第一章 第五話 決意と力
魔王と会いました
あちこちにある蝋燭の灯が部屋をぼんやりと染めている。二人の人物が椅子に腰を掛け何かを話している。そのうちの一人の、灯に照らされた美しい顔は苦しそうに歪んでいる。
俺は魔王から全てを聞いた。この世界の人間はスキルを奪う事ができ、その行為に快感、満足感を覚え生涯を通して他者を殺して奪い続ける…
魔族を殺し尽くしても止まらない、ついには人間同士で殺し合い、奪う為の力を得るために俺や異世界の人々を召喚し奪った。
(そんな、そんな理由で皆は殺されたのか…スキルなんかの為に、しかもそれを楽しんでいた…!)
藍の目から涙が流れる。自分にとって大切な人達がくだらない理由で、自分の欲望を満たすために殺された。こぼれ落ちる涙には悔しさも含まれている。
「悔しいか?」
藍の正面に座っていたラウルがそう聞くと藍は声を荒げる。
「当たり前だろうが!こんな事されて悔しくならない分けないだろ!あんた――――」
「復讐したくないか?」
ラウルの言葉に藍は黙る。
「どうなんだ?お前はやられっぱなしが好きなのか?それなら仕方ないが…」
ラウルの言葉が藍の心を確かなものにする。
「……やってやるよ…」
藍の低い声が部屋に響く。
「この世界の人間を皆殺しにしてやる…!この答えで満足したかよ!おい!」
ラウルは組んでいた足を変え、閉じていた目を開く。
「クックック、大満足だ!その言葉を聞きたかった!藍、俺と協力しろ。お前の望みを叶えてやる」
ラウルはそれはそれは嬉しそうに笑い、再び問う。
「迷いも、心変わりも無いな?」
「当たり前だ、俺の意志は変わらない」
藍は当然だと頷く。
するとラウルが勢いよく椅子から立ち上がり、藍に近づいて右側頭部と右肩をガシッとつかむと口を開く。
「ならば契約成立だ、俺の力を与えよう」
ラウルは口を大きく開き、その鋭い犬歯を藍の首に突き刺すと、ゴクンゴクンと血を飲んでゆく。
「ぐあっ!何をする…!」
藍は抵抗するが力が上手く入らずラウルに血を奪われ続ける。みるみるうちにただでさえ白かった藍の肌が青白く変色していく。
「ううっ…苦しい…」
藍は力が抜けたようにしゃがみ込む。
「さぁ、次はお前の番だ俺の血を飲め」
ラウルも同じようにしゃがみ、自分の首を差し出し、吸え吸えと迫る。
(…………欲しい………血が欲しい…!)
藍の体が失った血を取り戻そうとラウルに噛みつく。木の床に血が滴る、ゴクゴクと血を飲み藍の肌色が青白から白に徐々に戻っていく。だがその肌はラウルと同じく不気味な感覚にさせる白色だった。
「ふむ、成功だな。これでお前も俺と同じ《吸血鬼》だ。どうだ気分は?」
「……あぁ…最高の気分だ…世界が手に取るように感じられる」
そう言った藍の表情はどこか満たされており、淫靡な雰囲気すら出している。
「《不死者》のおかげか《吸血鬼》との相性も良いようだな。進行も既に終わっている…素晴らしい力だ」
ラウルはクックックと笑う。
「この力があれば何でも殺せそうだ…早く俺に人間共を殺させろ」
藍は急激な力の奔流か、殺意が溢れだす。
「そう焦るな、じっくりと行こうじゃないか。それにまだまだ与える物事がある、ついて来い」
ラウルは「じわじわと殺すというのも良いもんだぞ」と付け加え藍をなだめると背を向け部屋の扉に歩みを進めた。
ラウルの開けた扉の先に出る。そこは、天井は夜のように真っ暗で白い床がぼんやりと光っている、一面石で囲まれた幻想的だが殺風景なとても広い部屋だった。
「ここは…」
そう呟くと100メートル先位に人らしき影がある事に気づく。
「なぜグラスがここにいる?」
いたのはグラスだった。あの時のキマッた顔のままで立ち尽くしている。
「あいつにはまだ利用価値がある、それに藍も恨みを晴らしたいだろう?かなりの間拷問されていたようだしな」
そう言ったラウルの笑顔はまさに魔王であった。
「なるほど、グラスを使って力の使い方を教えるということか」
藍もラウルの考えに気づくとこれまた悪い笑みを浮かべている。
「その通りだ!戦う事を覚え、更に恨みや怒りまで晴らせる!中々良い考えだろう!」
クックックッ!とラウルが笑うと指をパチンと鳴らす。
「そしてこれがお前の拷問器具だ」
ラウルと藍の前に一つのハンマーが空間を揺らめかせながら現れる。
そのハンマーは完全に姿を現した瞬間、吸い寄せられるように藍の手に収まった。
「ふむ、所有者に認められたか。俺の見た通りお前は《破壊》のスキルを持つ者で間違いないようだ」
ラウルは感心した風に呟く。
「それはなんだ?初めて知ったぞ、どんな能力なんだ?」
藍は食いぎみに聞く。《破壊》なんて名前からして殺すのにうってつけのスキルじゃないか!といった感じだろう。
「お前声を聞いていなかったのか、まあいい《破壊》のスキルとはかつて魔族の始祖が所有していた文字通りあらゆる物を破壊するスキルだ、だがこのスキルの特筆すべき点はそこじゃない」
そこでまで言うとニヤニヤとラウルは笑い、言葉を続ける。
「このスキルはな、人間への絶望から出来ているんだ」
藍はかなり曰わく付きのスキルを手にしてしまったようだ。
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