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十人目

「ここまで、なんか異様に癖が強いみたいなのを九人ほど転生させてきたけど……今日ってさ、私の運勢は十二星座で最下位なのかな?」

 私はなんとなくそんな疑問を口にしてみた。

「神様に運勢なんてあるのですか?」

 助手がコーヒーカップを机に置きながら、そう聞いてきた。

「いくら神だといっても、さすがに存在している以上はそういうのからは逃れられないからね」

 まぁ、ある程度は操作するような規格外なのもいるにはいるけど。

「ところで……これは……」

「ラテアートというものに挑戦してみました」

 コーヒーカップに注がれたコーヒー(おそらくカプチーノ)には、猫の絵が描かれていた。日に日によく分からないベクトルでスキルが増えていくわね、この助手は。

「まぁ、いいか。それじゃ、十番札の人、入ってきて」

 私がそう呼ぶとドアが開き、女性が入ってきた。

「……あー、まぁ……わざわざあれこれ言うのもあれだし、いいか……」

 スマホに表示された彼女の情報を見た私は一瞬言葉が見つからなかったものの、とりあえずその場を進めるためにあやふやな言葉を選んだ。

「さて、まずは……どのような世界に転生したいですか?」

「そうね……とりあえず、肉食の文化がない世界がいいわ」

 ああ、まぁ……予想できた答えではあるわね。

「では、転生するにあたって欲しい能力はありますか?」

「動物性の食事をとらなくても、健康に生きていけるようなのがいいわ」

 なるほどね……

「生き方を変えるつもりはないけど、それが原因で死ぬのは嫌だ……というところか。まぁ、肉というか動物性の食物を摂取しなくなったことで必要な栄養が枯渇して病気になり、さらに医師の指示を無視して人生を終了させたという自分の死因は理解してるわけね」

 たまに自分が何で死んだのか理解してないのも来ることを考えると、その部分を理解してくれているのはありがたいわ。

「さて、希望に添えるような世界があるのかどうか……」

「いや、異世界ってむしろそういう世界の方が多いんじゃないの?」

 なんかもの凄い考え方のズレを感じる。彼女がなぜそういう考えに至ったのか不思議だわ。

「異世界だって食物連鎖が存在するのよ。だから肉食の文化が存在しない世界っていうのは、動物という進化形態がまだ発生してない世界くらいね。言い方を変えれば、肉という概念自体が存在してない世界よ。つまり、植物にでもならない限り肉食文化が存在すらしてない世界には転生できないの。というか、なんでそういう風に思ったの?」

「何を言ってるのよ、私の生き方が正しいんだから、正しい世界の方が多いのが当然じゃない」

 ここにきて恐ろしい思考回路を持ったのが来たわね。これやっぱり私の今日の運勢は最下位確定だわ。

「肉を食べないヴィーガンの考え方が、ねぇ……否定はしないけど肯定もできないわ」

 まぁ、いちいちあれこれ言っても時間が無駄になるだけだろうから、適当な返事だけで済まそうとした。

「なによ、神様だって肉は食べないんでしょ?」

「それどこから出てきた何情報なのかが気にはなる。けど、その認識は完全に間違ってるわ。まず、なんで古来から神への供物に動物が出てくるのかを考えてみなさい。つまりそういうこと。少なくとも私は肉を食べないなんて神には一度も会ったことないわ」

 そもそも神にとっての食事は娯楽なので栄養とか考慮する必要がないから、肉を食べなくても何の問題も発生しないんだろうけど。

「とにかく、神でも人の金で焼肉は食べたいものなの」

「何か余計な言葉が出てきてませんか?」

 助手がそう言葉を挟んできた。自分の金で食べる焼肉より人の金で食べる焼肉の方が美味しいのは自明の理なんだから、余計な言葉ではない。

「……そういう君は肉って食べるの? なんか草食系な顔をしてるけど」

「干し肉は戦場では貴重な携帯食料ですから」

 ダメだ、返ってきた答えの時代が違う。

「まぁ、それはそれとして……そもそもヴィーガンって、卵とか牛乳もダメなのよね?」

「そうですけど」

「アイスもチーズも食べられないのって、生きてる意味あるの?」

「なんか私の生き様がもの凄い否定のされ方してるんですけど?」

「私と君の生き様が正反対なんだから、否定とまではいかなくても相応の齟齬が生じるのは自然現象よ」

 とりあえずそう言っておいて場を濁しておく。調べている間は条件反射に近い形で思ったことがそのまま口に出るから、よくトラブるんだよね。それが自分で分かってはいるけど、もはや直そうにも直せない癖のようなものだから仕方ない。

「おっと、この世界はいいかもしれない。動物愛護をなによりも優先させてるっていう、考えてみるととんでもない世界があったわ」

 調べていく内に出てきた情報を見て、とりあえず詳しい情報をあえて伏せるように勧めてみた。

「つまり、動物たちが殺されないっていうことよね」

「有体に言えば、そうなるかな。どっちかというと、動物を殺すと極刑くらうっていうトンデモな世界なんだけど」

「それこそ理想の世界よ!」

 まぁ、納得してくれたのならなにより。

「それじゃ、その世界に希望通りの能力で転生させる方向で進めるけど、いいわね?」

「いいわよ」

 わりとヤバそうな相手だったわりにすんなり話が進んだのは私としてはありがたい話である。

「……それじゃ、すぐにでも始めるわね」

 スマホに呪文が表示された直後に猫が描かれていたラテを一気に飲み干し、一息ついてからそう宣言して呪文を唱え始める。

「うわー……正直キモすぎて引くわ……」

 そんな声が聞こえてきたけど、もう仕事だと割り切って気にしないことにしてる。比喩抜きで毎日何度も言われてきた言葉ともなると、いい加減もう何の感情も沸かなくなる。慣れって恐ろしい、というかこれって慣れっていうのかな?

 そんな感じで呪文の詠唱は続き、それに合わせる様に彼女を囲む床の円が光りだしていき、その光が一際激しく瞬いたかと思ったら彼女の姿はそこにはなかった。

「……思ったよりは順調にいったから、私の運勢は最下位のひとつ上だったのかもしれない」

「ですから、神に占いの結果が適用されるのかという疑問がですね……それはそれとして、彼女はヴィーガンの方でしたよね、ヴィーガンの方はもう少し攻撃的な印象がありましたが」

「そりゃ、魂のエネルギーを使い切ったようなものだからね」

 そんな助手の疑問に、私はそう答え始めた。

「彼女の死因は病死なのよ。そういう人は生きている間はまともに栄養を摂取することも難しくなるから、命を繋ぎとめるために魂のエネルギーを消費し続けるの。だから死んだ後はもう下手に食ってかかるような元気が残ってないってだけ。あれが事故だの事件だので即死されてここに来てたら、もっと面倒なことになってたでしょうね」

 一番良いのは魂のエネルギーを完全に使い切る天寿なんだけど、そういう人はそもそもここには来ない。

「なるほど……それで、彼女を送ったと思われる動物愛護を優勢する世界でしたっけ、おそらく普通とは程遠そうですが、どういう世界なのですか?」

「ろくでもない世界よ、人間にとってはね。過去にああいうヴィーガンのような動物愛護の精神を掲げてたのがありえないレベルの権力を握ってね、日本でいう生類憐れみの令をさらに極端にしたような治世を行ったのよ。それで動物の殺傷が完全に禁止……というか、極刑レベルの罪状として存在してるってわけ。面白いと思わない? 動物を殺すのはダメだけど、動物を殺した人間は殺していいっていう矛盾って」

「面白いかどうかは置いておくとして、動物が好きな人には特に問題にはならないような話ですけど、あなたがああいう手合いを送るということは相当ヤバい世界ということなんですね」

「私のことが分かってきてるわね。動物の殺傷が禁止っていうのは、言い方を変えれば害獣すらもその対象に含まれることになるってこと。ああいう世界だとまず肉料理は存在しない。なら人間は自然と菜食主義になるわけだけど、肝心の作物を栽培している畑が駆除すら許されない動物に荒らされまくってて、最早自分が必要とする食料を確保するだけでも一苦労っていう問題に真正面からぶつかってるのよね」

 荒らされる畑を前に何もできないのってどういう気分になるのか、ちょっと興味はあるけど経験はしたくないわね。ストレスがマッハしそう。

「さてさて、ヴィーガンだから動物性の食事は取らなくてもいい人間が、植物性の食事すらまともに確保できない世界でどうやって生きていくのか……向こうの神からクレームが飛んでこない限り結果が分からないのは残念ね」

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