第二章 赤ずきんちゃん②
吸血鬼vs狼人間!
薄暗い森の中、矢は突き進んでいく。真っ直ぐに真っ直ぐに突き進んでいく。たが彼女には届かない。まるでそこに矢は無かったとでも言うように忽然と姿を消す。
「その妖しい魅力に鋭い牙、そして特徴的な赤い目。あなた吸血鬼ね…お姉さん」
少しばかり低くなっている少女の声は平然とその場に立っている狼女から発せられている。
既に矢を5本も放たれているが一歩も動かずにこちらの観察をしている狼女にディアナは動揺し、返事を返す事が出来なかった。
(こいつの能力はなんだ!?てっきり狼女になってパワーで押してくると予想していたが全くの逆!1ミリも動かないし、不気味な程何もしてこない!)
戦いにおいて敵が全く行動を起こさないというの事程恐ろしい物は無い、相手の行動からスキルを読み取れないからだ。
少しでも手がかりを手に入れようとディアナは狼女の体やその下の地面を隈無く見渡す。だがどこも戦いが始まる前と変わりはない。
(矢はもちろん刺さってないし、地面にも落ちてない。はっきり言って異常だ!スキル!こいつはユニークスキルを使っているに違いない!)
「どうしたのさ、お姉さん。何かお探しかい?あぁ、そう言えばねぇ…途中で良い物を拾ったのさぁぁ~??興味あるでしょ~?」
「良い物…?」
「そうさ、とっても良い物だよぉ~!お姉さんも絶対に気に入ると思うんだよぉ~!」
そう言うと二人の間の籠がカタカタと動き出す。ディアナの方を向き、蓋が開くと中の物が見えた。
「これは…こんな物は!さっき見た時は無かったぞ!!」
開いた籠の中には人間の耳と思われる物が入っていた。千切られたようでその切り口からは、血が流れている。
「この耳の持ち主はさぁスンごいカッコよくてさぁ…どうしてもこの人の物が欲しい!って思ったから耳、貰っちゃったのよねぇぇぇ??」
ディアナの目で追えないレベルの速さでゆっくりと途切れ途切れで歩いてきた狼女は籠の前に来るとしゃがんで籠に手を伸ばす。
耳を人差し指と親指で挟み持ち上げると耳から垂れている血を舐め始めた。
「引き千切ってあげた時の声も最高でぇ…「ディアナ!ディアナァ!」って泣きながら叫んでたのよねぇぇぇ?私その声聞いた時我慢出来なくて心臓を抜き取ってあげたのよぉ~」
「おい、よこせよ」
「は?なんてぇぇ~?もう一回言いなさいよぉぉ~!」
「よこせ、と言ったんだ。藍の耳は私の物だ」
ディアナはいつも通りの顔だ、怒りもさっきまでの動揺も無い。十中八九藍の物だと思われる耳を前にしてその態度は不気味にも普通だった。
「はぁぁ?何であんたにあげなきゃなんないのよ?欲しいとか言うならそれなりの物を用意しなさいよ」
狼女は次の瞬間、ディアナの行動に言葉を失った。
ディアナはそれを聞いてすぐに自分の耳を後ろから前に、引き千切ったのだ。
耳は比較的に千切れやすい物である、後ろから前の方に引っ張ってやると思ったよりも簡単に千切れてしまう。だがその行為には少なからず勇気がいるだろう、やろうと思ってすぐに出来るような事では無いはずだ。
「ほら、よこせよ」
ディアナは自分の耳を狼女に差し出す。その顔には冷や汗一つかかず、氷のような眼差しが狼女を突き刺すだけだった。
「ヒィィィィ!お前おかしいぞ!」
狼女は恐怖した。自分の耳を躊躇いもなく引き千切り、それをした後も顔色一つ変えず未だこの耳に執着するこの女がどんな者よりも恐ろしかった。そのせいで腰を抜かしてしまう。
「くれよ…ほら、私のをやるからさ。な?いいだろ?ほら、早くしてくれ、早くしろ、早くしろつってんだろが!このクソワン公がッ!」
ディアナは自分の耳を狼女の目玉に押し込むようにして抉り入れる。狼女の悲痛な叫び声が森に木霊する。
「テメェのこの無駄にデケぇ耳は何のためにあるんだよ?人の話を聞くためにあるんだろうが!分かったら早くよこせやぁッ!藍の耳も血も私の物なんだよぉぉ~!さっさと渡せやぁ!」
ディアナは抉り抜けた手でそのまま力の緩んだ狼女の指から耳を奪う。すぐに耳からでる少ない量の血を舐め始める。
「この味は藍の味だ…素晴らしい味だ、流石私の旦那様だ…でもよぉ~??なんか量が少ねぇんだよなぁぁ!?」
ディアナは狼女の口に思いっきり自分の腕を突っ込む。押し倒し、両腕はディアナの強靱な脚力で踏み押さえられているのでもがく事しかできない。
「“願望”レベル3…物体貫通…」
ディアナは言葉と共にまるで袋の中の物でも探すかのように狼女の体の中で腕を動かしている。
「これは心臓、これは肺…こっちは肝臓かぁぁ~??死ぬ前に藍の血が入ったお前の臓器を全部貰ってくぞコラァ!」
狼女はまさに号泣…では無かった、戦いに勝利した。そんな勝者の顔をしている。
「ふぃぬのは、ほあえだ」
「なっ…!?」
ディアナの体が彼女の放った矢と同じく、そこに無かったとでも言うように姿を消した。
狼女はゆっくりと起き上がると、恐る恐る自分の目に手を当てる。ディアナの耳を抜き取ると木の下の暗闇に向かって放り投げた。すると耳が消失する。
「ハァハァ、あのクソ女…許せない…が、勝利した!“願望”とかいったスキルは私の物だ!ハッハッハッ!」
狼女は自分の腹を摩りながら満足そうに高笑いする。
「このユニークスキル“闇操り”は無敵だ!私の喉奥の暗闇に触れた瞬間にお前は負けたんだよ!バカ女が!ゆっくりと飛ばされた私の“闇袋”で溶かされていくといいさ!」
狼女は笑いが止まらない。戦いの疲れからか横になる。
「疲れたな、体が重くなってきた…少し寝るか………!?」
横になり仰向けになった時、女は自分の腹が異常に膨らんでいるのに気づいた。
「私の闇袋がおかしい!あの女!何しやがった!!??」
狼女の上顎と下顎にこじ開けるようにして掴む手が口から出てくる。這い上がるようにしてディアナが出てくる。狼女の口は驚きとディアナの出口となった事で外れたようで、塞がらないようだ。
「ほあえはにひやがっは?!」
「あぁ?何だってぇ?テメェ耳も悪けりゃ言葉も喋れなくなったのか?私はお前と違って性格も耳も良いからなぁ~、質問に答えてやるよ」
狼女は文句を言いたげだが膨れるのが全く止まらない腹のせいで呼吸もできず上手い事話せない。そんな事を気にも留めず、ディアナは自分の所業を悠々と話す。
「吸い込まれた瞬間は焦ったぞ、でもお前の闇袋だっけか?あれに入った瞬間に昔読んだ童話を思い出してよぉ?石を“願望”で増幅させて詰め込んだんだよ…私の錬金で作った石化石をさぁ…」
「んぐ!?んぐぐぐぐぐぅ~!!」
「んで最後にお前の無敵の闇袋をレベル10の“願望”を使って脱出したってわけさ」
狼女は涙目になりながら何かを言っているがもう言葉にもなっていない。ディアナはそれを無視して、胸下のポーチから白い小瓶を取り出す。
「闇袋が破裂した瞬間にお前は意識する間もなく石化するだろう…だが安心しろ…助けてやる」
石化は動けないだけで意識はあるのだ、狼女もそれは知っていたようで「助けてやる」という言葉に涙を溢れさせて喜びを表している。
「私は派手な事が好きなんだ…特に爆発とか素早く貫くとかそういう事に心惹かれるんだよなぁ」
狼女の腹から破裂音がすると膨れは収まり、萎んでいく。それと同時にその巨体が石化していく。1秒も経たずに全身が石化する。狼女の流した涙まで石化し、完璧に沈黙した。
「物が戻ろうとする時のエネルギーは凄まじいよなぁ…ぶっ壊す時の派手さも大好きだがそれにもまた良さがあるんだよなぁ」
ディアナは小瓶から一滴、液体を狼女の石の体に落とす。
「助けてやるぞ、略奪の欲望からな」
狼女の体が粉々に砕けていく。バラバラになった石はパスン、パスンと気持ちの良い音を立てて更に細かくなっていく。
砂のようにサラサラになった狼女の石の体は森の風に乗り、木々から差し込む光の元へと飛んでいった。
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