表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

Act.1-02

(これが……、噂の幽霊……?)


 不思議と、恐怖心は消えていた。

 代わりに、遥人は呆然として、しばしの間、少女を凝視する。


 少女もまた、黙って遥人を見つめ返していた。

 長い睫毛を時折瞬かせ、しかし、すぐに思い立ったようにゆっくりと遥人に近付くと、白い手をそっと伸ばす。


 遥人の頬に、ひんやりとした感触が伝わってくる。

 相手は幽霊だから肉体は持っていないと思っていたのに、少女は確かに、遥人に触れてきた。


「ああ……」


 少女から、微かな吐息が漏れた。


 遥人はなおもそのまま立ち尽くす。

 すると、少女はもう片方の手も伸ばし、遥人の顔を挟み込んだ。


「――やっぱり……」


 夜の静寂に溶け込んでしまいそうな声音で、少女は囁く。

 だが、遥人には、少女が『やっぱり』と口にした意味が分からない。


 訝しく思いながら首を傾げる遥人に、少女は哀しげな笑みを向けてきた。


「まだ、想い出して下さらないのですね……?」


 少女の言葉に、遥人はさらに戸惑いを覚えた。


 少女とは初対面。いや、そもそも幽霊と関わりがあるはずがない。

 しかも、少女の姿を見る限り、遥人が生まれるずっと昔の人間だ。

 想像するに、数十年――いや、数百年は経っているはず。


「あのさ」


 遥人はおもむろに口を動かした。


「俺、あんたとどこかで逢った?」


 遥人の問いに、少女は曖昧に笑う。

 やはり、どこか淋しさを帯びている。


「――運命とは、非常に残酷なものです……」


 少女がポツリと呟いた。

 遥人を知っている理由を教えてくれるのかと思ったが、少女の口から出たのは、答えとは全く関係のないものだった。


「わたくしはずっと、あなたを待ち続けておりました。何度も、何度も、季節を重ねながら……。そうして、ようやく出逢えました。――あなたと、今度こそ添い遂げられるように……」


 何言ってんだ、と遥人は笑い飛ばすつもりだった。

 しかし、出来なかった。

 少女は真っ直ぐに遥人を見据え、遥人もまた、少女に釘付けとなる。


 また、ふたりの間に沈黙が流れた。

 春先のひんやりとした風がさわさわと吹き、遥人の全身を掠め、少女の長い髪を緩やかに凪いでゆく。


 しばらくして、遥人の頬に触れていた少女の手がゆっくりと離れた。


「もう少しだけ、待たねばならないようですね」


 少女はそう言うと、口元に笑みを湛えた。


「わたくしは、ずっとここにいます。ですから……、また、こうして逢いに来て下さいますか……?」


「――うん」


 ほとんど無意識に、遥人は頷いていた。

 少女に逢う理由なんてない。

 ないはずなのに、何故か、これからも少女と逢わなくてはならない。

 そんな気がした。


 困惑している遥人とは対照的に、少女は先ほどとは打って変わり、嬉しそうに満面の笑みを見せた。


「わたくし、待っております。あなたが、わたくしを想い出して下さるまで、ずっと……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ