第一章 第十一話 気の合う二人
俺は動けなかった。彼女の美しくも凍てついた瞳に映る自分は苦しそうだ。
「母さんの《破壊》を何でお前が持っている!理由を話せ!」
ディアナはその言葉と共に藍の首を掴み締め上げる。藍は苦しそうにもがくが手の力は弱まる事を知らず強くなっていく。
「ディアナ!やめろ!藍は新たな継承者なんだ!」
ラウルが叫ぶ。
「こいつが継承者…?」
ディアナは藍を壁に叩きつけるように放り投げる。解放された藍は咳きこんでいる。
「藍!」
ラウルは壁にもたれ掛かっている藍に駆け寄る。
「母さんはなんでそいつに……」
「恐らくだがアリスは俺達を起こすために藍を《破壊》の継承者に選んだのだと思う」
「そうだったとしても…!人間共を皆殺しにするのは私の役目だったのに…!こいつなんかにこんな雑魚に出来る訳がない!」
ディアナは悔しそうに藍を睨む。
「アリスはいつも未来を見据えて行動する奴だった、お前も知ってるだろ。きっと藍に渡したことにも意味がある」
ラウルは確信したように言うと藍の背中を擦り、「大丈夫か?」と介抱する。
「もういい、大丈夫だ…」
藍は息を整え立ち上がるとディアナを睨む。その表情は怒りに満ちている。
「俺には出来ないとか言ったか?だかな継承者だかなんだか知らないが俺がそのアリスとやらに認められ、《破壊》を手に入れたんだ、つまりお前よりも俺の方が優れていて人間共を殺すのに適任だということだ分かったか?クソ女」
藍は、キレていた。
藍は本来暴力や他者を傷つける行為は好きではない。だがこの世界での理不尽な暴力が彼の表面やこの世界の者達に対する対応を変えただけで、彼の深い奥底にあるその考えは変わってはいなかった。
質問に答えると首を絞められ、雑魚呼ばわり、さらには自分が成すと決めていた人間への復讐までダメ出しするといった一方的なディアナの行為は藍の怒りを買うのに十分なものだった。
「今、何て言った…?」
ディアナから更に強い威圧が込められる、その中には殺気も含まれている、その威圧のせいか部屋の植物達も少しづつ枯れていってしまう。
「お前みたいな出来損ないより優れている俺の方がアリスに認められたと言ったんだ、理解できたか?バカ女」
ブチッ!っと何かがちぎれる音がした気がした。ディアナは肩に担いでいたその巨大な弓を構え矢をあてがう。
「全力を出して私と戦え。全て叩き潰して今の言葉を泣きながら否定させてやる」
「望むところだ、世界を終わらせる者だろうがなんだろうがぶっ潰してやるよ」
藍が壁に立て掛けていたハンマーの方に手を向けると、ハンマーが一人でに動き出し藍の手に収まる。
ディアナがこちらに弓を向けると同時に藍がハンマーを上段に構え一歩踏み出す…
が、そこで二人の体は固まってしまう。
「チッ!またこれかよ!《吸血鬼》のスキルなんか受け継ぐんじゃなかったぜ!」
興が冷めたのかディアナは止まった体の中、口だけを動かし悪態をつく。
「二人とも少し頭を冷やせ。ディアナ、お前には何度も言ったが思った事をすぐ口に出すな。藍も家族を人間によって奪われている、その想いなら私達にも負けない。藍を認めてやってくれ」
ラウルは二人の間に立ち、なだめるように言った。フッと二人から力が抜け動けるようになる。
「!………クソがッ!…そんなの知らねーよ…!」
そう言うとディアナは動き出し、弓を肩に担いでドカドカと不機嫌そうに歩くと扉を開いてこの部屋から出て言った。
「藍、あいつはアリス…母親が大好きでな、母親の持っていた《破壊》を受け継ぐのは自分だと思っていたんだ。だからそれをお前が受け継いで取られたと思って怒ってしまった。母親の事になると暴走してしまうし乱暴だが根は良い奴なんだ。藍の怒りも分かる、だがここはあいつの事を許してやってくれないか?」
ディアナの出て行った扉を見ながらラウルは寂しそうに言う。
「……分かった、今日はやめておく。だが次は止めるな」
藍はハンマーを肩に置いて、床で死んだように倒れているネラをポケットに突っ込むと「あの部屋に人間共を出してくれ」と言い、部屋から出て行った。
「はぁ…どうしたものか…」
天井のガラスは割れて床に破片が散乱し、植物達も枯れ果て、静かになった部屋に一人、ラウルはこれからの事に頭を抱えるのだった。
その頃いつも藍とネラが人間を使ってハンマー技術を高めている練習部屋ではラウルの悩みの種達が遭遇していた。
「おい、なんでお前がここに入ってくる、ここは私の練習部屋だぞ」
「ここは俺の練習部屋だ、さっさと出て行け」
この二人は人間を殺すという共通の目的の為に協力出来るのだろうか…
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