表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

その考えが正義なの?

物の見方

作者: lätt

 旧友と会う為に久々に地元へ帰ってきた。もう10年近く帰っていない。親戚の三回忌以来だろうか。私は旧友が指定した懐かしい喫茶店へ向かった。その喫茶店は私や旧友、その他の者達が遊び、考え、悩み、楽しんだ場所だ。彼がこの場所を指定したのもきっと何か意味があるんだろう。

 喫茶店につくと窓際のテーブル席に座った。この位置であれば彼も私が到着していることに気がつくだろう。彼を待つ間、鞄に入れていた読みかけの小説を読み待っていることにした。

 小説を開いた時、カウンター席の二人の男の会話が耳に入ってきた。妙に大きな声で話し始めたものだから自然と意識が会話へと向ってしまった。

「そういえば、この間話題になったニュースを覚えているかい?」

「えぇっと…ネットで叩かれて放送中止になってしまったコマーシャルのことかい?」

「そう、そのニュースのことなんだけどね。君はあのコマーシャルを正直どう思っている?」

「あれはひどいコマーシャルだったね。女性に対する性差別だよ。」

「なるほど、君はそう感じたのか。」

「なぜそんなことを聞いたんだ?」

「君はもし、あのコマーシャルの男性・女性が逆だったらどう感じる?」

「つまりあのコマーシャルに出ている上司が男性から女性に、部下が女性から男性に変わるってことかい?」

「そうだ、その場合君はそのコマーシャルを見て男性に対する性差別だと思うかい?」

「うーん…僕はそうは思えないなぁ。」

「そうだろう?それどころかきっと、なんてことない普通のコマーシャルと思うだろうね。」

「つまり君は何を言いたいんだい?」

「男性が言われても何も違和感を感じないのに、女性が言われていると性差別だと感じる。2つのパターンの登場人物は同じ人間であり同じ境遇、違いは“男性か女性か”だけだ。つまり君は意識しなくとも自然と心の中で、“女性のほうが男性よりも格下”だと性差別しているんだよ。」

「…あまり納得したくないことだね。自分が無意識に性差別しているだなんて。」

「なあに、気にすることは無い。これはルビンのつぼと同じさ。」

「確かつぼにも向かい合った人にも見える絵だね。…中学校くらいの時に習ったっけな。」

「最初にその絵をつぼが描かれているように見ていた者も、一度『向かい合った人の絵だ』と言われてしまえばそうとしか見えなくなってしまう。このコマーシャルも同じことで、一度『これは女性に対する性差別だ』と誰かが言えばそうとしか見えなくなってしまうんだ。たとえ最初に見たときに『普通のコマーシャル』だと思っていた人もね。どんなものも結果的には見方の問題なんだ。」

「つまり一番女性に対して性差別をしている人は、最初にこのコマーシャルは女性に対する性差別だと言った人ということだね」

「なるほど、そう捉えることもできるな。さっきの話の最後の部分に『ちょっと立ち止まって、物事を別の視点から捉える事が大事』と書かれているんだ。僕らは感情的になってそのことを忘れているみたいだな。」

「そんな大切なことを中学校くらいで習っただなんて、皆、中学校から勉強をし直した方がいいんじゃないか?」

「たしかにその通りだな」

 二人の男は高笑いした後、手元にあるコーヒーカップに入っている飲み物を飲み干し、席を立った。会計を済ませ、店から出ていく男たちとすれ違いに私の旧友が浮かない顔をして店へ入ってきた。軽い挨拶を済ませしばらく沈黙が続いた後、私から口を開くことにした。

「…お前は、この間話題になったニュースを覚えているか?」

引用:「ちょっと立ち止まって」桑原茂夫著


この話の中で一番最初に「このコマーシャルは女性に対する性差別だ」と言った人が一番差別している、という書き方をしていますが、発言しなければ何も話は始まりません。もしかしたら本当に制作側の差別の意図があったかもしれません。どうか、これを読んだことによって発言を恐れることのないように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 作風が僕好みでした! 次回作楽しみにしています!
2016/11/28 02:37 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ