なのに何度襲われても、搾り取られるより回復するスピードが上回るから、よっぽどバカなことをしない限り死なないってこと。まぁ、死ぬより地獄になるかもしれないけど、女性が多いしサキュバス的なのも広義的に見れば女性なんだし。そういうモテモテになる世界を望んだんだから、彼も文句はないでしょうね」

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