第一章 第一話 人間達の世界
18年前、魔族と人間の四世紀に渡った長い戦いは人間の勝利という形で幕を閉じる。
「他者からスキルを奪い獲る」ことのできる人間と、優れたスキルを持つ魔族との争いは、どうしても止めることは出来なかった。
戦争初期は優秀なスキルを持つ魔族が優勢だったが、徐々に数で勝る人間が魔族のスキルを奪いその力をさらに増し、戦争が始まって100年が過ぎる頃には既に状況は逆転していた。
人はその能力の性質からだろうか、良心の欠片も、一切の妥協もなく降伏した街や村にいる無抵抗の魔族の女子供一人残さず殺し、奪いつくした。それらが積み重なり魔族は数を大きく減らし、戦争はさらに魔族が不利な状況になっていった。
そんな事が300年、戦争はついに魔族最後の生き残り、「魔王」の討伐をもって終わりを迎えた。
だが人間の欲望はその勝利を持ってしても満足することは無かった。魔族から奪いに奪い尽くした人間は欲望の矛先を、同じく魔族から奪い尽くした人間に向けた。
元々魔族との戦いのためだけに協力していた「イガルス」「コルノス」両国は2年前、何の躊躇いも無く戦争を始める。
しかしお互いの力が拮抗し、奪い、奪われ、戦争はどちらの手にも転ばない。イガルスの上層部はこの状況に業を煮やし、ある策を考えつく。
かつて魔族との戦いで猛威を振るった「勇者」。彼ら、異世界の人間達はそれだけで戦場をひっくり返すことのできるスキルを多く持っていた。勇者召喚呪文を少し改良し、多くの異世界人を1度に召喚する事にイガルスは成功する。
異世界人から奪い獲ったスキルはすぐに戦場で用いられ、その強さからコルノスも異世界の者達の力が使用されていることに気付き、同じ策をとる。
コルノス領の中でも最も前線に近い街「サタアナ」では今日も召喚が行われる。街の中心にあるコロシアムの観客席では、今か今かと、召喚を待つ人達で溢れ返っている。酒や食べ物を片手に、宴会をしている人達の顔は今から起きる事を想い、邪悪な笑顔で歪んでいる。ガヤガヤと賑わっていると、コロシアムの中央がカッ!と光り、砂煙の中から100人ぐらいの、この世界には無い服装をした人達が現れる。
この世界の住民にとっては至福の時間が、異世界の人間にとっては地獄の時間が今、始まった。
評価や感想がありましたら、是非お願いします。