第一章 第七話 熱血指導と作戦会議
「654!」
防御をとった男の体を武器ごとハンマーがすり潰す。辺りは同じような肉片や血で出来た山で溢れかえっている。
「はい次ィ!左内側から抉り取るように下から上に振り上げるゥ!」
藍の血まみれのポケットではネラがシュッ!シュッ!とシャドウボクシングのような事をしながら指示を出している。
「分かってる!これで655!」
ネラの指示を受ける前に同じ行動をとっていた藍は左後ろにいた人間へ振り返りながら遠心力を加え、左内側から体をハンマーで引き潰した。
「アウトッ!体重も加えろこのアホッ!ってあっちにイケメンがいる!はやく!はい、潰すゥ!」
的確な指示をしながらもイケメンに気がつくとすぐに潰せ、と命令してくる。さっきもイケメンを潰したがどうやらこの妖精、イケメンを潰すことに快感を得ているようだ。いきすぎたイケメン愛がこの妖精を狂わせてしまったのかもしれない。そんな事を藍は思いながら最初の頃の力に頼ったものとは違う自然な動作でイケメンを顔面から叩き潰す。
「うわっ、ヤバっ今の顔最高なんだけど」
そんな事を言いながら少し頬を赤に染めている。次のイケメンを潰さないとイケメン認定された自分がミンチにされるかもしれない、そんな予想が藍のハンマーを握る力を更に強めさせる。
「今ので656人、残るは後4人か」
ザッと4人の人間がにじり寄ってくる。女と男が2人ずつ、残念ながらイケメンと判断出来るほどの顔面は持ってはいない。マズイ…と焦りが顔に出る。
「別にアイは潰さないヨ~潰したいけども」
そんな藍を見たのかネラは言う。
「藍を潰したら人間のイケメンは潰せなくなるぞ、ってラウルにコソッと言われちゃったんだよね~人間のイケメン全員潰すまで安心してよしッ!」
一瞬俺を認めてくれて潰すイケメン枠から外れたのか、と期待した藍だったがすぐにそんな希望すらも潰される。まさに潰しのプロである。
「それまでに俺の事を認めさせてやる、そしたら俺をイケメン枠から外せ」
藍は心からの願いを口にする。
「アイが病んでる系のイケメンから俺様系イケメンに変わったッ~!?ヤバイッ!潰したい!」
何をしても無駄な事を悟り、ダガーで斬りかかってきた女を頭から容赦なく潰す。今の藍には女も男も関係ない、コロシアムにも女がいて元いた世界の人達を襲っていたのを見た藍にとっては等しく復讐の対象なのだ。
「よ~し!アイのイケメン度が上がったところでトリプルいってみよ~!」
ネラの指示に従いハンマーを横になぎ払うように振る、3人は為す術もなくひき肉に変わった。
「やっと終わったか…総合的な評価はどうだ?」
ハンマーを膝をついている死体に立て掛け、その横のあちこちが吹き飛んだ死体の小山に腰を掛ける。
ネラはポケットの中で腕を組みうーんと唸る。
「まぁまぁってとこかな~イケメン潰しに関しては100点アゲちゃうよん」
キラッとウィンクしてくるが言ってることは恐ろしい。
「終わったようだな…ふむ、なかなかの殺しっぷりだな先程とは別人のようだ」
ハンマー技術についてネラと話しているとラウルが歪んだ空間から首を出し辺りを見渡しそう言う。
「部屋に戻るぞ、話したいことがある」
その言葉に従い歪んだ空間に入る。抜けた先は最初の部屋だった。家具の配置が変わっており部屋の中央に置かれた木の机の上には地図らしきものが広げてある。
「お前血肉まみれだな、《クリーン》。よし椅子に座れ。ネラ、お前の好きなリンゴを沢山用意しといたぞ」
ラウルが《クリーン》と唱えると体中の血や肉片、拷問の時からの汗や汚れが取れていく。集まったゴミは黒い穴に吸い込まれ消えた。
藍は既にこの世界に適応しつつあり並大抵の事では驚かなくなっていた。疲れもあり大人しく椅子に座る。
「やった!リンゴ!そんじゃゴチになりまーす!」
ネラは机の上に置いてあったリンゴに飛びかかり芋虫のようにリンゴを貪っている。
「あの短期間でよくここまで強くなったな、実を言うと最初はもう3セットぐらいを予想していたんだぞ」
ラウルは椅子に着くとクックックッと笑い藍を褒める。
「あいつともう3セットも一緒にいたら間違いなくミンチになってたな…」
藍はしみじみと語る。
「な~に~か言ったか~?」
ネラが食い破ったリンゴの穴からゆっくりと出てきてそう言う。長い髪で顔が隠れ某ホラー映画のようになっている。
「なんでもない、リンゴでも食ってろ」
「あっ!リンゴ!それでは2個目突入いたしま~す!」
髪を払い新たに見つけた2個目のリンゴに直行する。既に1個目のリンゴの中は空洞になっていた。あの小さい体のどこに入っているのかは謎である。
「藍、聞け。お前の戦争に参加するという案を採用させて貰うぞ。まずお前の収容されていたスタアナ近くの前線には参加しない、あの王子に見つかる可能性が高いからな。そこでお前に行って貰うのは2番目に前線に近い町マリーグルだ。」
ラウルが机の上の地図のマリーグルと書かれている部分を指さす。マリーグルはこの世界の最西端に位置しているようだ。
「この町を人間殲滅への第一歩とする。お前が前線で人間共を皆殺しにして注目を集めている内に俺が裏から破壊工作を進める。ある程度人間が減ってきたら魔物を使って他の前線から来た奴らの足止めと本格的な町の破壊を行う。その時はお前にも参加して貰うぞ」
「望むところだ」
藍は不敵に笑う。
「ヤバイ!イケメーン!」
「黙れ」
ネラのイケメンラッシュが始まろうとするが藍がすぐに止める。
「明日にはマリーグル近くに移動するからな、今日はゆっくり休め。」
ラウルがドアを開けるとシンプルな感じのベッドだけが置いてある部屋と繋がった。
「お前の部屋だ、物をおくなり自由に使うといい。」
「すまない、ありがとう。それじゃあおやす―」
「あっ!ちょい!私も入れろー!」
藍が部屋に入るとネラとハンマーが部屋に入っていきベッドの横を陣取った。
「ア~イ、いらっしゃ~い♡」
ハンマーの上に座りセクシーなポーズをネラが取っていると藍はネラごとハンマーをベッドの横の下に移動する。
「恥ずかしがりやなイケメンもいいや~ん」
そう言いながらベッドの下に消えていくネラの表情はまたまた赤くなっていた。
「クックックッ!仲が良いようで何よりだ」
ラウルは嬉しそうに笑う。
「それじゃあ良い夢を」
「あぁ、良い夢を」
それを聞きラウルは扉を閉めた。
この日藍は初めてこの世界にきてまともな睡眠を取ることが出来た。
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