第一章 第八話 朝
朝です
目が覚めるが視界は一面黒だった。
「はい3ゥ!2ィ!1ィ!」
「どわぁぁぁぁぁぁ!」
目の前の物がハンマーだと気づき、急いで避けるとベッドから転がり落ちてしまった。ハンマーは先程まで藍の頭があった枕を潰し、ベッドを突き破った。
「ネラ!てめぇ何しやがる!」
ハンマーから出てきたネラに怒鳴る。
「寝顔がカッコ可愛かったからつい…」
えへへと笑うネラは藍の顔を見て嬉しそうだ。恐らく藍の怒った顔もイイじゃないとでも思っているのだろう。それを察した藍は呆れ顔で部屋から出るために扉に近くづくと扉に張り紙があることに気づく。
「どれどれ…」
ベリッと紙をとり内容を確認する。
(扉の使い方を教えるのを忘れていたからここに記す。「俺が居る場所」と念じながら扉を開け。部屋に戻るときも「自分の部屋」と念じればいい、便所とかも同じだ。それとお前の顔がぺっしゃんこになるのが嫌ならネラより早く起きることを強くオススメしておこう。 ラウルより)
「寝る前に言えや!」
藍は紙をグシャグシャにして左ポケットに雑に突っ込む。一言文句を言ってやろうと思いラウルの居る場所と心の中で念じながら扉を開ける。
「おい!ラウル!……」
藍は扉の先の光景に言葉を失う。部屋の天井から前方の壁にかけて覆うようにドーム状のガラスが広がっておりその先には雲海が見える。そこから差し込む光によって部屋を囲んでいる庭の様々な花や植物達は生き生きと生い茂っている。その部屋の中心で優雅にコーヒーを飲んでいるラウルを含め、この部屋は絵画のような美しさだった。
「藍、おはよう。どうだこの部屋は中々に美しいだろう!」
藍に気づいたラウルは嬉しそうに話しかける。
「あぁ…前から思ってたんだがここってどこなんだ?」
藍はここに来た時からの疑問を問う。部屋の扉に行きたい場所を念じ開けばそこに繋がったり、今では相当な高さにあるだろうこの部屋といいこの家?はかなり不思議だった。
「ここはダンジョン龍という魔物の中だ。こいつの体の中はほぼ無限に広がっていてな、その中に俺の魔法で部屋を作って暮らしているという訳だ」
ちなみにこの部屋は背びれの一つにあるんだぞ、と自身満々に付け加える。
「もう驚き過ぎて疲れたよ、座ってもいいか?」
藍はやれやれといった感じで許可をとる。
「どうぞ座ってくれ、コーヒーでいいだろ?」
そう言うと藍の席にコーヒーの入ったカップが現れる。
「リンゴもお願いしま~す」
いつの間にか藍のポケットに入っていたネラが片手を挙げて注文する。藍は突然のネラの声にビクッとしてしまう。
「あぁ分かってるよ、ほら」
ラウルの言葉と共にテーブルの上に山盛りのリンゴが乗った皿が現れる。ネラは「頂きまーす!」と言うと元気よくポケットから飛び出し、リンゴにかじりついた。
「それってスキルなのか?」
席に着き、コーヒーを少し飲むと藍は聞いた。
「《召喚》と言うスキルだ、使用者の魔力と引き替えに様々な物を呼び出せる。例えばこんな物もな」
ラウルの手に新聞が現れる。
「今朝のサタアナの新聞だ、見てみろお前の事が乗ってるぞ。」
渡された新聞に目を通す。ここだとラウルに指差された大きめに書いてある文から読む。
(サタアナ収容所からユニークスキル保持者が逃亡!今だに見つかっておらず拷問官も一人行方不明となっている事から殺害もしくは、共謀したと思われる。捕まえた者にはコルノス王国から1000枚の金貨が支払われる事になっておりそれに加え王国からスキルも授けてもらえるそうで……)
文章はまだまだ続いているが他の部分に目が行ってしまう。
(本日昼過ぎから異世界人召喚をサタアナコロシアムで実施いたします。参加を希望する方は金貨50枚をお持ちの上、受付までお越しください。強力なスキルを手に入れて戦争に勝ちましょう!)
あれで終わりだった訳じゃない。今日もあの場所で殺戮が行われる。藍の顔はあの時を思い出したのだろう、怒りを露わにしている。それに気づいたラウルは力強い口調で言う。
「藍、《破壊》は怒りからも生まれたスキルだ、お前の心と共鳴してより強い力を発揮するだろう。決してその怒りを忘れるな」
藍は静かにうなずくとラウルに問う。
「ラウル、マリーグルまであとどれぐらいだ、もし時間がかかるならあの部屋で腕を磨いていたい。」
クックックッ、と笑いラウルは答える。
「あと2時間程かかる。良い心意気だ昨日より人間のレベルを上げる、存分に殺すがいい」
「分かった」
それを聞くと藍はコーヒーを一気飲みし、リンゴを完食して机の上で大の字になっていたネラを右ポケットに突っ込んで扉へと駆け出す。
扉のドアノブを握った藍の手には人間への殺意と憎悪が込められていた。
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