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不死の破壊者  作者: 浅瀬
第一章 新しい世界
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第一章 第四話 拷問官、ネズミ…


 冷たい風が石の隙間から流れてくる、藁の山に潜り込んでなんとか寒さをしのぐ。この場所に送られてからどれだけの時間が経っただろうか。そんな疑問が浮かぶ。藍は暗い部屋の中、部屋の隅を見つめ考える。永遠に続く拷問から時間の感覚は完全に失われていた。

 

 ミラークの「《不死者》の心は殺せるか」という疑問の答えは限りなくイエスに近かった。


 脚を切り落とされても、皮膚を剥がされても、内臓を抉られても藍は死なない。次の拷問が始まる頃には完治してしまうからだ。体が再生する事に最初は驚いた藍や拷問官だったが、更に調子に乗った拷問官がヒートアップし、元の生活をしていたら到底経験することは無いであろう拷問の恐怖と激痛を与え、そんな驚きはすぐに吹き飛ばされた。果てしなく続く拷問…藍の心が壊れるのは時間の問題だった。


 (皆に会いたい……)


 弱った心から言葉がこぼれる。そして大切な人々の事を考えるとそれを奪った男を思い出してしまう。皮肉な事にも今の藍の心をなんとか繋ぎ止めていたのはその男だった。もちろん復讐のための殺意と憎悪だが…


「チュー、チュー」


 ボーッと見ていた部屋の隅にある穴からネズミが出てくる、チチチと藍が言うとこちらに寄ってくる。


「よしよし、良い子だ」


 彼とはこの部屋に入った頃からの仲である。藍が未だ正気を保ち、人間性をなんとか失っていないのも彼という癒やしの存在が一役買っていたのだろう。


「おい、入るぞ」


 藍が彼を可愛がっていると、野太い声が扉の向こうから聞こえる。扉が開くとパンを持ったガタイの良い筋肉質な男が入ってきた。


「ちゃんと食えよ?綺麗な顔してて引き裂き甲斐があっても元気な悲鳴が聞けねーと楽しくねぇからな!ガハハ!」


 そう言って無造作にパンを投げる。なんとも品の無いこの男は藍の担当となった拷問官のグラスである。自分に無い品を持ち、中性的な美しい顔立ちで、かなりのイケメンである藍が気に入らないのだろう、グラスによる拷問は地獄と化していた。食事まで管理されこの男に生かされている、そんな状況が嫌で藍はグラスを無視し無言でパンをちぎり、ネズミに与える。


「フン!無視か、ってそりゃネズミか?寄こせ、そいつらはすぐに増えて食料を食い散らかすんだ、俺が処分する」

 グラスはそう言い藍からネズミを奪おうとする。

「ま、待てっ!」


 藍がグラスを止めようとした瞬間、ネズミが高速で移動し、迫っていた手から逃れグラスの口に飛び込んだ。


「ぐえっ!苦し、苦ひい!」


 グラスは喉を抑えもがき苦しむ、バタバタと動き何とか吐き出そうとするが健闘虚しく抵抗をやめ、動かなくなった。


 藍が突然の出来事で戦慄していると、ピクッとグラスの体が動き、ゆっくりと起き上がった。


 グラスの目は焦点が合っておらず、口からは涎がだらーっと垂れている。他の人が見たら完全にキマッているという判断を下すだろう。


「はぁーやっとか、藍、俺についてきてくれ」


 ボケッと開いている口からグラスのものではない声が発せられた。口調も全くグラスではない。驚いた藍だったがネズミを飲み込んだ後、からかってやろうとくだらないことでも考えたのだと思い不機嫌な声でグラスに話す。


「おい、ふざけるな。やたら気合いの入った演技は認めてやる、だがお前みたいなのがこの部屋に長くいるとヘドが出そうになる、分かったらさっさと失せろ」


 普段のグラスならこの言葉で怒り、そのまま地獄の拷問コースだろう。しかし予想とは違う言葉がかけられる。


「お前をここから助け出してやる、俺について来い」

 力強い声で伝えられる言葉に耳を疑う。


「あんた誰だよ」

 予想外の言葉と本気で言っていると分かる声から思わず聞いてしまう。


「この体の男では無い事は確かだ、ヒントとしては魔物を統べる者だな」


 まさか魔王か?と考えていると魔王?がついて来いと部屋から出て行ったので警戒しながら一緒に部屋を出る。

 ネズミを飲み込んだ男の声人格が変わるという非現実的な状況が藍に得体の知れない希望のような物をもたらしたのか、藍に信じるということをさせていた。


 途中、他の拷問官と遭遇したがその時はグラスの声と口調で対応した。やっぱりグラスがふざけているのでは?と考えたが、眼球を突き破ってネズミが飛び出て来たのですぐにそんな考えを捨てた。


 ネズミを目から生やしている人物について行くと、いつもの拷問部屋に到着する。この魔王?、俺を拷問するつもりかという考えがよぎる。


「ふむ、ここでいいか?よし、こいつに入ってくれ」

 ネズミに指示されるという恐怖体験に耐えながらグラスの力無い指が指す方を見る。そこは肉片や死体を捨てる焼却炉の扉だった。


「わ、分かった」

 恐る恐る足を入れるとグニュッとした感覚が伝わる、拷問や自分の体が無限に治るという体験からグロに耐性があるが、死の匂いを纏う死体には耐性がない。足がそこで止まってしまうと、早くしろ、とネズミにせかされる。抵抗感を覚えながら体を入れる。するととんでもない勢いで死体と肉片の中に藍が吸い込まれた。情けない声が出てしまうが体は引きずり込まれ続ける。


 しばらくして体に死肉の感触を感じなくなり、目を開ける。そこは死体どころか肉の一欠片もない、ほんのり明るく、暖かい感じでアンティークな内装の部屋だった。その部屋の中にある椅子に座っていた人物がこちらを向くと立ち上がる。

 

 身長は180センチある藍より少し高く、顔も藍と同じくらいかなり整っている。髪の色は美しい金髪だが癖っ毛でかなりモジャモジャしている。そして目を引く恐ろしく白い肌、血のような真紅の瞳、不気味なまでの美しさをもった男……藍は直感的に悟る、この男が「魔王」だと。


「ようやく会えたな、さっきの質問の答えを教えよう。ラウル・アーテル、別名魔王だ」


 後の人間の世を破壊する二人が、ついに、出会ってしまった。


 

 




 



 

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