禁断の質問
「なぁ、もし無人島に行くとしたら何持ってく?」
なんか知らないけど、時々話題になるよな、これ。
それを聞いたからって何がどうなるわけでもないんだけど、なんやかんやひとしきり盛り上がって、いつの間にか終わるこのネタ。
この時も、どういう流れで、誰が言い出したかわからないけど、休み時間、気が付いたら、クラス中がこの話題で持ちきりだった。
男女関係なく、全体に仲いいんだよな、ウチのクラス。
イケてるグループ、イケてないグループみたいなのもないし。
なもんだから、こんなしょーもないネタでも、みんな食いついてくる。
「水でしょ、水。水があれば、助けが来るまでの間、何とかなるし。」
「この場合、自分の意思で無人島に行くのか? なら、スマホとか、外部と連絡取れるモン持ってって、飽きたら迎えを呼ぶ。」
「無人島だよ? 圏外じゃない?」
「大工道具とか? 住む所作ったり、いざとなったら、脱出用のいかだ作ったり。」
「野菜の種持ってくってヒトいたなぁ。」
「収穫できるまでどうすんだ?」
「枕! 枕変わったら、絶対寝れない!」
「虫除け!」
「日焼け止め!」
「青い猫型ロボット!」
「それ、無人島じゃなくても、フツーに欲しいヤツ!」
まあ、だいたい定番メニュー出尽くした辺りで、そいつが教室に入ってきた。
そいつは、バカ騒ぎするようなタイプじゃないけど、決して暗いワケでもなく、いつもニコニコしながら、みんなの話を聞いている、そんなヤツだ。
自分から積極的に話したりはしないけど、話題を振れば答えてくれる、だから、ごく自然に同じ質問を投げかける。
「今さ、無人島に行くとしたら何持ってく、って話してたんだけど、お前なら何持ってく?」
お調子者やおもしろキャラじゃないから、食料とか無難なこと言うかな。
遅れての登場で、図らずもクラス中の注目を集める格好になったから、なんか、ウケ狙いなこと言うかな。
『えー、無人島? そもそも無人島には行かないよー。』
みたいなこと言って回避するかな。
クラス中の視線を一身に受けてなお、そいつはいつも通りのニコニコ顔、穏やかな物腰でサラリと答えた。
「積年の恨み、かな?」
凍りつく教室。
(今の、ボケ? 素?)
(ボケだとしても笑えないし、素だったらなおさら笑えないんだけど!)
(なんか恨み買うようなことしたっけ?)
相変わらずの微笑みに、真意がくみ取れない。
誰も一言も発せない異様な空気など全く気に留める様子もなく、そいつはさっさと自分の席に着いた。
始業のチャイムをきっかけに、クラスの時間がようやく動き出す。
そいつが教室に帰ってきてチャイムが鳴るまで1分もかからなかったと思うけど、この時は異様に長く感じた。
その後、そいつもフツーだし、そいつに対するクラスメイトの態度にも変わりはないけど、なんとなく暗黙の了解で、無人島ネタは封印された。